第3話 プロ〇ェッショナル仕事の流儀

 あれから色々試したけどダメだった・・・・・・。やっぱ、地縛霊あたしは生きてる人の眼には視えないし、触れることもできないんだ。


 あーぁ。短けぇ夢だったな・・・・・・。


 髪の毛をクシャっと乱暴にかきむしり、うな垂れながらホームを歩く。


 とぼとぼと力なく歩を進めるその先に人影を捉えた。その瞬間、穂香ほのかの顔が、ぱあっと花が咲いたように明るく彩られる。


「あっ! おばちゃんだ!」

 穂香ほのかが、瞳を輝かせながら見つめるその先には掃除のおばちゃんが、ごみ箱の中身を回収しながら、清掃用カートを押してこちらへ近づいてくる。


 ふと、おばちゃんは足を止め、何かに気づいたように床をじっと見つめ、カートからゴソゴソと何かを取り出して、しゃがみこんだ。


 そして、床にスプレーを吹き付けヘラとブラシで床をこすり始めた。


 誰かが吐き捨てたガムを取り除いているのだ。


「くぅー! 痺れるぅ! アンタ、マジ神ー!」

 誰からの評価も称賛も求めず、黙々と自分の仕事を続ける掃除のおばちゃんの姿に、穂香ほのか只々ただただ、感激して身をよじらせ悶絶する。


 毎日、陰日向かげひなたなく働くこの姿に、いつしか穂香ほのかは掃除のおばちゃんに対して、尊敬レスペクトと友情にも似た感情を抱くようになっていた。これは、生前の穂香ほのかには持ち得るはずもなかった感情である。


 小さな頃から、パパが毎週見ていたNHKのプロ〇ェッショナルのテーマソングが大好きだった。今でもやっているのかな?

 今では、テーマソングより番組の中で奮闘する大人たちの立ち振る舞いや決断する場面がカッコ良かったと思う。


「おばちゃーん、いつもサンキューねー。でも、たまには、おばちゃん自身のケアも大事だと思うよ。うん、そーだよ! 温泉でも行ってきなよ!」

 

 おばちゃんが、温泉にゆっくりと浸かる場面を想像して、うっとりとした表情で目尻を下げる。


「どこの温泉に行っこか? 湯河原? それとも別府? 遠くの漁火を眺めながら露天風呂ってマジ最高だろうねぇ~。そんでもって、船盛の刺身を肴に熱燗をグイっと呑んで~。それから、布団の上でマッサージ師さんに肩をもんでもらって~」


 どことなく昭和なテイストがする空想をおばちゃんに語りながら穂香ほのかは、マッサージ師の真似事をしておばちゃんの肩を揉んでいる。

 当然のことながら掃除のおばちゃんからの反応はない。


 他者の幸せを想像しただけで、自分まで幸せな気分になってしまう。——地縛霊になっても穂香ほのかには、まるで子供のように純粋な良心が強く残っている。


 ひたむきに床をこすり続けるその小さな背中を愛おしそうにさすってから、ふと、顔を上げホームを見渡した。


(何かがいつもと違う・・・・・・)穂香ほのかは、言いようのない違和感をホームから感じ取り眉をひそめる。

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