桜の降る季節

桜が、降っている。


うららかなの光の中、

風に弄ばれるかの様に、

大きな桜の樹が、

淡く薄桜色の雨粒を降らせている。


窓から見える桜の雨は

あの日のことを思い出させる。


授業というノイズ音をBGMにしながら、

私は桜の降る光景に想い出の日々を重ねた。



春。

それは私にとって出会いの季節だった。


私が彼と出会ったのも春で、

彼を思う恋心に出会ったのも春だった。


蕾が花開くように、

さまざまな想いが芽吹き、

新しい人生が幕明ける。


それが、春だと思ってた。



でも、今は別れのイメージの方が強い。


芽吹いた蕾は命短く、

咲き誇りきった後は、

何事もなかったかのように散り急ぐ。


私達の恋も花とおんなじで

花開いたら散っちゃった。


これでもかって言うくらい、綺麗に。

折角、花開いたのにね。




ん?

失恋とか転校とか想像した?

それとも死に別れたのかなとか思っちゃった?


まぁ、気になるよね。


でもさ、実際どういう状況なのかなんて、

私にとっては、どーでもいいんだ。


死んでようが生きてようが、

関係ないんだよね。


会えない、会うことが叶わない、

その確定事項が揺らがない限り、

結局会えないのは変わりないんだから。



んでね、そんな現実に直面して、

新しい恋を探さなきゃって思った。


でも、だめだった。


初恋でもないのに、

彼との恋愛は忘れられなかった。


今思えば、恋は初めてじゃなかったけど、

愛を感じたのは初めてだった。


若い子娘の戯言ざれごとでしかないんだけど、

確かに愛を感じたんだよ。


情熱的で、

どきどきするけど、

そこに安心感も安らぎもあって、

愛おしいって思っていた。


また、

あのあたたかさに、触れられるだろうか–––––。



その時、チャイムの音が響き、

現実に引き戻される。


慌ただしく放課後を満喫するために

動き始めるクラスメイト達。


他愛もない日常の光景を

ただ、ただ、見つめる。


なんて、色味のない日々なのだろう。


やがて喧騒が収まり、

独り静かな教室で桜を見つめた。



桜の降った最初の年は彼と出会い、

次の桜が降る頃に、別れと出会い、

今年も桜の降る頃になった。


今年の春は私に何をもたらすのだろうか。



彼と指を絡ませ、ささめきあったこの桜の下で、

想い出と共に眠れたらいっそいいのに、と

静かに強く願って、私は瞳を閉じた。



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