第17話 初めてのベビーカー

 

「きゃっ……エ~ル~ちゃ〜ん?」

「――――――!? ――――――!!」


 エルちゃんが洗剤でキャッキャと遊んでおります。そして私の胸や顔に白い液体の洗剤が付いてしまいました。エルちゃんの顔が段々と青ざめて行きます。こっそりおやつを食べて、お母さんにバレた時のような表情を浮かべております。


「エルちゃんには~お仕置きが必要ね♪ えいっ!!」

「――――――!?」


 私はエルちゃんの顔にべったりと泡を付けて、少しいじわるしてしまいました。エルちゃんの可愛い反応が見たくて泡をお顔に付けてしまったのですが……


「ぐすっ……うぅっ……ふぇぇぇぇええええんん!!」

「あぁっ! エルちゃんごめんね! おめめに泡入っちゃった?」


 あ……やりすぎてしまいました。私は慌ててエルちゃんの目を水で洗い、優しく抱き締めてあげました。


「よしよし♪ 痛かったでちゅね~」

「あ〜楓がエルちゃん泣かした! 妖怪乳デカ悪女~♪」


 どうやら明美やタマちゃんが目撃していたようです。明美は後でしばいて置きましょう♪


「っ!! むむっ……」

「エルちゃん、ごめんね。お姉ちゃん物凄く反省しました。だからこっち向いてよ~♪」

「ぷいっ!」


 エルちゃんが拗ねてしまいました。私は試しに、戸棚から買って置いた秘密兵器……108円のクリームパンをエルちゃんの前にチラつかせて見ました。


「――――――っ!?」

「あらぁ、見つかっちゃった♪」


 私はエルちゃんの前にクリームパンを持って行きました。エルちゃんが両手で取ろうとした瞬間に戸棚にクリームパンを戻します。エルちゃんは頬を膨らませて、涙目になっております。少しいじめ過ぎてしまいましたね。


「もう無理! 限界っ! 可愛いっ!! エルちゃん……ムギュっ!!」

「ぐぬぬっ……んふぅ」


 私はエルちゃんの身体を思い切り抱き締めました。見てるだけで庇護欲がそそられてしまいます。食べ物に良く釣られて、ご機嫌になるちょろいエルちゃん。甘えん坊で寂しがり屋さんで何しても可愛い女の子♪


「楓……顔が変態よ?」

「ん~どういう事かな?」

「にゃ~ん♪」


 全く、失礼ですね。私はほんの少しだけ幼い子が好きなだけのごく普通の女ですよ。


「ピンポーン♪」


 玄関の方からチャイムが聞こえて来ました。もしかしたら、私が昨日通販で頼んで置いた物が、速達で届いたのかもしれません。


「明美、ちょっとエルちゃん見てて」

「おけ~エルちゃん~お姉さんが抱っこしてあげる!」



 ◆



「お姉さんのいじわるぅっ!! 高級パン目の前に出されたら、誰だって釣られちゃうよ! もう!」


 僕がプンスカしていたら、お姉さんは息を荒らげて僕の身体に抱き着いて来ました。僕は驚く暇もなくされるがままです。しかし……


「ぐぬぬっ……お姉さん、当たってますよ!!」

「――――――♪」


 僕の顔は現在お姉さんの豊満な胸に顔を埋めております。お姉さんの胸は、弾力があってぷにぷにと柔らかく暖かいです。


「ピンポーン~♪」


 何やらピンポーンと言う誰かの来客を知らせる音が鳴ったみたいだ。お姉さんは僕の頬っぺにキスしてから部屋から出て行ってしまいました。僕はその間お姉さんの知り合いの女性に抱っこされたり、撫で撫でされたりと借りて来た猫の様な状態でした。そしてしばらくしてからお姉さんが荷物を沢山抱えて部屋に戻って来ました。


「何これ……」

「――――――♪」


 お姉さんが大きな箱を往復して部屋に運んでおります。中にはずっしりと色々な物が入っていそうです。全部で7箱ありますね。


「――――――♪」

「え? この箱を開けるの? 僕が?」


 僕はお姉さんのジェスチャーで何となくお姉さんの言いたい事が分かりました。僕はさっそく箱を開けようとするのですが……


「これ……どうやって開けるの?」

「――――――♪」


 お姉さんが困惑している僕に対して、クスクスと笑いながら箱にくっ付いてる茶色の紙を剥がしてくれました。僕もお姉さんの真似をするように茶色の紙を剥がすのですが、問題が発生しました。


「っ!? 裏面がベトベトしてゆ! 手にくっ付いた!」

「――――――♪」

「何だこの紙は……見た事がないぞ。これも高く売れるのかなぁ?」


 お姉さんが箱とは別に部屋の外から、大きな黒色の車輪が付いた物を持って来ておりました。透明な物に包まれており、いかにも高級品と言う感じです。


「っ!? 変形だと……こりわ……僕は知ってるぞ! 4輪のタイヤ……高そうな雰囲気……間違いない、貴族様が乗る馬車だ!」


 まあ、僕は本物の馬車を見た事が無いので本当かどうかは分かりません。しかし僕のイメージしていた馬車は、もっと大きなイメージです。どうみても1人用……と言うかお姉さん達が乗れるサイズではありませんでした。


「え? 僕がこれ乗って良いのですかっ!? でも僕は卑しいスラムの平民ですよ……」

「――――――♪」

「んみゃっ!?」


 僕はお姉さんに抱っこされて、黒色の馬車へと乗せられてしまいました。しかも馬車には安全面を考慮してあるのかベルトまで付いております。これは万が一に事故しても大丈夫という物なのでしょうか……


「凄いふわふわだ……こんなにも座り心地が良いとは……貴族の馬車恐るべし……」

「――――――♪」


 僕が座り心地を堪能していると馬車が急に動き始めました。部屋の中をゆっくりとぐるぐる回っております。


「しゅごいのお! 動いた! 僕、貴族の馬車に乗ってるよ!!」


 僕は初めて乗る馬車に興奮して、思わずはしゃいでしまいました。お姉さん達が声を上げて何か言っていますが、僕のテンションは最高潮に上がっていたのであまり気にはなりませんでした。


「ふふっ……そこのけそこのけ! 大魔道士エル様が通るぞ! ワッハッハー!!」


 しかしエルちゃんはこの時気付いて居なかった。本物の馬車にはちゃんと馬が居ることに……そしてこの乗り物は……



 ◆



「うわ、通販でどんだけ買ったのよ」

「エルちゃんの服や絵本にお勉強用具やおもちゃ等沢山よ! 通販は便利よね~」


 明美が私が購入した通販の物の量に驚いております。私も通販で、こんなに沢山買うのは初めてです。まさかお値段が10万超えるとは……


「明美! 後これ見てよ! じゃ~ん!」

「こ、これは……ベビーカー?」

「うん! 大きいサイズのね♪ 素材も良い物を買ったのよ♪」

「確かにエルちゃんは小柄で幼いけど……これ乗れるの? あ、エルちゃんならまあ行けなくは無いのかな」


 私は早速新品のベビーカーを袋から出しました。エルちゃんはこちらをキョトンと見つめており、何か全く分かって無さそうな表情をしていました。


「エルちゃん~♪ もし今度お出掛けする時は、これに乗りましょ~ね♪」

「――――――??」

「よいしょっと……」


 私はエルちゃんを抱っこして、試しにベビーカーに乗るかどうか確認して見ました。


「おおっ! 良いね! 本物の赤ちゃん見たい♡」

「――――――!?」

「心配しなくても大丈夫でちゅよ~♪ よしよし♡」


 私はエルちゃんを乗せてガッチリとベルトを閉めてあげました。エルちゃんもとても気に入った様子です。 キャッキャと騒いでいます♪ それからベビーカーをゆっくりと押して、室内を回りました。エルちゃんが凄く喜んでくれています♪


「楓、こっちのダンボールの中身はうさぎさんのぬいぐるみとおしゃぶりにオムツとか入っているわよ?」

「それね、一応買っといたの! エルちゃんまたお漏らししちゃいそうだからオムツは居るかな〜って」

「うさぎさんのぬいぐるみとオムツは分かるけど、おしゃぶりって……これじゃあ完璧に赤ちゃんじゃない」

「ふふっ、おしゃぶりをしたエルちゃん。きっと可愛いわよ~♪」


 私ははしゃいでるエルちゃんに対して、お口におしゃぶりを咥えさせて見ました。エルちゃんは突然のおしゃぶりに驚いて固まっております。更にうさぎさんのぬいぐるみも一緒に渡しましたが……


「「はうっ!? 可愛い!!」」


 私と明美は、それはもうエルちゃんの可愛さに悶絶しておりました。ベビーカーに乗りながらうさぎさんのぬいぐるみを抱いて、おしゃぶりをしているのですよ! 可愛いが過ぎます! 


「――――――?? へくちっ……」

「あらあらぁ♡ 可愛いらしいくしゃみでちゅね~おしゃぶり落ちちゃったね」

「――――――??」

「あらあら、エルちゃん熊さんのおパンツ見えちゃってるよ~女の子は、スカート周りを気にしないとダメでちゅよ~♪」


 エルちゃんは現在白いワンピースを着ております。ベビーカーに興奮していたからなのか、エルちゃんのスカートが捲れ上がってしまってます。


「にゃにゃっ!!」

「にゃ? うさぎさんのぬいぐるみ気に入ってくれたのかな? このぬいぐるみはモフモフしてて触り心地良いわね~♪」


 エルちゃんがうさぎさんのぬいぐるみをモフモフして顔を埋めております。こんなにも喜んでくれて私は嬉しいです♪

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