肆の湯 たらい行水♨にドボン
最初に言っておくと、さすがに「たらい」に「ドボン」はないですね。せいぜい「チャプン」。
風呂無し実家故の銭湯通いなわけですが、それでも、銭湯には定休日が存在します。よって、そんな日は、裏庭にたらいを出して行水をするわけです。
これがまた、時間帯が夕方の6時台と決まっていまして。まさに、蚊の活動メッカの時間帯なわけです。素っ裸になって、勝手口を出て、たらいが置いてある現場に小走りで行きます。たらいは、井戸に蓋がしてある場所に置いてありますが、井戸水ではなく、なぜか水道水を祖母はたらいに溜めます。
(この前、伯父さんと追い込み漁で獲ったどじょうを泳がせていたたらいなんだけどなあ)
と思いながらも、水が溜まったたらいの上に立ちます。
実家の水道は、山の伏流水から採ったものなので、夏でも冷たいのです。
「うっわ、冷た!」
そんなことを言っている間に、最早、耳の側で「ぷ~んぷ~ん」とやぶ蚊が羽音をさせて寄ってきます。
「ね~え、おばあちゃん、なんで、こんな時間に行水するの~?もっと早い時間がいい~!」
両手で闇雲にやぶ蚊を払いながら私がそう文句がましく尋ねます。
「だって、昼間っからだと、あっちぇねっかね」
豊満で垂れた乳房故に、奥深い谷間しか見えないワンピース姿の祖母が私を見上げてそう言います。
(銭湯の時は、いっつも、そのあっちぇ2時半に行くのに…)
後でわかったことですが、それでも、大嫌いな暑い昼に祖母が銭湯に行っていたのは、きっと祖母が一番風呂が好きだったからです。立て直した新築の実家での祖母の行動を見てわかりました。
最早、一番風呂がかなわないのであれば、暑さが収まる夕方に、孫の裸をやぶ蚊に差し出して行水させても自分は平気だったわけで(笑)
カナカナカナ…
すぐ近くの木で鳴いているヒグラシを無理を承知で探しながら、耳元で羽音をさせながら体に接近するやぶ蚊を手で追い払いながら、奥深いだけの祖母の胸の谷間が時々、目に入りながら、裏庭でたらいの行水が行われておりました。
肆の湯はここまで。さあ、♨あがりましょう。ぷ~ん。
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