第3話 新たな婚約と彼の素顔
その日の夜――ディナー前の時間に、アンベール侯爵家に来客がある。
執事から来客の連絡を受けたセドリックは、来客は誰なのかその執事に確認すると、メラール公爵とその息子のアドリアンとのことだったので、急いで彼らを待たせている応接室に向かう。
「メラール公爵閣下、お待たせして申し訳ない」
「こちらこそ夜分に先触れもなく突然の訪問をお許し下さい」
「いえ、とんでもない。メラール公爵閣下とご子息が来られた理由は、私の娘、フローレンスとご子息の婚約の件ということでよろしいだろうか」
「ええ。先程息子のアドリアンからユージェニー王女殿下と婚約破棄され、フローレンス嬢と新たに婚約することになったことを聞かされて慌ててこちらへ息子共々訪問させて頂きました」
「率直に聞きたい。メラール公爵閣下は婚約についてどう思われるか」
「私も息子のアドリアンも是非フローレンス嬢と婚約させて頂きたいと思います。アドリアンはフローレンス嬢と同じく今17歳なのですが、正直ここから新たに婚約者を探すとなると厳しくて。我が家は歴史ある公爵家だからどんな家の令嬢でも良いという訳にもいかないから、もし侯爵閣下がフローレンス嬢とアドリアンの婚約を認めて下さったら本当に助かります。婚約する当人同士の相性も悪くないみたいだし」
メラール公爵が悪戯っぽく笑いながら言うと、アドリアンは顔を赤らめて父親を睨む。
「父上、それは言わないという約束でしたよね?」
「うっかり口が滑ってしまったよ。ごめんね、アドリアン。して、侯爵閣下はどう思われておりますか?」
「我が家も四年前に嫡男が生まれて、フローレンスの婚約相手を変えなければならなくなって。色々吟味して新しい婚約者を探してみたが、いいと思える相手がおらず、フローレンスの婚約者はいない状態が続いていたところにご子息との話だ。私の方こそ是非お願いしたい」
「わかりました。婚約の書類は此方で用意しましたので、サインをお願いします。私のサインは既に入れてありますのであとは侯爵閣下のサインだけで提出出来る状態です」
セドリックは万年筆でさらさらと名前をサインする。
「ありがとうございます、侯爵閣下。出来ればで構わないのですが、ここにフローレンス嬢を呼んで頂いて、会わせて頂くことは出来ますか?」
「構わない。フローレンスをここへ」
「はい、旦那様」
セドリックは執事に命じて、フローレンスを応接室に呼ぶ。
数分後、執事がフローレンスを連れて戻ってくる。
「旦那様、フローレンスお嬢様をお連れしました」
「お父様、お呼びとのことでしたがどうされましたの?」
「お客様がお前に会いたいとのことだったので、来てもらった。メラール公爵閣下、此方が娘のフローレンスだ」
「お初にお目にかかります、メラール公爵閣下。フローレンス・アンベールと申します。アドリアン様にはいつもお世話になっております」
フローレンスは見本のような優雅なカーテシーをする。
「此方こそ、初めまして。アドリアンの父のディディエ・メラールです。アドリアンから話は聞いてたけれど、お美しいお嬢さんですね」
「とんでもございません。公爵閣下のお隣に座っておられる方はもしかしてアドリアン様ですか?」
「そうですよ、フローレンス嬢」
アドリアンはこれから婚約を結ぶ相手の家に挨拶に行くということで、いつもの学園でお馴染みの姿ではなく、きちんと整えた姿で来ていた。
目にかかる前髪は上げられ、分厚い眼鏡はなしだ。
アドリアンの素の顔は中性的な美人だった。
蜂蜜のようにとろりとした金色とエメラルドのような鮮やかな緑のオッドアイ。
垂れ目だが、それが柔和な印象を与える。
元々見えていたすっと通った鼻筋と形の良い口元とこの目元が合わさると非の打ち所がない美青年だ。
おまけに金の瞳の目尻には泣き黒子まであり、それがなんとも言えない色気を醸し出している。
アドリアンの素の顔を見たフローレンスはその場でふらっと倒れ気絶する。
そしてフローレンスが気づいた時には自分のベットの上で、夜も更けていた頃だった。
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