第14話 音と揺れの恐怖

 

「うぅっ……何これ、苦くて不味い……」

「――――――♪」

「お姉さん……すみません……これ僕には無理そうです」


 僕が食べ物を残すなんて……罪深き行為をしてしまった。でもこの身体になってから何か好みが……この緑色の苦いの食べた時吐きそうだったもん。



「――――――♪」

「わーい! お肉!」


 僕はお姉さんからお肉を頂いて、思わずテンションが上がってしまいました。だってお肉ですよ? え? 肉食のエルフは聞いたことが無い? そんなの知りません! 僕はお肉大好きです♡


「しかし、困ったな」


 僕は自分のお皿の上に沢山残っている緑色の食べ物をどうしようか悩んでました。さっき小さいのを一口食べましたが……


「お姉さん達は何でそんな平気そうな顔で、バクバク食べてるの? 苦くて美味しくない……」

「――――――?」

「あ、いえ! お姉さんの料理が不味いとは言ってないのです! ただこいつが……どうにも僕の身体が受け付けなくて」


 そして僕はふと思いました。お姉さん達からお肉を貰ったんだから、お返しはしなくちゃ行けないと。僕はぎこちない動作で、2つの棒を使い緑色の食べ物……【緑色の大魔王】を掴み上げてお姉さん達の口元へと持って行きます。


「お姉さん! お肉ありがとうございました! 代わりにこいつをどうぞ!」

「――――――♪」


 お姉さんは笑みを浮かべたまま一向に口を開けようとはしてくれません……そして3人の無言の圧が何故か怖かったです。


「くっ! かくなる上は! あっ! お姉さん! あそこに例の黒い魔物が!」

「―――――――――?」


 僕が指をさした方向に一瞬振り向いたお姉さん達の隙を狙って、隣のボブカットヘアーのお姉さんのお皿と僕のお皿をこっそりと交換しました!


「――――――♪」

「え、僕の完璧な作戦がバレてたの!?」


 お姉さん達が笑いながら僕の口元に緑色の大魔王を持って来たのだ。


「こんなの勇者でもきっと討伐出来ないよ! や、やめて! そんなに沢山……ぼ、僕を殺す気ですか!?」

「――――――♪」

「ひゃあああっ!?」


 僕は最終手段として、口を閉じて顔をぷいっと背けました。


「お姉さん……すみません。食べ物を残すなんて罪深い行為だと言うのは分かっております。ですが、今回だけは勘弁して下さい!」

「――――――。」


 どうやらお姉さんは諦めてくれたようだ。罪悪感で胸が一杯になるけど、何とか危機を回避出来ました。そしてボブカットヘアーのお姉さんが席を離れて、何かを取り行って戻って来ました。


「あ、あれはっ!? 神々の至高の食べ物……高級クリームパンでは!?」

「――――――♪」

「欲しい……高級パン欲しい!」


 お姉さんが持って来たお皿の上には、高級クリームパンが何と2つも乗っているのですよ! 僕は思わず机の上をバンバンと叩いて、興奮してしまいました。


「え? くれるのですか!? やったぁ!」


 そして僕が高級パンを両手で受け取ろうとした時に事態は起こったのです。遠くの方から何やら変な音が聞こえて来て、その音は次第にこちらに向かって来てるように感じました。


「っ!? 何事!? も、もしや!? この音はあれなのか!」 


 僕はスラムに住んでいる時に一度だけ経験したことがありました。街に危機が訪れ、当時は魔物の大群が街に押し寄せて来たのです! 音は少し違いますが、街の一大事の時に鳴る音に近い音です! これは魔物の襲撃かもしれません!


「皆さん大変です! 魔物の襲撃です!」

「――――――?」

「――――――♪」

「お姉さん! 呑気にご飯食べてる場合じゃありませんよ! ここは危険です!」

「――――――??」


 お姉さん達は一瞬外の方を見てから、すぐにご飯を食べ始めました。そして僕はお姉さんに何故か頭を撫で撫でとされて意味が分からなかったです。僕はこうしちゃ居られないと思い、椅子から降りて床に置いていた伝説の杖(壊れている)を拾って窓の方に身体を向けて、迎撃体制に入りました。


「なぬっ!? 今度は反対側から別の音が聞こえて来るぞ!? 一体どれくらいの規模のスタンピードだと言うのだ!?」

「――――――?」

「お姉さん……落ち着いて下さい。お姉さん達の事は命を懸けて僕が守ります! ここは僕が殿しんがりを務めましょう……」


 お姉さん達は3人とも口に手を当てて、身体を震わせています。きっと魔物に怯えているに違いありません……僕はお姉さんに近付いて、頭をよしよしと撫でましたが逆にお姉さんに頭を撫で撫でされてから思い切り抱き締められました。僕はお姉さんの恐怖がそれで和らぐと言うのならと思い、優しくお姉さんの身体を抱き締めました。


「「「――――――!? ――――――!!」」」


 何やらお姉さん達は恐怖のあまり興奮してしまっているらしい、そしてまた別の音がこちらに近付いて来ました。


「どうなってるんだ……これは、僕も腹を括るしかないないな」


 幼い金髪のエルフは魔法少女のステッキ(壊れたおもちゃ)を握り締め、神妙な面持ちで窓の外に顔を向ける。一人の戦士が戦場に行くような面持ちである。だがしかし、他の人から見たら美人なお姉さんに抱かれながら真顔になっている幼女にしか見えなかった。中々にカオスな光景である。



 ◆



「エルちゃん~このクリームパンが欲しければ、ピーマンを食べるのだぁ~♪ さもなくばお姉ちゃんがエルちゃんの事食べちゃうぞ~♪」

「楓……あんた何かノリノリね」



 私はエルちゃんにピーマンを克服してもらおうと思います。好き嫌いは良くないですからね♪まずは少しずつでも……


「――――――!!」

「え? どうしたのエルちゃん?」

「――――――っ!」

「窓?」


 エルちゃんは何やら必死な顔で、窓の向こうを指さして何かを言ってます。そして遠くから救急車の音が聞こえて来ますね、他にはパトカーや消防車の音まで。近くで火事があったのでしょうか……


「楓、もしかしてエルちゃんはサイレンに驚いてるんじゃない?」

「音でそんな驚くもん?」

「お姉ちゃん、もしかして救急車やパトカーのサイレンにトラウマがあるとか?」

「トラウマかぁ……」


 どうでしょう……私は取りあえずエルちゃんを落ち着かせようと優しく声を掛けました。


「エルちゃん? あれは救急車やパトカーの音だからそんなに驚かなくても大丈夫だよ~」

「――――――!?」

「え? 魔法少女★みくるちゃんの壊れたおもちゃ持ってどうするの?」

「――――――。」


 何だかエルちゃんの表情が急に真顔になりました。杖を握り締めて、足がプルプルと震えております。その姿を見ていた私達の声は見事に重なった。


「「「何、この可愛い生き物……」」」


 もうやばいです! エルちゃんは私達をその可愛さで殺そうとしています! そしてエルちゃんがよちよちと私の元へと来てくれて、何と! 私の頭をよしよしと撫でてくれたのです!


「――――――。」 

「はぅっ……♡ 何で撫でられているのか良く分からないけど、可愛いからよし!」


 明美と葵ちゃんも私の事を羨ましそうな目で見ております。そしてエルちゃんの頭を優しく撫で撫でした後、思い切り抱き締めてしまいました。もう私はエルちゃんを抱かないと生きて行けない身体になってしまいました。


「ヒィッ……!?」

「あら? また救急車のサイレンね。エルちゃん、落ち着いて。大丈夫だから」


 そして次の瞬間、少し強い揺れが私達を襲います。


「地震!? 皆んな気を付けて!」


 揺れはすぐに収まり、物が少し落ちた程度で済みました。私達はホッと胸を撫で下ろしましたが、別の緊急事態が発生しました。


「ぐすんっ……ふえええぇっんんん!!」

「エルちゃん!? よしよし、ほ~ら怖くないでちゅよ♪」


 エルちゃんが地震に驚いて盛大に泣いてしまいます。私はエルちゃんを抱っこして背中を優しくトントンっと叩いてあやしますが、余程怖かったのでしょう。泣き止む気配がありません……困りましたね。

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