弐の湯 脚が伸ばせるお風呂♨にドボン

 現在の私の住まいは、平成元年に建て直されたものです。

 それ以前の住まいは、昭和2年に建てられたもので、なんと、お風呂は無く、トイレですら家屋の外にある、という粗末な家でした。

 外履きを履いて土間から出て、屋根のある廊下みたいなところを歩いてトイレに行きます。もちろん、汲み取り式のトイレでありますので、夏は暑さと臭いがきつく、冬は寒くてたまったものではありません。夜中に、尿意をもよおして目覚めた時なんて最悪です。『あんな、寒い所に行きたくない』一心で二度寝を決め込んだことも数知れず。


 しか~し、住宅を立て直すということになって、いよいよ人並みの家(個人の感想です)に住めることに大きな歓びを感じずにはおれませんでした。居間はどうする、台所はどうする、自分の部屋はどうする、トイレは住宅の中に(当たり前!)と次々にアイディアを建築士につぎ込みました。

 そして、風呂は…

 もちろん、ドラマや映画に出てくるような脚が伸ばせるお風呂に~!

 ところが、建築士が頑として首を縦に振りません。「ああいうお風呂は危ないんです。お年寄りがいらっしゃるお宅には勧めません」と仰います。要するに、憧れの脚が伸ばせるお風呂は、何らかの原因で意識を失った方が、溺れやすいお風呂だということなのです。命を盾に取られると、それ以上は物が申せません。

 結局、余裕をもって体育座りをするような深くて四角い浴槽になりました。


 しかし、その後、三十年という長い月日で、浴室隣の脱衣所の床が抜けそうになったり、全面タイル貼りの浴室は冬の寒さで心臓麻痺を起こしそう、ということで、四年前にリニューアルして脚が伸ばせる浴槽付のユニット浴室に生まれ変わりました。

 年寄りは今も居ますが、家族からの進言空しく、大の風呂嫌い(しかし、シャワーは大好き)なため、浴槽に入ることはなく、命の危険は少ない、という判断です。


 壱の湯で紹介しましたお風呂用の枕は必須です。それがあるおかげで、脚を伸ばした状態で仮に失神しても、枕に後頭を乗せて脚を伸ばした体のバランスから言って顔が湯船の中に入ることはなく溺れることは回避できそうだからです。


 という理屈で、お風呂で転寝を繰り返している私でありますが、やはり、お風呂で眠ることは大変危険なようです。

 温かいお湯の張られた湯船に浸かると、熱を逃がして体温を平熱に戻そうと血管が拡張するために血圧は低下していきます。血圧が低下することで人間は眠くなるのですが、血圧が低い状態にあるとき、脳には十分な酸素が運搬されず、そしてその状態が続くと、場合によっては意識障害によって失神してしまう、ということですので、皆様、お気をつけなさってください(お前だろ!って話ですが)。


 弐の湯はここまで。さあ、♨あがりましょう。





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