第30話 港町の開港と薬の完成
早くもひと月の時間が経ち、毎日が忙しなく過ぎていく。
この国の者達に少しでも協力してもらうため、茶会を開きながら情報を集め、そして困っている領地があれば、出来る限りの助言をしていった。
しかし今日の相手は貴族ではなかった。
馬車に乗って私は海沿いの町へとやってきた。
これまで交易場として栄えた町だが、ここ最近で大きく変わった町であろう。
私は商会へと赴いた。
「これはよくぞお越しくださいました、シリウス様並びにカナリア様」
ギルド長が手を差し出したので、シリウスと私は握手を交わした。
私が主導でやっているため、私が話をする。
「歓迎ありがとう存じます。無理を言い続けてごめんなさいね」
ギルド長の顔が一瞬だけ強張ったが、それを表に出さずに笑っていた。
「いいえ、これしきなんともありません。帝国が栄えたのも、兵力ではなく、経済だと身に染みました」
「ええ、これからは特に銀行が大きな力を持つ時代です。まだ属国になった国では制度が追いつかないはずですので、貴方達の力に掛かっております」
ギルド長は目を光らせて、私からまだ情報を引き出せないか考えているように思えた。
まだまだ役に立ってもらわないといけないので、私も彼らから用済みと思われないように小出しで情報を提供しなければならない。
「それは楽しみでございます。まだ来られたばかりで恐縮でございますが、今日は記念すべき日ですので、ぜひご挨拶をお願いいたします」
ギルド長と共に私たちは海の方へ向かった。
シリウスは紙を広げて、不思議そうに眺めた。
「本当にこんな証書をお金と思ってくれるもんなのか?」
この国ではお金は金貨等の貨幣制度しかないため、お金の価値を証明する紙幣については懐疑的だった。
「慣れていないだけですよ。今後は金貨よりもこっちへ転換していこうと思っているくらいです。そちらの方がお金を運ぶのも簡単ですし、それに銀行があれば帳簿上で全ての取引が出来て商売もどんどん発展していくと思います」
シリウスは「そういうものなのか」と納得してくれた。
そして私たちが向かった場所ではすでに多くの人だがりが出来ており、今日のこの瞬間を大変楽しみにしているようだった。
前に立って、ギルド長が挨拶をする。
「今日の良き日によくぞ集まってくれた! 準備に時間も掛かり、多くの出資者のおかげで無事に今日を迎えることが出来ました。そして今回の発案者で最大の出資者であらせられるカナリア・ノートメアシュトラーセ様から一言頂けるとのことだ! 心して聞くように!」
私はギルド長から紹介され、前で一礼した。
頭を上げると観客達から視線を注がれ、私の言葉に注目しているのが分かる。
「皆様、本日はお集まり頂きありがとう存じます。長い挨拶はあえて今回は省かせて頂きます。今日より──」
大きく息を吸い込んで──。
「“港町”を開港致します!」
私は大きな声で宣言すると、集まっている者達が歓声と共に帽子を空へと放り投げた。
「いええええ!」
「カナリア様、最高だ!」
次々にお酒や食べ物が運ばれてきて、海の近くで宴会をする。
ブルスタット公国では陸路でしか行商が無かったため、私が主導して海を使った貿易を実現した。
この後に帝国から船がやってくる予定だ。
多くの大店の主達が私へ挨拶をして、その後の展望についても尋ねてくるので、釣り糸を垂らすように情報を与えてあげた。
そして私はお金持ち達がたくさんのこの場を利用して、寄付金も多く募った。
「皆様、難病に苦しんでいる方々を治すのにお金が必要です。どうか、寄付をお願い致します」
商人達は私に恩を売れると思ってか、たくさんのお金を寄付してくれる。
本来はあまりよろしくないが、寄付金の額に比例して、多くの特典を用意することも伝えている。
だが今はどうにかしてお金を集めないと、私の太陽神の試練は続いているのだ。
だけどこれからはこの港町が大きくなれば、税でお返ししても十分に余るだろう。
それほどここが流通の要になることは間違いなかった。
シリウスが私に小声で話しかけた。
「カナリア、これでフーガ族も……」
「ええ。何もなければこれで解決するはずです」
多くの布石は打ち、お金も多く集まったので、それをヴィヴィの領地で苦しむ者達の治療薬に充てる。
そしてまた数日経つと──。
「カナリア様、無事に薬が完成しました!」
「本当ですか!」
薬師が私に報告してくれたので、私は急いで薬室へと向かった。
すでに大量生産して箱詰めされており、いつでも送ることが出来そうだった。
「皆さんの協力のおかげです。配達の手配は私がしておきますので、ゆっくりお休みください」
薬師達、全員にお礼を伝え、そしてこれまでの頑張りを称えた。
これで多くの関門を乗り越えて、私は私的なお茶会を開いて、久々のゆったりとした時間を過ごす。
「カナリー、本当に薬が完成したのですか!」
ヴィヴィが私の言葉を聞いて嬉しそうな声で聞き返した。
「そうよ、これなら次の国王陛下とお会いする日までには間に合いそうだわ」
「よかった……よかった」
ヴィヴィが泣き始めてしまった。
私は慌てて宥めた。
「もうー、まだ終わってないんだから泣くのは早いわよ。元気になった人たちの顔もまだ見てないんだから」
「違いますわ……だってカナリーはこれで国に帰らないのでしょ? そちらの方がわたくしは嬉しくて……」
ヴィヴィも今回の病気の調査には何度も手伝いをしてくれた。
何度か村に足を運んで、村人達を説得して、実際に薬を打って効果を確かめたり出来たのは彼女が常に村人達と良い関係を結んでくれたおかげだ。
しょうがないと私は宥めていると他の令嬢が顔を青くしているのに気付いた。
「顔色が悪いですが大丈夫ですか?」
「カナリア様、最近変な噂を聞きまして……」
令嬢は私たち以外に人がいないことを確認してから小声で話をする。
「港町でフーガ族を見かけたというお声がありましたので」
令嬢達がフーガ族の単語を聞いて急に不安がっていた。
「フーガ族って……まだ生き残られていたのですわね」
「もしかして王族に恨みがあってカナリア様を狙っているのかも……」
もし彼らを匿っていることを言ったら、私とヴィヴィは大きなバッシングを受けるかもしれない。
「それと、カナリア様がフーガ族と結託して何か良からぬことをしようとしているって噂がありましたの」
その言葉を聞いた令嬢達は一斉に笑い出した。
「まさか、カナリア様がそのような方達と面識あるはずがないですわよ」
「ええ。かなり野蛮な方々と聞いていますわ。そのような方とカナリア様が話なんて通じるわけありませんわよ」
噂のことを話した令嬢も「そうですよね……」と自分の言葉はあり得ないと笑っていた。
だがこんな変な噂を広げている者に一人だけ心当たりがある。
おそらくヒルダが何かしようとしているのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます