第6話 近づく距離 アドリアン視点

 フローレンス嬢は隣の席ということで色々話をして、割と仲が良くなった。


 私の方から話しかけた訳ではなく、彼女の方から話を振ってくる。


 降ってくる話に返事を返す内に徐々に距離が縮まっていく。


 見た目の問題で彼女に迷惑をかけたくはなかったので、大っぴらに仲良く話すことは出来なかったが、ささやかなやり取りに満足していた。



 彼女は本の話やついさっき受けた授業についての感想や課題の解き方、最近観たオペラの話など私にもわかるような話を振ってくれた。


 特に本の話題は多かった。


 彼女はあらゆる分野の本を読むらしく、歴史書・旅行記・冒険小説・令嬢に流行っている恋愛小説まで網羅している。


 後は大人でも読む人の少ない法学書や経済書もたまに読むそうだ。


 彼女は意外にも旅行記や冒険小説が好きらしく、いつか行ってみたい場所が沢山あるようだ。



 私の妹のサビーネも多くの令嬢に漏れず恋愛小説が好きだと言っていたので、フローレンス嬢におすすめの恋愛小説を何冊か聞いて、それを妹に教えてあげたら、”二、三冊は初めて聞くようなタイトルの本があって、読んでみたら面白かったので私のお友達にも教えて差し上げようと思います! お兄様、ありがとうございました。フローレンス様にも感謝を伝えておいて下さいませ”と物凄く嬉しそうだった。


 フローレンス嬢はフローレンス嬢で、”サビーネ様が私が紹介した本を面白いと感じたなら教えた甲斐がありましたわ。また、面白い作品を見つけたら、アドリアン様経由でお伝えしますわね”という伝言をサビーネにして欲しいと頼まれた。



 学園一年目はこのように過ぎていった。


 二年生に進級すると、またフローレンス嬢と同じクラスだった。


「今年もまたメラール様と同じクラスですわね。今年こそはメラール様にテストの点数で勝ちたいですわ」


「此方こそまた同じクラスで嬉しいです。フローレンス嬢に負けないように私も頑張ります」



 私とフローレンス嬢は去年一年間、成績で張り合う仲でもあった。


 入学して以来、学年首席の座は誰にも明け渡していないが、フローレンス嬢も毎回のように全教科ほぼ満点を取ってくるので、実はひやひやしていたのは彼女には内緒だ。


 そしてずっと成績が一位だったせいで、この頃にはもう”がり勉地味眼鏡”というあだ名で呼ばれていた。


 私は仮にも公爵令息なので、表立って私と面と向かってこのあだ名を言ってくる者はいなかったが、仲間内だけで話す時など裏で私のことをそう呼んでいる者はいた。



 二年生に進級したが、ある懸念事項がある。


 今年は私の婚約者であるユージェニー王女殿下が学園に入学してくる。


 学年は違う為、移動教室などですれ違わない限りは顔を合わせることはないと思うし、王女殿下は私の容姿を気に入ってはいない為、わざわざ会いに来ることはないと思われるのでその心配は全くしていない。


 王女殿下が起こしたトラブルの後始末要員として駆り出されはしないかという懸念だ。


 ”婚約者だから”の一言は実に便利な言葉で、私自身に非がなくても王女殿下が問題を起こせば、”婚約者の手綱くらいしっかり握ってくれ”なんて言われかねない。


 王女殿下の動向にも目を向けていなければ、と気を引き締める。



 また、二年生に進級すると、選ばれた生徒数人は生徒会役員になって、生徒会活動をする。


 役員への選ばれ方は分かりやすく一年生の時の成績で上位5位に入っていた者だ。


 私もフローレンス嬢も選ばれ、後のメンバーはニコラ・エスクデ伯爵令息、アレクシス・オーブリー侯爵令息、カトリーヌ・ルボー伯爵令嬢である。


 役割はもう成績順に、私が生徒会長、フローレンス嬢が副生徒会長、カトリーヌ嬢が会計、アレクシスが書記、二コラが庶務を担当することになった。

 


 こうして波乱の二年生が始まった。

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