第14話「武力が足りない」

「ではお嬢様、過去に行われた世界大戦の数をお答え下さい」


「えっ?数…?えーと、えーと、確か最後が…あっ!そうよ!歴史記述は途中で二度途絶えているから、三回分の歴史の中の大戦の数、よね…?」


「ええ、そうです。そこまで分かればあとはもう少しですよ」


「うーんと、うーんと…6…12…2……20回!」


「正解です、ヘラお嬢様。それでは次の設問で最後となります」


「わかったわ」


私たちはその日、「地球史」の勉強をしていた。ターカスがウェッブから「テスト」を持ってきて、ここ何日かで学んだところのおさらいをした。



「点数は89点。これはとてもよい結果ですよ、お嬢様。今日はごほうびに甘いお菓子を焼きましょうか?」


「わあ!やったわ!ええ、ええ、そうしてちょうだい!」


するとその時、私はある一つのことを思い出した。



“そういえば、私たちが家出をする前に、屋敷ではマリセルが「バステマ」を焼いてくれていたんだわ…”



「どうしましたか?お嬢様」


私はこちらを覗き込んできたターカスをゆっくりと見上げて、こう聞いた。


「ねえ、ターカス…マリセルが…心配してやしないかしら…?」


ターカスはちょっと気まずそうに表情を堅くすると、私たちが掛けたテーブルの真ん中あたりへ目を落とした。


「それに、叔母様も…置いてきてしまって、探してはいないのかしら…?」


突然ターカスは顔を上げて私を見つめ、なぜかとても驚いたように目を見開いていた。


「ターカス?どうしてそんなに驚くの?」


居なくなった家族を探す。それってそんなに変なことかしら…。


それからターカスは、驚いただけではなくて、だんだん悲しそうになっていき、とうとう彼の目には涙のランプサインが表れた。


「お嬢様は、お戻りになりたいのでしょうか…」


そう言った時のターカスは本当に今にも消え入りそうに肩を落としていて、「心配だから、少しだけ様子を見たい」というだけのことも言えなかった。



そうよ。私たちは、お屋敷に帰ってしまえば離れ離れに引き離されてしまうんだもの。帰らないわ。


“でも、マリセルや、叔母様は、私を探していないのかしら…?ここには誰も来ないし…もう私たちが家出して何日も経つのに、それはちょっと変だわ…”


私は胸の内に疑問を隠し、泣きそうにしていたターカスに「バステマが食べたい」とだけ言った。











“人間と変わらない意思決定をする、戦争兵器ロボット…それがターカスのある一面…だとするならば、武力面でこちらは圧倒的に不利だ…”



マルメラードフ部長は客間のベッドで眠っていて、メルバはもうエネルギー補充から覚めていた。シルバはさっきから、マリセルとバックギャモンをしている。


私はこれからこの事件に取り組むため、アルバが戻る以上の武力増強が必要だと感じていた。


現に、アルバとメルバではターカスには敵わなかったのだから。


シルバは情報探索のための捜査員だし、私には捜査の指揮と人員管理しかできないだろう。


そう考えて、私がポリスの端末を取り出した時、別のポケットからアラーム音がした。それは私のプライベート端末の着信音だった。



「はい、アームストロングです」


“遅くなってすまない、銭形だ”


端末の向こうからは、息せき切って話す銭形の声がした。まるでこちらに合わせたようなタイミングに、私は驚いた。


「銭形殿、かなり掛かりましたね。一体どうしたのですか」


“今回は相手の問題だ。そのホーミュリア家はロボット工学の大いなる権威で、世界的に貢献した一族だろう”


「それならむしろ、もっと早くても良かったのでは」


“逆だよ。君は私の端末に、対象のロボットが「人格をコピーされたに近い者だ」と書送っただろう。そこでかなりの間、お偉方が揉めたんだ。そんなスキャンダルを明るみに出すのは、とな”


「ああ、それでですか。でも、あくまで「近い」だけですから…」


“疑問を差し挟む余地は即ちスキャンダルとなるのは分かるだろう。とにかく、私と、機動隊の部下数人がそちらへ派遣されることになった”


「それは有難い。よろしくお願いします」


“ああ、よろしく頼む。もうシップに乗った。あと少しで着くだろう。では”


「はい、では」



私が通信を切った時にはシルバとメルバはじっとこちらを見ていて、メルバの青い瞳は鋭く冴え、シルバの赤い目は静かに動かなかった。彼らの良い耳には、通信端末の音声が届いていたんだろう。


「新しい人員がまた世界連からやってくる。今度は機動隊の隊員で、内の一人は“銭形”だ」


「分かりました」


「あの化け物か…」







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