第15話 野良猫のタマちゃん

 

「ふぇぇええええんんんっ!!!」

「エルちゃん!? ほ〜ら怖くないでちゅよ〜よしよし♪」


 我が家の幼いお姫様が盛大に泣いております。私と明美や葵ちゃんの3人で何とか宥めようとしますが、エルちゃんは身体を震わせながら私の胸に顔を埋めて号泣しています。


「ほ~ら、もう揺れてない揺れてない♪ 大丈夫でちゅよ~♡」

「楓の巨乳が揺れているわ……私に対する宣戦布告かしら?」

「今は胸関係無くない!?」


 明美は自分の胸と私の胸を交互に見比べて、無い胸を頑張って寄せようとしています。


「そんなことより、エルちゃんを宥めないと」

「エルちゃん! ほら、クリームパンだよ! はい、あ〜んして♪」


 葵ちゃんがクリームパンを一口サイズにちぎって、エルちゃんの小さなお口にほれほれと持って行きます。するとエルちゃんはパンをパクリと食べて、少し泣き止みました……エルちゃんが泣いた時にクリームパンは役立ちそうですね。



「エルちゃん、大丈夫だから。お姉ちゃん達が付いてるから何も怖くないでちゅよ~」

「ぐすんっ……――――――んぅ??」

「うん、何も起きてないでしょ? よしよし♡」


 エルちゃんは沢山泣いておめめが真っ赤になってしまいました。ここでまた新たに1つ分かった事は、エルちゃんは臆病で怖がりさんだと言う事です。それに甘えん坊さんで可愛いです! ことある事に可愛いと言ってしまう私の語彙力は最早無いに等しいのかもしれません。


「お姉ちゃん、さっきの地震震度4だって。震源はそう遠くは無いね」

「そうなんだ。地震は忘れた頃に来るもんね……自然災害はどうしようも無いからね……」


 葵ちゃんはスマホの地震速報を見て私達に情報を教えてくれました。そしてエルちゃんも落ち着いてくれたのは良かったですが、また救急車やパトカーのサイレンに驚いてしまっては埒が明かないです。


「スマホで救急車やパトカーの動画をエルちゃんに見せてあげようか。音も流せばエルちゃんも何となく分かってるくれるかも!」

「じゃあ早速開いて見よ! 楓、エルちゃんを私の膝の上に頂戴!」

「エルちゃんはお胸が大きい人の方が良いそうですよぉ~ね~」

「うっ……胸何てただの脂肪の塊よ! そんな大きいと肩凝るだけだし~私はこのサイズが丁度いいと思うのよ」


 明美が段々と早口になって行きます。私は適当に相槌を打ってはいはいと答えました。明美は貧乳なので胸の話しをするといつも鮮やかに撃沈しています。


「――――――?? うにゅ?」

「あらあら……エルちゃんの胸はこれから成長するから心配しなくても大丈夫だよ~♪」


 エルちゃんは私と明美の胸を見てから、自分の胸をじっーと凝視しております。どうやら私達の話しが、雰囲気で何となく分かっているみたいですね。


「にゃ~ん」

「あら? タマちゃんじゃない♪」


 ちょうどその時、外から野良猫のタマちゃんが窓からこちらの様子を見ておりました。この白い毛並みの猫は、半年前から家の庭に住み着いている猫ちゃんです。私達がお世話していたからか、凄い人懐っこいのですよ! 可愛いです♪


「っ!? ーーー!!」

「あらあら、エルちゃんも猫ちゃんが気になるの?」


 エルちゃんはさっきまで泣いていたのが嘘のように、猫ちゃんに今度は興味津々です。私はエルちゃんを地面に降ろしてから窓を開けて、タマちゃんを家に入れてあげました。


「タマちゃんだ! ちょっと待ってね~おやつ持って来るから♪」


 葵ちゃんが台所からネコ用のおやつを持って来て、タマちゃんにあげています。


「――――――。じゅるり……」

「エルちゃん……それ猫ちゃんの食べ物だから食べたらダメだよ~」

「――――――!!」


 良いタイミングにタマちゃんが来てくれて良かったです♪ エルちゃんもタマちゃんに近づいて、指でつんつんとタマちゃんを触って上機嫌の様子です。明美は猫ちゃんとじゃれ合ってるエルちゃんの姿をパシャパシャとスマホで撮って悶絶しております。


「タマちゃんも相変わらず可愛いわね~」

「にゃ~ん♪」


 私もタマちゃんを撫で撫でしてあげようと思います♪ 葵ちゃんも明美もタマちゃんの頭や背中をよしよしと撫でていましたが、何やらエルちゃんの様子が少しアワアワとして慌てております。


「――――――!!」


 エルちゃんが何やら頬を膨らませてヤキモチを焼いているみたいです。エルちゃんは私の近くまでトコトコと歩いて来て、私の右手を自分の頭の上に乗せました。これは頭を撫で撫でして欲しいと言う事でしょうか。私は可愛いらしいエルちゃんに、少し意地悪をしたくなってしまいます。私がわざと手をエルちゃんの頭から離すとエルちゃんは、目を大きく見開いて再び私の手を取り、自分の頭の上に乗せるのです!


「くすくす……エルちゃん妬いてるの?」

「――――――。 ――――――!!」

「よしよし♪ そんな泣きそうな顔しなくても撫で撫でしてあげるから♪ エルちゃん大好きだよ~♡」


 エルちゃんはやっぱり甘えん坊さんです♪ ここへ連れて来た初日は少し遠慮気味でしたけど、今では私に良く甘えて来ます♪ お姉ちゃんとしては物凄く嬉しいですね~



 ◆



「また泣いてしまった……お姉さん達を守る筈が逆に……うぅっ……男として情けない……穴があったら入りたい。恥ずかしい……」

「――――――♪」


 僕は未知の恐怖に盛大に泣いてしまいました。あの謎の音の直後に地面が揺れたのですよ!? 魔物達の大軍が押し寄せてきた地響きかと思ったもん。やっぱり僕の感情もこの身体にひっぱられているかのように、幼くなっている。自分で感情の制御が上手く出来ないのだ。しかもおしっこ少し漏らしたかもしれない……あぁ……


「お姉さんに抱かれてると暖かくて、心の奥底がポカポカとして物凄く落ち着く。しかもお姉さんの胸は大きくて柔らかいので、顔を埋めると気持ち良くて最高!」

「――――――♪」

「んにゅ~♪ もっと撫で撫でして」


 僕はお姉さんに沢山甘えました。そして窓の方からこちらを覗く存在にお姉さんが気が付いてから、僕は地面に降ろされました。もっと撫で撫でして欲しかったです。そして、僕は窓から覗く生物を見て度肝を抜かれるほど驚きました。


「ま、まさかっ!? 冒険者ギルドの危険指定ランクA級の精霊猫エレメント・キャットではっ!?」

「にゃ~ん♪」


 テイマーなら誰もが憧れる半精霊の魔物……お供に連れてるだけで、テイマーとしては一流とも呼ばれる程の存在。見た目は可愛いくて多種多様の魔法を扱う事に長け、人には中々懐かない程の警戒心を持つ精霊猫エレメント・キャット


「本物を見るのは初めてだ……しゅごい!」


 しかもこの精霊猫は、どうやらお姉さんに懐いているようだ。やはりこのお姉さんは底がしれない……


「――――――♪」

「……」


 僕はお姉さん達に撫で撫でされている精霊猫を黙って見ていました。何だろう……それにしてもボブカットヘアーのお姉さんが精霊猫に与えているご飯がこれまた美味しそうなのです……僕が男だった頃に食べてた物より遥かに美味しそうだ。僕は精霊猫より、酷いご飯をずっと食べていたのかと思うと何だか涙が出て来そうです。


「むむっ……僕も撫で撫でして!!」


 僕は少し嫉妬していたのかもしれません。撫で撫でされている精霊猫を見ていると自分の中で、何かこう……ドス黒いものが……僕はお姉さんの右手を両手で優しく取り、自分の頭の上に乗せました。


「――――――。」

「っ!? 撫で撫でしてくれないのですか?」


 お姉さんの右手がまた精霊猫の方へと向かいました。僕は再びお姉さんの右手を取り自分の頭の上にしれっと乗せました。今度は泣きそうな僕を見て呆れたのか撫で撫でしてくれました!


「にゃ~ん♪」

「見た目が可愛からって! お姉さんは渡さないぞ!」


 僕は精霊猫に敵意を向けていました。お姉さんが精霊猫に取られると思うと僕の気持ちが凄いざわつくのです! 


「ゴロロ……にゃ~お」

「ヒィッ!? な、何だ!? 僕とやるって言うのか!? 言っておくけど、僕にはこの伝説の杖があるんだぞ! 例え精霊猫と言えど、この杖の前にはイチコロ何だぞ!」


 精霊猫はお姉さん達から抜け出して、僕の目の前までやって来ました。僕は伝説の杖(壊れたおもちゃ)を握り締めて精霊猫に向けました。内心は少し……いやめちゃくちゃ怖いです。僕が見た書物では、愛らしい見た目だが内には獰猛性も秘めているとも書いてあったのだ。油断は出来ません。


「ぼ、僕の【 隕石落下メテオ・ストライク⠀】を喰らったら、タダでは済まないぞ!? あの黒い魔物も撃退したくらいなんだからね!」

「にゃ~ん」

「くっ! 致し方ない……いざ参る! あれ?」


 何と精霊猫は僕の足に顔を当てて、スリスリして来たのである。まさか、僕の事を主と認めた?


「どうして……」

「にゃ~ん♪」


 何だか精霊猫が凄い可愛く見えます。どうやら僕に心を許している様子です。


「しょ、しょうがないなぁ~僕が君の主になってあげようでは無いか! よしよし」

「にゃ~ん♪」


 僕が精霊猫の頭を優しく撫で撫でしていたら、周りのお姉さん達が急に驚いたように声を上げました。肩を震わせる程、僕が精霊猫をテイムした事に驚いているのかもしれませんね。


「よし、君の名前はブライアン! かっこいい名前でしょ!」


 よく見れば綺麗な毛並みで男らしい雰囲気。我ながら良き名前です。僕は今日から一流テイマーに転職です!


「ぐふふ……」

「にゃ~ん♪」


 しかしこの時エルちゃんは気付いて居なかった。この白猫は雌であることに……

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