第49話 慌ただしい朝

 


 ・・・数日後・・・



 ◆かえで視点  一ノ瀬家  寝室



 只今の時刻は夜23時45分。連休もあっという間に終わり、私はいよいよ明日からお仕事が始まります。残りの休みは何処も出掛けずにエルちゃんと遊んだり、お勉強を教えたりと色々充実していました。エルちゃんとイチャイチャしてるだけで、時間があっという間に過ぎてしまいます。


 現在私はベッドで横になりながら、エルちゃんを寝かし付けようとしています。葵ちゃんはお風呂に入っているので、今はベッドに私とエルちゃん2人だけ。


「はぁ……今日で連休も最後かぁ。休みはあっという間だね」

「――――――?」

「うふふ♡ エルちゃん、明日からお姉ちゃんお仕事なの。良い子で葵ちゃんとお留守番して待っててね♪」


 エルちゃんがウトウトし始めているので、そろそろ寝ちゃいそうですね。うさぎさんのモフモフパジャマを着たエルちゃんは、とても愛らしく抱き心地が最高です♡


「すぅ……すぅ……」

「寝ちゃったかな? よいしょ」


 エルちゃんを私のお腹の上に乗せて……これで良し! 私も明日からお仕事だから、エルちゃんを抱いて英気を養って置かないと。エルちゃん体重が軽いから丁度良い重さですね♪ 私の胸を枕代わりにしてと……


「お姉ちゃんずるいよ! エルちゃん独り占めにするのは駄目だよ!」

「うふふ……葵ちゃんも私の胸を枕代わりにして寝る?」

「もう! 私は子供じゃないよ……」


 葵ちゃんも可愛いですね♪ 何だかんだでお姉ちゃんっ子ですから。葵ちゃんは顔を赤くしながらベッドに入って来ました。


「葵ちゃん、お姉ちゃんが腕枕してあげるよ?」

「もう、しょうがないお姉ちゃんだなぁ……やれやれ」


 私は右腕でエルちゃんを抱いて、左腕は葵ちゃんに腕枕をして今日は寝るのです。葵ちゃんの髪の毛からリンスの優しいシトラスの香りがしますね♪ 葵ちゃんも隠れ甘えん坊さんだから、私がリードしてあげないとちゃんと甘えてくれないのです♪


「エルちゃん幸せそうな顔で寝てるね〜涎まで垂らしちゃって♪」

「エルちゃんは食いしん坊さんだからね〜でも、ここでの生活にも少しは慣れてくれたかな?」


 時に厳しく叱る事もあるかもしれませんが、私はエルちゃんに優しく接してあげたいです。好きなだけ私や葵ちゃんに甘えて来て欲しいものですね。エルちゃんは最初の頃に比べて、私達に段々と心を開いて来ていますが、まだ何処か遠慮気味な所もあります。


「お姉ちゃんは明日からお仕事だから、早く寝ないと駄目だよ?」

「うん、そろそろ寝るよ〜また明日から葵ちゃんの手作り弁当食べれるね♡」


 平日は葵ちゃんが、私の為にお弁当を用意してくれるのです♪ 私のお昼休みの楽しみの一つです♪ でも、たまに葵ちゃんを怒らせてしまうとその日のお弁当は、ご飯と梅干しだけという、日の丸弁当になる事もあります。過去に一度だけ、逆日の丸弁当と言う地獄を見た事もありました……梅干しが9割でご飯が1割と言う……あれは中々にしんどかったですね。


「お姉ちゃん、もっと近くに寄っても良い?」

「うふふ……良いに決まってるじゃない♪」


 葵ちゃんが私の身体にピタッと抱き着いて来ました。今宵は素敵な夢を見れそうですね♪ 


「お姉ちゃんの匂い嗅ぐと何だか落ち着く」

「あらあら、同じシャンプーやボディソープ使ってるのに? 葵ちゃんからも良い匂いがするよ〜」


 葵ちゃんの頭も優しく撫で撫でしてあげました。葵ちゃんも口では、そう言うのは良いからと恥ずかしそうに言いますが、もう♡ 素直じゃありませんね♪ エルちゃんが寝ている今だからこそ、こうして甘えてくるのかもしれません。


「ベッドももう少し大きいのに変えた方が良いかしら? 3人だと狭いし……」

「お姉ちゃん、狭いから良いんだよ。広いより、こうして姉妹3人で肌を感じながら寝る方が良いじゃん」

「おおぉ……今日は葵ちゃんがやけに積極的だね〜」


 イチャイチャするのもこの辺にして、明日に備えて早く寝てしまいましょうか。よし、明日から頑張るよ!



 ・・・翌日・・・



「ピピッ……ピピッ……ピピピピピピピピピピッ!」

「ん〜あと少しだけ……」


 目覚まし時計を止めようと視線を向けたら……


「……………………………」


 ん? えっと……7時52分!? や、やばい遅刻しちゃう!? 私の会社は8時半から始業開始なので、遅くても8時10分には家を出ないと間に合いません!


「エルちゃんちょっとごめんね」

「ん〜むにゃむにゃ……」


 エルちゃんはまだ気持ち良さそうに寝ていますね。隣りを見れば葵ちゃんもぐっすりと眠っていますね。私はエルちゃんを起こさないようにベッドに横に寝かせます。


「あ、葵ちゃん! 大変だよ! お姉ちゃん遅刻しちゃう!」

「んんっ……もう朝か……今何時かな?」


 葵ちゃんは眠そうに目を擦りながら、目覚まし時計を見ました。そして、目を見開いてから慌てて飛び起きました。


「しまったああああああああぁぁぁっ!! 寝坊した……お弁当作る時間が無い……お姉ちゃんごめんね」

「お姉ちゃんも寝坊しちゃったから、葵ちゃん気にしなくて大丈夫だよ♪ お昼は会社の購買で適当に買って食べるから」


 私はパジャマを脱ぎ捨て、急いで会社の事務服に着替えます。寝癖を治して顔を洗って……あぁ、時間が無い!


「お姉ちゃん! 鞄とこれここに置いておくね! 朝ごはん食パン焼いて、バター塗って準備しておくから!」

「うん、ありがとう!」


 連休後の朝は慌ただしいですね。エルちゃんの事は葵ちゃんに任せて、私は自分の準備をして会社に行かなければ。葵ちゃんは1階に降りて行き、私の朝ごはんを急いで準備してくれています。


「エルちゃん、行ってくるからね♪」


 私は気持ち良く寝ているエルちゃんの頬っぺたにキスをしてから、1階へと降りて行きました。



 ・・・時刻 午前 8時10分・・・



「お姉ちゃんパンツちゃんと履いた? 服も裏表間違ってない? 携帯や財布も持った?」

「大丈夫だよ! それじゃ行ってきま……あら、エルちゃん起きちゃったの?」


 何とエルちゃんが、目を擦りながら玄関まで見送りに来てくれたのです! うさぎさんのモフモフパジャマ姿の小さな天使ちゃん♡ 目の保養ですね♪


「―――――――――!?」

「え、どうしたのエルちゃん?」


 エルちゃんは大きく目を見開いてから、涙目になりながら私の身体に抱き着いて来ました。まるで信じられない光景を見た時のような反応です。


「ふぅええええぇぇぇぇんっ!!」

「エルちゃん!? 急にどうしたの!? 私は今からお仕事行かないと……」


 エルちゃんが私の足にしがみつきながら号泣しています。予想外の事態に私や葵ちゃんも困惑しておりました。もしかして、私がお仕事へ行っちゃうのが寂しいのかな?


「エルちゃん? お姉ちゃんお仕事行くだけだから、夕方には帰って来るから、心配しなくても大丈夫だから、ね?」

「ぐすんっ……かえでねーたん?」

「はぅっ♡ か、可愛い……葵ちゃん、助けて! これじゃお仕事に行けないよぉ……くぅ……今日はもう有給を取るか……」


 私の心が……会社に行こうとする意思が段々と弱くなって来ています。エルちゃんを流石に会社に連れて行く訳には行きません。不安そうに上目遣いでこちらを見るエルちゃん……心肺停止しそうです。


「お姉ちゃん、馬鹿な事言ってないで早く行かなきゃ」


 葵ちゃんがエルちゃんを優しく抱っこして宥めております。私はエルちゃんの頭を撫で撫でしてから、急いで靴を履き玄関の扉を開けて会社へと向かいました。


「お、お姉ちゃん! 鞄忘れてるよ! それにその靴は私のだよ!」

「へっ? あっ、危ない所だった……葵ちゃんありがとう! それじゃ行って来ます!」

「お姉ちゃん!? スカート! スカート捲れてパンツが見えてるよ! あぁ……行っちゃったよ」


 私は食パンを咥えながら、全力疾走で会社へと今度こそ向かいました。後ろの方で葵ちゃんが何か叫んでいますが、今は時間が無いので帰ってから聞きましょう。

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