戦女のバラッド《イクサビトのバラッド》

愛したひとがいました


とても優しく、

華のように笑うのが印象的なひとでした


あのひとは何も力のない村人で、

私は戦に明け暮れる国の守人もりびとでした


血濡れて冷えた私の手を優しく包んでは

慰めてくれるひとでした


私とあのひとの間には

曼珠沙華が咲き乱れる草原で夕日に誓った

永遠とわの愛が在りました


湖が斜陽に照らされ、美しく輝き、

明星あけぼしが紅と宵闇のコントラストにまたたいた

あの日の光景は忘れられません


あのひとからもらった愛は

私が人であることの最後の証でした


国の為、……いいえ、彼の為に

戦場の鬼と化した私は

本当に人だのだろうかと思う時があります


そんな時、あのひとの愛が

砕けた心が散り散りにならぬよう、

繋ぎ止めてくれるのです


私にとって、あのひとが全てでした


なのに、私の手に残った

たった一つの幸せは壊されてしまいました



あのひとは私の所為せいさらわれ、

記憶を消されてしまいました


攫われた後、早鐘を打つ胸を抑え、

やっとの思いで追いかけました


でも、追いついた時には、

私のことを覚えていませんでした



私の力を恐れた者達が、

土足で踏み荒らし、全てを奪っていったのです


私は何人なんぴとたりとも、

許すつもりはありませんでした


彼を差し出した国も、

彼をいじくった敵国も、

全て許さないと心に決めました


神よ、

くも、無慈悲なことがあるだろうか


もう信じられません


唯一、

あのひとが最期に言った言葉だけを胸に

私は戦います


私をもう愛していなくとも、

これからも愛してもらえることがなくとも、

あのひとが幸せになる為だけのいくさをします





この身、くずおれようとも、

この剣が血に塗れ、錆び付き折れようとも、

例え、人でなくなろうとも


私は、貴方を救いに行く


さぁ、貴方が自由に生きられる

優しい世界を創りましょう


「何があっても、愛している

 幾度、月が昇り、太陽が落ちても、愛している」

あの優しい御呪おまじないを唱えながら

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