第4話 初恋 アドリアン視点
大嫌いなユージェニー王女殿下と婚約破棄されて、密かに慕っていたフローレンス嬢から婚約を申し入れられるなんて。
人生何が起こるかわからないものだ。
メラール公爵家の長男として生まれた私は6歳の頃に、王城で開かれたユージェニー王女殿下の婚約者を決めるお茶会に母上に連れられて参加した。
その頃はまだ家族以外と交流したことがなく、自分の瞳が他人から見て異質なものだとは気づいてもいなかった。
父上や母上、三歳下の妹はそんなことは全く言わなかったから。
そのお茶会は私にとって初めての外の世界だった。
ユージェニー王女殿下と年齢の釣り合い、王女殿下を降嫁させるのに相応しい家の貴族令息が数名集められてその中から婚約者を決めるというものだった。
仮に婚約者に選ばれなくても、その茶会に招待されている令息は自分と年齢も家の爵位も近い者達ばかりだから、もしかしたらお友達が出来るかもしれない。
そんな風に期待をしていた。
参加者全員がテーブルに着いたところで、王妃殿下によってユージェニー王女殿下が連れられて来る。
初めて見た王女殿下は、淡いピンクブロンドの髪にアクアマリンのような水色の瞳の美少女だった。
少女らしくリボンやフリルで装飾されたデザインのドレスを着たお姫様に、集められた令息達はぽーっと釘付けになるが、口を開けばその見た目は台無しだった。
「あなたたちがわたくちのだんなさまこうほ? ふーん。まあまあね」
当時5歳にしてユージェニー王女殿下は傲慢さが垣間見えていた。
この上から目線の言葉に会場中がドン引きする。
見とれていた令息達でさえ。
「こら、ユージェニー。何ということを言うのですか! 皆様、申し訳ございません」
王妃殿下が慌ててユージェニー王女殿下を窘め、謝罪するも遅かった。
「王妃殿下。申し訳ございませんが我が家は辞退させて頂きますわ」
「我が家も辞退致します」
そう言って次々と辞退する家が続出。
我が家は辞退しないのか母上を見たら申し訳なさそうな表情だった。
大きくなってから聞いたことだが、王女殿下の婚約者は私で決定していたが、形だけ婚約者選考をすることになったようである。
王女殿下の発言で辞退者が続出したのは単なる偶然でそういう演出ではなかったそうだ。
残った家は三つほどで、王女殿下にそれぞれ自己紹介をすることになった。
私の番は最後で、順番がきたら立ち上がった。
「はじめまして、王女でんか。王妃さま。わたしはメラール公爵が長男、アドリアン・メラールです。よろしくおねがいします」
一礼して顔を上げたら待っていたのは侮蔑のことばだった。
「なに、そのおめめ。みぎとひだりで色がちがう! きもちわるいわ……!」
「ほんとだ! いろがちがう! きもちわるい!」
王女殿下の言葉を皮切りに令息二人も目の色が違って気持ちが悪いと言い出す。
子供の正直さは時に残酷だ。
その言葉を真正面から言われ、涙がじわりと溢れる。
涙を見られたくなかった私はそのまま駆け出し、気づいたら王城の庭園に迷い込んでいた。
すると自分と同じ年頃の少女と遭遇する。
少女は銀髪に深い蒼色の瞳で、少し冷たい雰囲気のする色合いだが、美少女には違いなかった。
「あれ、どうしたの? 男の子が泣いてるなんて」
先程の出来事を正直に話す。
「どうしてきもちわるいなんて言えるんだろう。こんなにきれいなのに」
「きれい……?」
「きらきらの金色と緑の宝石みたい! わたしはとってもすてきだとおもうわ」
彼女の笑顔に涙が引いていく。
「きみの名前は?」
「わたくしはフローレンス・アンベールですわ」
――これがフローレンス嬢との初めての出会いで、私の初恋の思い出である。
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