第31話 ヒルダの暗躍
港町の開港と薬も完成したため、私は多くの者達を労うために夜会を開くことにした。やっと重い荷が肩から離れたと思うと、気持ちにゆとりも出来るようだ。
しかし懸念すべきことがあった。
私は今日参加するリストを見て頭を抱えている。
「国王陛下とヒルダ様も出席なさるなんて……」
国に関する事柄だったため、王族も招待しなければならない。
ただどちらも出席しないか、もしくはヒルダのみが出席するだけと思っていた。
何も終わらずに終わるのであればいいが──。
「カナリア様ー」
先のことで憂鬱になっていると、支度を手伝ってくれるエマが頬を膨らませていた。
「どうしたの?」
「どうしたではありませんよ!」
エマは私から紙を奪い取り、背中を押して椅子の上に座らせた。
「まだ準備もまだなんですから、後にしてください! シリウス様がいつ来られるか分からないのに、お待たせするようなことがあっていいのですか!」
「ご、ごめんなさい……」
エマから怒られ、私は大人しく化粧をさせられる。
化粧が終わればすぐにドレスを着た。
いつもより大人しめの明るい緑を基調としており、エマからネックレスを付けられた。
綺麗な青い宝石で、まるでシリウスの髪のようだった。
「あら、こんなネックレス持っていたかしら?」
「今日の贈り物の中に忍ばせていたのですよ。直接お渡しになれば良かったのに、おそらくは恥ずかしかったのでしょうね」
シリウスなら直接渡してくれそうだが、彼も忙しいのでそういうこともあるのだろう。でも彼からの贈り物なら身に付けておきたい。
だけどふと使用感がある気がしたのは気のせいだろうか。
時間になったので今日の来賓達を出迎えていく。
いつもの顔馴染み達も参加してくれ、さらには港町を開港するまでに関わったギルド長を始め、大店の主人達も参加してくれた。
──シリウス様が国王陛下をお連れすると言っていましたが……。
まだ完全に呪いの村を解決したわけではないが、太陽神の試練も後少しで達成と言えるだろう。
だがそれでも私のことを国王陛下が許してくれなかったらどうしようかと、今でも楽観視が出来なかった。
その時、周りの令嬢が騒ぎ出し、一体何かと思ったら、王弟であるハロルドが珍しくいつものくたびれた服ではなく正装で来ていた。
「よっ、嬢ちゃん。久々だな」
普段とのギャップのせいか少しだけかっこよく見えた。
周りの令嬢達も渋いハロルドの大人の魅力に惑わされているようだった。
「お久しぶりです。ハロルド王弟殿下」
「長い名前はやめてくれ、ハロルドでいいよ」
それでいいのなら私は言う通りにする。
「ではハロルド様、あれ以来ずっと姿を消していましたが、どちらに行かれていたのですか?」
「ちょいと帝国にな。さっき船で帰ってきたんだよ」
「て、帝国へ!? 一体どうして……」
ここから帝国はかなり時間が掛かる。
いくら王弟といえどもずっと風来坊のような生活をしていいのだろうか。
「どうしても手紙を直接届けないといけなかったんだよ。人に任せると手紙が必ず着くか分からなくなるからな」
だからといってわざわざ自分の足で行くことはないのに。
呆れてしまったが、私からとやかく言う理由もない。
「これは、これはカナリア様、お元気でしたか」
聞き覚えのある嫌な声が聞こえてきた。
私はそちらを向くと、帝国のガストン伯爵が来ていた。
「ガストン伯爵……わたくしは貴方を招待した覚えはありません」
どうやってこのパーティを聞きつけたのか分からないが、私はこの男が大っ嫌いなため即刻出て行ってもらいたい。
だがその背後には、ヒルダとダミアン第一王子が居た。
「はは、カナリア様。彼とは僕が友人なんだ。せっかくだからと誘ったんだよ」
「ダミアン様、もし誘われるのならわたくしに一言教えてくださいませ。帝国の伯爵を歓迎するにはこちらも準備が必要です」
「僕に指図をするつもりか? 僕がいいと言ったのだから良いんだよ!」
ダミアンに逆ギレされてしまい、これ以上は何を言っても聞き入れてもらえなさそうだ。しかしヒルダがダミアンを宥めて、私へ頭を下げる。
「ごめんなさい、カナリア様。偶然にもガストン伯爵がこちらへいらしていましたので、お誘いしてしまいました」
珍しく申し訳そうな顔をするが、絶対に裏があるはずだ。
今すぐ逃げてしまいたいと思い、一歩後ろに下がった時だった。
「きゃあ!」
「うおっ!」
ちょうど後ろを歩いていた紳士とぶつかってしまい、彼が持っていたドリンクが私のドレスを濡らした。
赤いワインが染み付いてしまい、これは着替えないといけない。
「も、申し訳ございません、カナリア様! 私のせいで大事なドレスが──」
「いいえ、お気になさらず。わたくしがよそ見をしていたのがいけませんので」
そうは言っても替えのドレスが無いためどうやって今日を乗り越えようか考える。
するとヒルダがある提案をする。
「カナリア様、わたくしがドレスを持ってきていますのでお貸ししますわ!」
正直、この女に借りを作りたくないが、この格好で過ごすわけにはいかない。
仕方なく私は彼女のドレスを借りるのだった。
偶然にも似た色合いのドレスがあったため、私はまたエマに頼んで着せてもらった。
「お待たせしました、カナリア様」
エマの手際の良さには本当に助かる。
しかし何だか胸騒ぎがした。
「カナリア様、大丈夫ですか?」
「ええ……大丈夫よ」
ヒルダ達が来ることは本当に気まぐれなのだろうか。
国王陛下の出席に、突然のガストン伯爵の出席。
全てが偶然というには出来すぎていた。
私の知らないところで何か起きているのかと不安になってくる。
「カナリア様……」
突然背中が温かくなった。
私は振り返るとエマが私を両腕で包んでくれているのだ。
「大丈夫ですよ。もう最初の頃のような敵ばかりではありません。たくさんの方と協力したり、一緒に遊んだりしたではありませんか。たとえ何があってもシリウス様が守ってくださいますよ」
「エマ……そうよね」
もう少し頑張れば全てが報われるのだ。
こんなところでへこたれてはいけない。
「ありがとう、エマ。途中までエスコートをお願いしていいかしら」
「はい!」
エマの手に引かれ、私は会場へと戻る。
すると大きな騒ぎ声が聞こえてきた。
「何やら騒がしいですね」
エマが首を傾げて聞いてくる。
急に心臓が大きく脈打ち出した。
嫌な予感が──。
「ふ、フーガ族だ!」
「どうしてこいつらがいるんだ!」
どうして今日この場にいるはずのないフーガ族がいるのだ。
私とエマは顔を見合わせて、慌てて騒ぎのする方へ向かうのだった。
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