第2話 穴にゴミを捨て続ける

 その日、取引先に無理難題を押し付けれらたヒロキは困っていた。


「なあなあ、ゴミちゃーん、うちの解体品、リサイクルで引き取ってよー」


「えー?社長、これってリサイクル品じゃなくて建設廃棄物じゃないですか、うちだって引き取れませんよ」


「そこを何とかさー?」


 その日に限って、土屋社長は強引だった。


 金髪に染めた短髪で筋骨たくましく「豆タンク」の綽名をとる彼を、ヒロキは苦手としていた。

 最近は監督官庁も厳しく、賄賂で入札をとり建設費のピンハネをする、という得意のビジネスモデルが通用しなくなっているのだろう。損失を取引先に押し付けるため、リサイクル品と称して建設ゴミを引き取らせよう、というのだ。


 地方でビジネスをすると、こうした悪徳業者とも腐れ縁というか、諦めの境地でビジネスをしなければならない。


 結局、軽トラ一杯の建設ゴミを引き取らされてしまった。


「まあ、ものは考えようか。あの穴に捨ててみるか」


 それはヒロキの精一杯の強がりだった。


 が、自宅に戻り庭の穴にゴミを捨てていくうちに強がりは驚きに変わった。


 以前は事務所のゴミ袋を捨てただけでいっぱいになった穴が、軽トラのいっぱいの建設ゴミを捨てても埋まる気配がないのである。


「ひょっとして、穴が地下で広がっているのか…?」


 もしもそうなら、大変なことである。いつ自宅の下にまで穴が及んで家が傾くかしれたものではない。


「もっともっとゴミを放り込まないと…」


 ヒロキは軽トラ一杯のゴミを穴に放り込んだにもかかわらず全く堪えていない自分の身体能力に疑問を持つことなく、もっと多くの残土を放り込まなければ、と明日からの仕事予定を脳裏で修正していた。


 ★ ★ ★ ★ ★


 結局、ヒロキは悪徳土建屋から多くの建設ゴミを引き取った。


 さすがに無料ということはない。

 しかし相場よりもずっと低い額だ。

 中には家屋解体のゴミも含まれていた。


「これって、もう産業廃棄物じゃないか…」


 産業廃棄物の投棄は違法行為である。

 しかし、今は自宅の倒壊を防ぐためにも穴にゴミを投げ込みつづけなければならない、とヒロキは感じていた。


 ただ「そうしなければならない」という強い焦燥に駆られているのだ。

 その確信がどこから来ているのかはわからない。


 ヒロキは、軽トラで2杯にもなる大量のゴミを穴に放り込み続けた。


 しかしそれでも、穴は翌朝になると、依然としてそこに黒々とした穴を見せつけるのだ。

 まるで全ての行為が無駄である、とあざ笑うかのように。


 ★ ★ ★ ★ ★


 土建屋の土屋は、最近になってつき合いの増えた若いリサイクル屋のことが気になっていた。


 あのリサイクル屋はヤバい。

 少なくとも、ヤバい筋とつながっている、というのが長年、地元で土建屋をやってきた土屋の直観だった。


 産業廃棄物の不法投棄は銭になる。

 だが、よほどにうまくやらないと後ろに手が回る。

 なので地元にゴミを捨てる間抜けはいない。


 どこか他県の山間部にでも、ゴミを捨てているのだろう。

 金に困ってのことか、あるいは脅されてのことか、理由は土屋には関係がない。

 ただリサイクル屋がとんだ場合に備えておく必要はあるかもしれない。


 それまでは、せいぜいこちらも稼がせてももらおう。


 それが地元の土建屋を仕切る土屋の常識的な思考、というものだった。

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