第41話 第一次台所大戦の開幕
◆エルちゃん視点
「んん〜んぅ?」
あれ? いつの間に家に戻って来たんだ? そして僕は、気付けばベッドの上で寝ておりました。見覚えのある天井です。
「うぅ……」
あ、そうか……僕はウルフを前にして、思い切り転んで泣いちゃったんだ……あのウルフ、僕にスキルか魔法を使ったに違いありません。あんな何も無い所で、僕が転ぶ何てありえません!
「あれ? 僕泣いちゃった後どうなったんだ?」
それから先の記憶が無い……お姉さんに抱かれた所までは覚えて居るのだけど。
「恥ずかしい……幼女になってから、感情が凄い不安定……痛い事あると泣いちゃうし……しかも、何故だかお姉さん達に甘えたい気持ちが日を増す事に強くなってる……」
僕はお姉さんに迷惑ばかり掛けてる……ここらで名誉挽回しなければ、僕の沽券に関わります。将来Sランク冒険者になるんだ! しっかりしなくては……
「僕お姉さんにプロポーズしてしまったんだよね……恐らく言葉は通じて無いから相手は分からないとは思うけど」
後から思い出すと恥ずかしさの余り顔が赤くなってしまいます。何であんな事言ってしまったのか……確かに内心ではお姉さんが好きだし、将来こんな優しくて美しい人が僕のお嫁さんになってくれたら物凄く嬉しい。
「過ぎてしまった事はしょうがない……よし、僕が出来る男だと言う所をお姉さんに見せてやる! そしたらお姉さんも僕に惚れるかもしれないな」
「――――――♪」
「あ! お姉さん!」
お姉さんがニコニコしながら部屋へ戻って来ました。僕は身体を起こしてお姉さんの元へ駆け寄ります。
「お姉さん! その格好をしているという事は、ご飯作るのですね! 僕もお手伝いします!」
「――――――♪」
今の僕はやる気に満ち溢れています。今なら何でも出来そうな気がします!
◆
「あらぁ、エルちゃん起きしたの?」
「――――――!」
あれから私達は、明智商店の帰りにコンビニに寄ってから帰宅しました。エルちゃんが途中でお寝んねしちゃったので、ベビーカーに乗せようとした所、エルちゃんが私の身体にしがみついて離れなくてもう大変でした♡ 私は結局エルちゃんを抱きながら帰宅して、リビングのソファに寝かせておりました。
「甘えん坊さんでちゅね♡ エルちゃん、お昼ご飯にしよっか♪ お弁当買ってきたからチンしてみんなで食べよう!」
「んぅ……?」
エルちゃんは私を上目遣いで首を傾げながら見つめて居ましたが、その後エルちゃんは小さくガッツポーズをして何やらやる気に満ち溢れておりました。
「まずは電子レンジでチンして、お茶の用意と……」
「――――――。」
私が歩き始めるとエルちゃんも私の服の袖をつまみながら後ろを着いてきます。私が立ち止まるとエルちゃんも立ち止まり、また歩き始めると私の後ろを付いてきます。何だかカルガモの親子みたいで楽しいです♪
「エルちゃんもしかして、何かお手伝いしたいの?」
「――――――♪」
エルちゃんがぴょんぴょんと飛び跳ねて、私に何か言っていますね。とりあえず尊いのでスマホで写メを撮っておきましょう。
「よし、エルちゃん。じゃあお姉ちゃんと一緒にこのお弁当達を温めてみようか♪ エルちゃんにはハンバーグ弁当を買ってきてあるからね♪」
私はカルボナーラ、葵ちゃんは醤油ラーメンです。私は袋からそれぞれのお弁当を取りだしてキッチンの上に並べました。するとそれを見ていたエルちゃんが目をキラキラと輝かせながら興奮しております。
「――――――!? ――――――!!」
「うふふ……そんな興奮するほど嬉しいの?」
じゃあまずは、エルちゃんのハンバーグ弁当から温めて行きましょうか♪
「エルちゃん、それじゃあ電子レンジの扉を開けて、このハンバーグ弁当を入れてみよう!」
「――――――!? ――――――?」
「あ、これは電子レンジと言うの。と言ってもエルちゃんにはまだ分からないかな? これを入れてボタンを押すとあら不思議♪ お弁当が温まるんだよ♪」
エルちゃんは恐る恐る電子レンジに近付き、何やら指でつんつんとして警戒しております。耳もピクピクと動いていて、今すぐにでもエルちゃんを愛でてあげたいです♪
「エルちゃん、ここの扉をこうやって開けて、お弁当を入れるんだよ♪」
「――――――!?」
「あれ? エルちゃん、お弁当持ってどこ行くの?」
エルちゃんは後ろに下がって涙目になりながら、ハンバーグ弁当を家宝のように大事に持っています。もしかしたら、エルちゃんはこの電子レンジにハンバーグ弁当が食べられてしまうのではと勘違いしているのかもしれませんね。
「エルちゃん大丈夫だよ〜お弁当温めるだけだから。電子レンジはエルちゃんのお弁当を食べたりしませんよ〜♪」
「――――――?」
「じゃあ先にお姉ちゃんのお弁当から温めようか?」
ここは私が実演して見せる他ありませんね。と言うかエルちゃん可愛い過ぎィッ!! 涙目になりながら、ハンバーグ弁当を家宝のように持っている幼女とか……私、イケナイ性癖が目覚めそうで怖いわ……エルちゃん……何て恐ろしい子なの。エルちゃんと一緒に過ごすだけで性癖が段々と歪んで行きますね。もう私、エルちゃんに完全に依存してるかもしれません。
「ごほんっ……それじゃあ私のカルボナーラを入れて……」
私は、一瞬思考がフリーズしてしまうかと思いました。電子レンジの上に……一ノ瀬家の最大の天敵……
「きゃああああああああああああああっ……!?」
「――――――!?」
無理! 無理無理無理! 私ゴキブリ見ると鳥肌立って、もう駄目です……ゴキブリ何て滅んでしまえば良いのに……
◆ゴキブリ視点
「よぉ、俺の名前はゴキオ。種族はゴキブリと言うそうだ」
俺は現在人間の家に潜伏して、食べ物を漁りに来ているんだ。世の中世知辛くてなぁ。俺には唯一の家族、妹のゴキ子が居るんだ。これがまた可愛くてなぁ〜目にも入れても痛くないと言うのは、まさにゴキ子のような事を言うんだろうな。
「俺はゴキ子に腹いっぱい美味しいご飯を食わせてやりてぇ、もうあんな悲劇は起こさせねえ」
そう、俺たちの親が人間の仕掛けた悪意ある罠に寄って、母ちゃんと父ちゃんは命を落としたんだ。父ちゃんと母ちゃんは最期に俺にこう言ったんだ……【ゴキオ……ゴキ子と一緒に強く生きて……幸せになるんだよと】
「あぁ、やってやる。幼いゴキ子の為にも美味しい食べ物を持ち帰ってやるんだ!」
「お、お兄ちゃん……」
「おお! ゴキ子! 起きたのか!」
俺の妹のゴキ子がどうやら目を覚ましたようだ。相変わらず可愛い奴め♪
「お、お兄ちゃん。私の為に無理しちゃ駄目だよ?」
「ゴキ子、心配するな! お兄ちゃんが人間の美味しい食べ物を持って来てやるからな! もう、人間の零した残飯やゴミを漁るのも卒業だ!」
「お兄ちゃん……」
俺は妹の笑顔が見たいんだ。俺の分は要らねえ……ゴキ子が笑って安心して暮らせる世の中が欲しいだけなんだ。俺らは人間や猫、色々な種族の奴から敵対されている。だかな、ゴキブリにも幸せになる権利くらいある筈だ!
「ゴキ子は安全な所で隠れていろ、俺はあの間抜けそうな顔をした小さい人間の持っている食べ物を狙う」
「お、お兄ちゃん! 無理しちゃ駄目だよ! 私はお兄ちゃんが居るだけで十分だから! それに最近あの白い悪魔……白猫がこの家に住み着き始めてる。危ないよ!」
俺は妹を暖かい目で見つめた。男がやると決めた以上必ずやり遂げて見せる。
「ゴキ子……お兄ちゃんを信じてくれ」
それにあの小さい耳の長い人間には、礼を返さなくては行けないのでな。こないだ、壁を駆け巡っていた所をあの小さな人間に襲われたんだ。あんな固いものを投げて当たってたら、俺の命は無かったのかもしれねえ。
「これは、リベンジでもある。底辺の意地……見せてやらぁっ!」
各して、ゴキオとエルちゃんの戦いの火蓋は切られたのであった。
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