6-4 お告げ
明け方、夢に奇妙なものが現れた。
人だ。しかしどこの異民族かも分からない、体が細く足が鳥のようで、頭部も流線形の民族。その人は俺に近寄ってくると、
「我々に会いに来て、我々を仕留めようとしなかったのは、あなたたちが初めてです」
と、奇妙な笑顔をつくり、そう言った。
「あなたは、だれですか」
「あなたがたの言葉でいう『死なずの鳥』です」
死なずの鳥……。
「命は常に流転しているとても不確かなものです。我々は、あなたがたがこの先、この世界を革新していくであろうことを想像しています。なにより、あなたがたの知的好奇心は、我々をじかに見たい、というところから出発して、あの都からここに至るまでの旅をさせた。あなたがたの、知的好奇心の強さは、きっと未来を変えるはずです」
死なずの鳥はそう語ると、わずかに微笑み、
「さあ、いそいで山を降りなさい。あさってには規模の大きな噴火が起きて、噴石や溶岩があなた方を追い立てるでしょう。安全なうちに下山するのです」
と、優しい言葉で俺にそう言った。そこで目が覚めた。ほかのメンバーも起きていた。
「変な夢見なかったっすか」
「見たぞい。死なずの鳥にさっさと下山しろと言われたのう」
「ウチも。なんかやばげな夢だった」
「わたしもよ。急ぎましょう」
薄暗い山道を、光の神術で照らして降りていく。急いで降りて、死なずの鳥の予言の日までに、どうにかエポリカ火山のふもとにたどり着いた。来るのに使った小船に乗り込み、これで一安心……と思ったところで、山体が大きな音を立てて揺れた。ごっ、と、山のてっぺんが火を噴くのが見えた。その数秒後、石交じりの灰がすごい勢いで降り注いだ。
「ひゃー急げ急げじゃ」サザンカ先輩が船に防御神術を展開する。簡易エンジンを起動し、船で急ぎ足の速度でエポリカ火山を離れる。
「すごいところだった」と、俺はぼやいた。無言族とケットシーの村は大丈夫か、少し心配だったが、それを気にするのはきっと俺ら探検部くらいなんだろうな、と思う。無言族もケットシーも、神都の定めた人間の分類には入らないからだ。
エポリカ火山から遠ざかるにつれ、波がおだやかになってきた。……と思ったらサザンカ先輩がえずきはじめた。そして海面に吐き始めた。本当にこの人は船酔いに弱い。
旅が終わってしまうのが寂しかった。中央学府に戻るのが面倒だった。このまま、世界中の未踏地を旅したい。俺はどうやら中央学府で勉強するより証しの灯し手に向いているのかもしれないと思った。
命の炎を上げる山に別れを告げ、俺たちはニルアトに向かった。まだ帰り道が残っている。旅というのは終着地点に着けば終わりではないのだ。帰ってこなくてはならない。
神都に帰ったらこれをレポートにまとめて提出するのかな。
とにかく俺たちの旅は、死なずの鳥を拝んで、無事終点にたどり着いた。しかしながら、旅には復路がある。
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