第15話「確保されたターカス」





「アームストロング、久しぶりだな」


「銭形殿、久しぶりです。このたびはありがとうございます」


私たちは通信のあと数分して、アームスーツに身を包んだ銭形と数人の部下を、ホーミュリア家に招き入れた。


「お前は相変わらず他人行儀だな」


つまらなそうにこちらを睨む銭形は、後ろの数人に顎をしゃくる。


「こいつがピーター、それからジョン、あとはリチャードだ。充分場数を越えてきた奴らを連れてきたつもりだが、“ヤワな方”だ」


銭形が“ヤワ”と言ったし、確かに彼らは見たところ人間のようだった。でも銭形も人間のような見た目に造られているため、話がややこしい。


ピーターと呼ばれた時に首を傾けた彼は、かなり背が高くくせっ毛で、リチャードは小柄で鼻が高く、そしてジョンは、大柄で筋肉の盛り上がった男だった。


銭形は細身で背が高い方だが、彼の目は薄い薄い赤色で、それは遥か遠くまで見通せる予測補正付きレンズであり、彼の腕はあらゆる近接武器の格納庫であり、そして足は爆発破壊のための燃焼室だ。


「どうぞ、お越し下さいまして…」


マリセルが彼らにお茶を出そうとすると、彼らは首を横に振った。


「アームストロング、時を争うんだ。詳細な説明を受けて筋道が立ったら、我々はすぐに飛ぶ」


「わかった。ではシルバ、メルバ」


私がソファで並んで待っていた二人を振り返ると、彼らは自分に保存された映像や文書データを用意して、もうこちらへ向けていた。




「はー…こりゃあ確かにお前さんらじゃ、ちと敵わないな」


メルバの目を通して保存されていたのは、おそらく「ターカス」とおぼしき残像に、アルバが次々と破壊されていく映像だった。


「あなた方の装備は」


メルバはいくらかイライラとしながら、銭形にそう聞く。


「こいつら三人はシップの中にレーザー砲なんかを積んでる。俺はこの体で足りるさ。だから先頭は俺だ」


そこでシルバはもう一度念を押した。


「できれば、ターカスは生け捕りにお願いします。令嬢の居場所が分かっていなければ、破壊はしないで下さい」


「わかってるよ。じゃあお前ら、話は聞いたか?」


「「「承知しました」」」









「コーネリア!これはダメよ!」


私がターカスに焼いてもらったお菓子を食べていた時、ちょうど網の外に出て家の中を歩き回っていたコーネリアがぴょんとテーブルに乗ってきて、私のフォークからお菓子を奪い取ろうとした。


「おやおやこれは」


ターカスがコーネリアを急いで抱き上げてくれたので、私はほっとする。


「ありがとう、ターカス」


コーネリアはじたばたとターカスの腕の中で暴れていて、私の方へ腕を伸ばしていた。私はそのコーネリアの鼻をちょいちょいとくすぐって話しかける。


「コーネリア、人間の食べものはお前には毒なのよ。いけない子ね」


そう言ってちょっと笑ってしまってから、私は最後のバステマを飲み下す。すると、ターカスは食器を浮かせて洗浄機へと運んだ。


「さて、お嬢様。お勉強もおやつの時間も済みましたようなので、食器をしまいましたら、わたくしは夕の食材の調達に参ります。よろしいでしょうか?」


「ええ、いいわ。私、今晩はフルーツがたっぷりある食事が食べたいの。探してきてちょうだい!」


「かしこまりました」



そうしてそのあとターカスの背中を見送った時の私は、自分たちがどうなるのかなんて、何も知らなかった。











「目標地点はかなり近い。お前ら、レーザー砲を準備しろ。私は空からの爆破を行う。煙幕が途切れた時にターカスがこちらに向かったら、迷わずに打て。アレはそんなにヤワじゃない。ちょっとやそっとで破壊なんかできんぞ」


「はい」


リチャードが注意深く下を眺めながら答えて、残る二人もレーザー砲が熱くなりすぎないように気をつけながらエネルギーを上げた。


「それから、1分して私が令嬢を連れ帰らず、ターカスもお前たちに攻撃をしない場合、ターカスと闘っているのは私だろう。その時は私を見つけて、援護射撃を頼む」


銭形が部下にそう命令を与えていた時、マルメラードフは緊張気味に後ろにある戦闘員が座ったシートを振り返っていた。


やがて、専用艇は空中で停止する。


「いいか。お前たちだけでターカスと対峙しなければいけない状況が避けられなくなったら、破壊覚悟で全力射撃だ」


「「「了解!」」」







わたしの耳にその時、小さなエネルギー体からの音声が入った。


「いけない、お嬢様が!」


わたしは水辺で捕まえようとした鯉を投げ捨て、慌てて飛行の体勢を立てようと振り返る。その時だった。



「お前がターカスか?」



わたしの目の前に、見たこともない人間が居て、でもすぐに彼が人間ではなく、私より高次の戦術用ロボットと分かった。


「待ちな!逃がさんぞ!」


私は飛んだ。走った。しかし相手はあくまでも私を追い続け、私たちは林の中に飛び込み、そこでもつれ合った。


ずざざざっと林の斜面を削りながら、私は彼を吹き飛ばそうと何度も爆撃を試みたが、彼の体には傷一つ付いていなかったようだった。


“こんなことをしていたら、お嬢様が!”


「放してください!お嬢様が!」


私がそう叫ぶと、彼は自分の両手で私の両手首を掴んだ。


すると私の両手首は離れなくなり、すぐさま両足も同じように何かで縛り上げられた。





私は林を突き抜けた芝生の上に転がりながら、自分を打ち倒した者を見上げる。


「磁力錠だ。同じ戦闘ロボットの君になら分かるだろう。さあ、ヘラ嬢はどこだ?」









Continue.

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