第27話 「正体」





「衛星の情報で熱源を確認するだけでは、この二人がターカスとエリックとする事は出来ません。でも、ほぼ間違いなくそうです。だからここに問題が生じます。エリックは家庭用ヒューマノイドです。彼ではターカスを捕らえる事は出来ない。そして、エリックに協力者が居た可能性もとても低い」


そこまでを言ったシルバ君の話を、私達は全員で聴いていた。アームストロングさん、銭形さんは不満そうで、マルメラードフさんはいらだっているようだった。メルバ君は下を向いて何かを考え込んでいた。シルバ君は続けてこう話す。


「あるいはターカスが何か弱みを握られたり、エリックがなんらかの装置を使えば可能かもしれません。ですが、今も二人は見つからないので、確かめようがありません。アームストロングさん、これ以上の捜査継続には、手段が足りません」


そう言われて、アームストロングさんは顎を片手でこすっていたけど、顔を上げてから、こう言った。


「出来ないと言うのか、シルバ」


そう言った時の彼は、恐ろしく冷たい表情をしていた。でも、もしくはそれは、彼が深く考え込みながら喋っているからかもしれなかった。


「ええ、これ以上は続けても無駄です」


その確認を終えると、アームストロングさんは私を振り返った。私は、不安で不安で堪らなかった。でも、そこでマルメラードフさんがこう言う。


「待ってくれ、アームストロング君。私は暴力犯対策室の室長として発言するがね」


そう言ったマルメラードフさんは、立ち上がってこちらを向いた。みんなその様子を見ていた。


「彼は戦争兵器だ。それを放置する事は、私には出来ん」


私はその時、「違うわ!」と叫びたかった。よっぽどそう言いたかったけど、メルバ君に見せてもらった、アルバちゃんが壊されていく映像を思い出すと、とてもそうは言えなかった。


「要は、探し方を変えればいい。シルバ君、君は防犯カメラへのアクセスは試してみたのかね?」


「ええ、何度も」


「しかし、新たに映り込んでいるかもしれないじゃないか。継続してそれを探るわけには?」


シルバ君は迷っていたみたいだけど、前を向くとこう言った。


「ターカスの不明から、もう3日は経っています」


「まだ3日だろう?」


まだ何か言いたげだったけど、シルバ君は黙り込んだ。そこで、アームストロングさんが場をまとめる。


「マルメラードフさん、分かりました。シルバ、その線で当たってみてくれないか」


「…分かりました」


後ろを向いてシルバ君が壁にウィンドウを映すと、それはすぐさま何十個ものコマに区切られ、そこにはあらゆる場所の防犯カメラの映像が早送りで流れた。すると、アームストロングさんが私の肩を掴む。そして私は歩行器ごと後ろを向かされた。


「あなたは遠慮して下さい、ヘラ嬢」


“そうだわ、あれはシルバ君だからやっていい事なのよね…”


私はそう考え込みながら、とりあえずは捜査が続けられる事にほっとしていた。





「「U-01」だって!?」


“アジト”に戻った私は(エリックは“アジト”という言葉をあえて使っていた)、エリックにグスタフが通信をしていた相手の番号を伝えた。しかし私は、それが誰なのかもう分かっていた。


エリックは驚愕してから俯き、両目を見開いて口元を手で覆っていた。顔を上げた時の彼は、初めて不安そうな表情を見せた。


「合衆自治区大統領…」


私は無言で頷く。


私達ロボットの頭脳には、いざという時のため、あらゆる情報が詰め込まれている。たとえばそれが、アメリカ合衆自治区大統領の部屋へ繋ぐ通信番号であったりする。


ただ、通常は私達はその情報を運用しないし、非常事態以外には他者に漏らす事もない。しかし今の私達は、「人間に不利益な行動をしない」というルールの足枷を解かれて、巨大な情報網を自在に操る事が出来る。


私は、驚いて黙ってしまったエリックの顔を覗き込んだ。


「エリック、状況はとても不利になりました。大統領の意志を曲げるのも、大統領を葬り去るのも、出来るものではありませんよ」


しかし、私がそう言うと、エリックは下から私を睨みつけてきた。そこにはもう一度炎が宿り、その向こう側には、強い悲しみが見えた。


「俺の主人が…なんのために死んだと思う」


私は何も言えなかった。エリックの主人は、陰謀を暴いて平和をもたらそうとしていたのに、裏切りによって亡き者にされたのだ。それを思えば、とてもエリックが諦めてくれるとは思えなかった。


「主人は、守ろうとしたんだ!止めようとしたんだ!そうだろう!」


私は思わず彼から目を逸らそうとしてしまったが、彼は、そうさせまじと私の両肩を掴んだ。そして、地を這うような低い声で、こう言う。


「大統領だろうがなんだろうが、関係ねえよ…絶対に止めてやる…!」





つづく

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