第42話 「決戦」





「ターカスは敵軍に捕縛された!指定したA班3名はターカスの奪還と、ニューヨークシティ司令部破壊へ!私と向かうB班は、ホワイトハウス本司令部破壊へ!」


私は号令を出し、ロボット達を取りまとめると、一人乗りのホバーバイクに乗って浮き上がった。


アメリカ軍は、ホワイトハウスの本司令部と、ニューヨークシティ分司令部に分かれて、ロボットシステムが完全停止しないように、システムが2つに分けられている。私達はそのどちらもを破壊しないと、敵の進軍を止める事は出来ない。



ロボットが主たる手段になった現代の戦争でも、その上司である人間、ロボットを操る人間が、やむを得ず戦場へ赴く、と、お偉方は言う。


“冗談じゃない。戦争は人間が始める物だ。得体の知れないロボット風情に任せきりになどしておけるか!”


それが私の持論だった。



“間抜けにも捕らえられたターカスを、向こうの武器として使われる前に取り戻さなければいけない。それはA班に任せたが、たった3人で上手くいくのかどうか…”


私は、ホワイトハウスの見取り図を仮想ウィンドウで眺めながら、A班からの通信を待っていた。ニューヨークシティにはもう着いているはずだ。


“ロペス中将!こちら、A班です!”


ガラガラとした機械音が、耳にはめた通信端末から聴こえてくる。


「ターカスは!A班被害状況は!」


空の中を飛ぶ私は、風の音に負けないように喋った。


“ニューヨークシティ司令部は制圧しましたが、ターカスが居ません!逃げ出したと敵軍の将校“銭形”は言っています!A班の人員は一部負傷しましたが、リカバリー可能です!”


「でかした!お前達はそこで敵軍を見張り、奴らのロボット操作を止めろ!他に何かあるか!?」


“ロボット操作のシステムは、現在停止を試みておりますが、非常に複雑です!物理的な破壊は自爆に繋がると“銭形”は言っています!我々では停止出来ません!エンジニアを派遣して下さい!”


「なんだとぉ!?ああもう、分かった!エンジニアが行くまでぼーっと待ってやがれ!」


私はそう言って通信を切り、上司にロボットエンジニア派遣を要請しようとした。だが、上司は通信に出なかった。


“おかしいな…誰か居るはずだが…”


私は試しに、軍事衛星マップで、メキシコシティの現在の様子を見ようとした。その時、私は驚愕したのだ。


司令部の建物は、燃えていた。


「…ちくしょう!」


“エンジニアは全員人間だ…逃げ出していれば呼び出せるが、司令部がオシャカになったんじゃ、ニューヨークへ向かう乗り物もあるか分からない…これは敵軍の進軍スピードに間に合わない!ポリスならまだ安全だろう!あいつを呼ぼう!”


私は通信をポリスの本部へ回し、「シルバをニューヨークシティの敵軍司令部へ。制圧は完了している。システムを止めさせろ」と伝えた。


“シルバを?彼は市民のために情報収集をしている”


落ち着き払ってそう答えるロボットに腹が立ち、私は叫ぶ。


「こちとらエンジニアと連絡がつかねえんだ!敵のロボット進軍を止められなきゃメキシコは壊滅だ!メキシコ司令部にはもう火がついてる!早くしてくれ!」


“…分かった。向かわせよう”


応対役のロボットは、そう言って通信を切った。私は悔しかったが、憎きホワイトハウスめがけて、ホバーバイクを走らせた。





目の前では、ターカスがバラバラにされてしまっていた。オールドマンは驚くべき早さでターカスを解体していったのだ。


「おーおー。奴さん、ずいぶんと部品が多いんだな」


オールドマンはニヤッと笑って、途中からしていたゴーグルを引き上げる。


「こいつは戦術ロボットじゃ。要は、小さな艦隊じゃよ。部品は多くなけりゃ」


「そんなもんかね」


中のネジを一本摘まみとってから光に透かし、戻す。すると、オールドマンはこんな事を言った。彼は、ターカスの頭あたり、バラバラになった部品へと、異常な程尖った目の光を向けていた。


「スケプシ回路に、通常であれば無い部品を一つ見つけた。それを抜き去れば、恐らくこいつは自由意志など無くなる!私はそれを丹念に研究させて頂くんじゃ!こいつは木偶の坊で帰せばいい!誰も気づきなどしない!どうじゃ!」


アッハッハと笑うオールドマンに、俺も付き合いで少し笑って見せた。


「いいんじゃないですか」


「そうじゃろ!そうじゃろ!」


“自由意志、ねえ。そんな面倒な物と、こいつはおさらばってワケか…”


俺は、オールドマンがターカスの頭の辺りから一つの丸い部品を抜き取るのを見ていた。





“ロペス中将、シルバです。ニューヨークシティ司令部に向かっていますが、敵軍の爆撃を避けるので、少し時間が掛かります。そちらはどうですか”


通信端末の向こうからは、気に入らない平坦な声がした。


「もう着いてる。GR-80001達と、潜入中だ」


“失礼しました。それでは、ご武運を”


「ああ」


シルバとの通信は切れ、私達は、誰も居ない通路を、黙って屈んで進んだ。しかし、おかしい。


敵軍の司令部の中なのに、こちらの通信端末が使えた事。声を出しても音声認識システムに引っかからない事。まるで、このホワイトハウス司令部がもう死んでいるかのようだった。


私達は慎重に歩みを進めたが、それを馬鹿馬鹿しいと笑うように、要所要所にも、誰も居ず、途中から、壊れたロボットや、アメリカ軍将校の死体が転がっていた。


「どうなってんだ、こりゃあ…」


私は、廊下に転がっていた将校の死体を調べる。彼は眉間を正確に撃ち抜かれ、死んでいた。しかし、銃弾ではないらしい。銃弾ならもっと大きな穴が開く。


「先へ進みましょう中将。これなら、大統領も殺せるかもしれません」


「あ、ああ…そうだな…」


“おかしい…何が起きている…?”



私達が思い切って本司令部の会議室を開けると、その場で話し合っていたのであろう将校達は、全員死体になっていた。薄気味悪くなったが、そのまま大統領の執務室へ進む。


その時点でくぐってきたどの扉も、電子ロックが外れていた。まるで、誰かが私達のために道を開けたようだった。



「じゃあ、行くぞ」


「ええ。お気をつけて」


私は、後へついてくるGR-80001に頷いて、大統領執務室の扉を両手で引き開けた。


「ええっ!?」


そこには、今正に絶命したのであろう大統領と、大統領へ指先の熱線を向けていた、GR-80001が立っていた。





つづく

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