学園のアイドル・如月三姉妹が、なぜか陰キャな俺を取り合うので、嘘告白くらいじゃ俺の青春に暗幕は降りない。
第1話 学園のアイドル・如月三姉妹が、なぜか陰キャな俺を取り合うので、嘘告白くらいじゃ俺の青春に暗幕は降りない。
学園のアイドル・如月三姉妹が、なぜか陰キャな俺を取り合うので、嘘告白くらいじゃ俺の青春に暗幕は降りない。
たかた ちひろ
第1話 学園のアイドル・如月三姉妹が、なぜか陰キャな俺を取り合うので、嘘告白くらいじゃ俺の青春に暗幕は降りない。
「ほんと気持ち悪いよな、あいつ」
「教室の隅と同化してるんじゃね……? もはや、あいつも教室じゃね?」
「それ教室に失礼だって。溜まるホコリと変わらねぇ」
たとえば、こんなふうにバカな男子どもに悪口を言われても。
「うわぁ……、暗すぎて地味がうつりそう」
「あそこの席だけは近寄れないわー」
なんて通りすがりの女子にため息をつかれても。
俺、高梨 恵太(たかなし けいた)は、何も反応することができなかった。
なぜならば、なにも間違っていないからだ。
高校二年生の四月。
いわば人生で最も光が当たるべき、青春の季節である。
だというのに、俺ときたら、クラスではぼっちを極め、ひたすら影と化している。
一年の頃までは、こうではなかった。
二年に入っての一週間で、すっかりこの有様だ。
別に、わーきゃー騒いで歌える陽気なアンチキショウでもなかったが、どんよりがくーんな今と比べれば、それなりの高校生活を送っていた。
そこそこ、青春もしていたはずだ。というか、人によっては俺を羨むだろうくらいは。
それがどん底に落とされたのは…………
「まじ、あいつ面白〜!」
教室の真ん中、机の上に堂々と座り足を組むギャル女。
校則違反、膝上10センチを平気でキープしている女、櫻井 宏美(さくらいひろみ)。
奴が、俺の人生に、青春に暗幕をかけやがった。
俺は突如として彼女に呼び出され、告白を受けたのだ。
「あたしと付き合って、くれる……?」
人生で初めて、そんなことを直接言われた。予想もしていなかったし、経験値もゼロ。
そんなものだから、大いに動揺して、俺がどもり返っていたら…………
突然の大爆笑、影からは他の奴らが出てきてネタバラシである。
「ざーんね〜ん、嘘告白でした〜」
などと、その真実を明かしてくれた。
あぁなるほど、その手のやつか、なんて笑えればよかったのに、状況がよく分からなくなった俺は、黙り込んでしまった。
それが、「あれ、こいつ本気で櫻井こと好きだったんじゃね」
的な大間違いクソ認識ムーブに繋がってしまった。
「お前が釣り合うわけねー。宏美は俺ら陽キャじゃなきゃ釣り合わんしょ」
「むっつりすけべだ、きも〜」
なんて話になってしまい、そしてこの有様だ。
よく言うじゃないか。
信用を積み上げるのは長い時間がかかるが、信用を失うのは一瞬だと。
あれは逆もまた然りだ。
他人のことを信用できなくなるのに、それほどの時間はかからなかった。
そこから俺は徐々に存在感をフェードアウトさせていき、今だ。
なんて卑屈に思いを巡らせ嘲笑に耐えていたところ…………
「あなたたち、なに様のつもりなの?」
教室へ、救いの女神が入ってきた。
⭐︎
学園の中で、「如月三姉妹」と言って知らないものは、まずいない。
なぜならば、彼女らは超絶お嬢様なのだ。
会社をいくつも経営する両親の元に生まれ、揃って優秀で、容姿端麗で……。
まさしく、高貴な家の出身らしい少女たちだ。
ここ、武蔵野市では一番の家だとか。
だが、彼女らが属しているここは、別に普通の公立高校だ。
なんでも、
「親の方針で、高校三年間は一般人と同じ生活をさせたい」
のだとか。
その考え方の時点で、既にブルジョワ感が滲み出ているが、事実そうらしい。
そんな如月三姉妹の、次女・時雨(しぐれ)が、俺と同じCクラスに属していた。
「つ、ついに来た、登校したぞ、女神様が!」
「待ってたんだよなぁ、俺。この時を、遠くから眺めるだけで満足だわ」
なんて声が、バカな男子から漏れてくる。
そう、次女の如月 時雨は、とにかく気高い。その長くしなやかで、艶めきすぎた髪の毛に、整った顔立ち、すらりと細っこいスタイル。
そう、ほとんどその造形は完璧。身長も高く、出るとこ出て、引くところは引いている。
そんな彼女が登校するのは、今年に入っては、これが初めてのことだった。
聞くによれば、家の用事があったのだとか。
「あなたたち、高梨くんへの悪口、早々に撤回しなさい」
時雨は一直線に、櫻井の元まで、かつかつと歩いていく。
その足取りだけで、周囲の空気をひりつかせ、そして人に息を飲ませる。
当事者(?)な俺も、つい一観客の気分で、彼女の一挙手一投足を見つめてしまった。
「な、なによ。別に、あたし、だれも高梨のことだなんて言ってないんだけどっ」
「……そうだろうが、そうと認識されるようなことを言っていたのは事実でしょう。
それに、あなたが高梨くんになにをしたのかなんて、私はとうに把握済みですよ」
そう言うと、時雨はスマホを取り出し、櫻井の前へと掲げる。
「あなた、嘘告白なんて卑劣なことをしたそうね?」
「…………は、なんで、あんたがそれを!? ずっと学校休んでたじゃない!」
「それは仕方なく、です。お父様に課された留学期間が延びてしまっただけのこと。
その間の学校生活についても、もちろん状況は把握していました」
……あー、まぁね?
彼女はこの学校の風紀委員長でもある。
如月三姉妹の長女にして、
生徒会長でもある三年生・如月 瑞季(きさらぎ みずき)先輩のサポートにつくため、その役割を一年秋から務めていた。
他の風紀委員たちから、情報を入手していたのかもしれない。
「高梨くんは生徒会の大事な大事な庶務担当です。これ以上、あなた方が高梨くんに暴言を吐くようでしたら、即刻、一定期間の自宅待機を先生方に申告しますが?」
「…………なっ、こ、これくらい! ふざけただけで、別にあたしはっ」
「言い訳が終わりましたら教えてください。それまで、私は耳を一切使わないようにするので」
強烈な挑発に、クラスが一気にしんと静まり返る。
たしかに、櫻井は陽キャラの中の陽キャ。トップオブ陽キャだ。
だが、それはあくまで、地方の山のトップに過ぎない。その辺の、名前も知らぬ山の頂上と変わらない。
だが、如月 時雨はものが違う。いわば、富士山だ。比べるものなど他にないほど、高みにいる存在。
やり合っても結果は火を見るより明らかだった。
はじめは櫻井の擁護に回ろうとしていた取り巻きたちは、だんだんと自己擁護へと回る。
やがて1人になって、四面楚歌。櫻井は、
「す、すいませんでした…………」
ついに白旗をあげた。
「私に言うのではなく、もっと言うべき人がいるのでは?」
「…………くっ!」
「早くしなさい、みなさんの貴重な朝の時間がもったいない。あなたのしょうもない謝罪にかける時間など、数秒でいいのですから」
櫻井はなおも歯を噛みしめながら、俺に頭を下げる。
告白もそうだが、こんな状況も初めてだ。俺がまたしても、あわあわしていると、彼女はぺこりと謝った。
……やらされ感満載だったが、あの櫻井が、このインキャの俺に頭を下げたのだ。
「高梨くん、どうするの、このアホな女を」
「どうもしないよ、とりあえずさ。もういいから」
別に謝られたって気持ちよくなるわけでもない。
ただ、まぁこれでしばらく、変にいじくり回されることもないと思えば、少しホッとはした。
「そう、ならよかった。じゃあ高梨くん、あなたにも少しお話があります、こちらへ」
時雨は、俺を教室の外へと促す。誰かが、やられた側にも説教かよ……怖いな風紀委員長、などと漏らすが、それは違う。
俺はひっそり、「……あぁ始まったよ」と思った。
そう、実はこれには慣れている。
時雨はなにかとあれば、すぐに人目を避けようとするのだ。
そのまま俺は、今は使われていない旧校舎まで連れて行かれる。
人気が全くなくなったところで、彼女は俺を正面から見つめる。
うるうると宝石を散らしたような目に、ダイヤモンドの涙を浮かべて、
「あう…………」
「な、なんだ?」
「なんだじゃないです。逢いたかったですよぉ、寂しかったです」
などと俺に抱きついてきた。
当ててんの、とばかり、むにゃっと、なにかが腕に押し当てられたなら、その綺麗な体に手を出したくならない奴はいなかろう。
だが、その点では俺だけは違った。これにも、もう慣れているのだ。
彼女いわく、「私に抱かれるのも庶務の仕事」らしい。
「なぁ時雨さんや、背中がごっつ痛いんだけど。もしかして締め殺すつもり?」
「そんなわけないです、ありったけ寂しさをぶつけているだけです、感情の塊なんです、これは」
だとしたら、その感情、重いよ?
「俺たち付き合ってるわけじゃないし、こういうのはどうかと…………」
「いいじゃないですか、そんなの! 会えてなかった間に、嘘告白されたなんて聞いてたんで気が気じゃなかったんですよ」
「さっきは、わざわざありがとうな、俺のために」
「そんなことより、頭を撫でてください」
「…………こ、こうか?」
ふわり、香るは甘く芳しい、まるで薔薇のような匂いだ。
「そうです、でも、もっとです。んふふ、気持ちいい。もっと、もっとお願いします」
「えらく上機嫌だな?」
「そりゃ久々に会えたうえに、2人きりですもの。朝の短い時間でたっぷり堪能しないといけません。
今ならお姉さまも、千奈美も邪魔してきませんから」
と、このように。
なぜか、如月 時雨は俺に、とても懐いているのだ。まるで飼い犬かと誤解しそうになるくらい、懐きまくっている。
そして……
「少しは場所と時間をわきまえなさい、時雨」
「そんなことだと思った。ズルはだめだめ、抜け駆け禁止だよ〜、時雨〜」
後ろから現れた美人な姉妹2人もまた、俺を慕ってくれていた。
「な、なんでお姉様と千奈美がここに!?」
生徒会長である姉の如月 瑞季。
それから時雨の双子の妹である、千奈美だ。
なぜか2人までもが、俺を好いてくれていた。
三人による、軽い揉め事が始まる。これも恒例だ。
三人集まれば、いつもこう。なぜか、平凡な庶務であるところの俺の奪い合いになってしまう。
「恵太、大丈夫? お姉さんが癒してあげないとね」
「べべべべ、べっつに! 千奈美は、あんたの心配なんかちょこっとしかしてないもーん!!」
なんだこれ、なんだこれ。
……撤回しよう。
俺の青春に彼女たちがいる限り、暗幕は垂れないらしい。
学園のアイドル・如月三姉妹が、なぜか陰キャな俺を取り合うので、嘘告白くらいじゃ俺の青春に暗幕は降りない。 たかた ちひろ @TigDora
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