第5話 彼女との再会 アドリアン視点

 王城での出来事はすっかりトラウマになり、私はそれ以降、前髪を伸ばして瞳を隠すようになった。


 屋敷では髪を上げて生活しているが、人に会う時は前髪は下したままだった。


 その上、分厚い眼鏡もかけている。


 眼鏡は視力の矯正ではなく顔を隠すことだけが目的なので、度は入っていない。



 あの日、お茶会からは逃げ去ったが、ユージェニー王女殿下とは正式に婚約を結ぶことになった。


 ユージェニー王女殿下の兄であるジルベール第一王子殿下が既に王太子として立太子している為、ユージェニー王女殿下は将来女王になる訳ではなく、王女殿下がメラール公爵家に降嫁する形での婚約である。


 婚約は結ばれたが、婚約が結ばれて数年の間、ユージェニー王女殿下と顔を合わせることなんて年に一度あるかないか位だ。


 お互いの誕生日パーティーで顔を合わせる程度で、日頃から王城やメラール公爵家で定期的に会い、交流を深めることはなかった。


 王女殿下が14歳になり、社交デビューした時には婚約者としてエスコートし、ファーストダンスを踊ったが、前髪と眼鏡で顔を隠したスタイルで参加したので、王女殿下はご立腹だった。


 幼少期の”気持ち悪い”の次は”根暗地味男”だった。


 気持ち悪いと大勢の前で罵られるくらいなら根暗やら地味と思われていた方がマシだ。


 王女殿下の文句はさらりと受け流すことにした。



 王女殿下と私は私の方が一つ年上なので、私の方が先にワーズ学園に入学する。


 ワーズ学園は15歳で入学し、そこで三年間学園での勉強に励むことになる。


 生徒は皆、貴族の令息・令嬢だ。



 入学式の日、私は入試を首席で合格した為、新入生代表として講堂のステージで挨拶をすることになった。


 本音を言うと丁重にお断りしたかったが、辞退は出来ないと教師に言われ仕方なしに引き受ける羽目になった。



「新入生代表の挨拶」と進行役からのアナウンスがあり、ステージに向かう。


 ステージに立って、事前に考えていた挨拶をする。



 前髪を下ろし、分厚い眼鏡をかけた姿は案の定、変な意味で目立った。


 それでも何とか自分の役目を果たし、席に戻った。



 入学式が終わると、今度は自分のクラスへと向かう。


 大きな用紙にクラスと名前が書いてあり、それを見て自分のクラスを確認するようだ。



 私は1組だったので、1組の教室へ向かい、座席表で指定されている席に着く。


 担任の教師が来るまで本でも読もうと思い、鞄から本を取り出す。



 すると、ざわめきが起きる。


 何事かと思えば銀髪で深い蒼色の瞳の美しい令嬢が皆に取り囲まれている。


 男子も女子も騒いでいて「まさかフローレンス様と同じクラスなんて!」とか「フローレンス嬢と同じクラスなのは嬉しいが気後れするな」とか聞こえてくる。


 そのフローレンス嬢は皆に取り囲まれている中から通してもらって、自分の席に着席するが、なんと私の隣の席だった。


「あなたは先程ご挨拶をされていたメラール様ですわよね? 私はフローレンス・アンベールと申します。これからお隣さんとしてよろしくお願いしますわね」


「こちらこそよろしくお願いします」


 事情があるとは言ってもこんな見た目をしている私に丁寧に挨拶をしてくれた。


 文句ばかり言っている王女殿下とは大違いだ。



 幼いあの日、王城の庭園で会った彼女との再会だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る