7話 身の上と道のり

 一応、レオンからわたしのことに関して、事前に送った個人プロフィールで確認があった。もちろん問題はなかったけど、わたしもたぶん、知らない人からしたら背の低い、癖っ毛のブロンドって認識にしかならない人間だって、証明写真に殴りつけられた。

 

 とりあえずわたし達は、ただでさえ人通りの多いロビーの出入り口から少し離れた。

 

 それというのも、さっさと搭乗手続きをしようと思ったらレオンはそれを止めて、

「あー……その、実は、もう一人来るんだ」


「えっ、日本からはわたし一人だって……あ、レオンさんが来るほどだから、アカデミーに用がある方ですか?」


「う、うん……いや、君と同じ生徒」


「――――」わたしは何か言おうかと思ったけど「そうですか」やめた。


 まあ、事情があるんだろう。宇宙から、アカデミーのレオンを迎えによこさなきゃならない程のことが、きっと。嫉妬じゃないけど、わたしはおまけらしい。


 それにしても、レオンは気分を隠せない人だ。だからというか、たぶんだけど、わたしがついでであることを、申し訳なく思ってくれているんだということは伝わってくる。


 ちょっと、いいじゃない。


 ま、そんなこんなで背中を合わせて入り口を見張っているのだ。床で昼の日差しが反射してまぶしい。

 教えられたのはわたしと同い年ってことと、男ってこと。まあ個人情報だから仕方ない。


「そういえば新幹線で?」

 レオンが口を開いた。ただ、はい……じゃなくてイエスと答える。


「もうすぐホッカイドウからリニアが通るって聞いた。うらやましい」

 すごいことだとは思うけど、さほど興味がないことだったので、愛想笑いで返した。


「そういえば、面接で聞かれたと思うけど、君ももう『使える』のは、やっぱり親御さんから?」


「あ……はい。マ……母がイタリア人で、そういう家系だったらしいです。わたしは『柱』の後の生まれで、あ、母は日本に来て父に一目ぼれしてそのまま嫁いじゃったらしいんですけど、わたしがちょっと大きくなった頃、ふいっと実家に帰ったことがあったらしいんですね。わたしは覚えてないんですけど。

 すぐに戻ってきたと思ったら父の前に実家から持ってきた錬金術の研究資料をドザーって置いて、『私この子を錬金術師にするわ!』って」

 

後ろでレオンが噴き出すのが分かった。

「パワフルなお母さんだ。しかしそうか、君のは欧州の錬金術だ。じゃあウチのジ……学長が、お母さんの実家に行ったこともあるかもな」


「ああ、ええ……そうかもしれませんね」

 ……ううん。たぶん、きっと、行ってないんじゃないかな。


「あー……えっと、そういえば、ガウリさんの錬金術って……」


「ああ、シュヴァルツはドイツ、ガウリはインド。だけど全員ジ……学長に教わったから」

 『柱』当時、錬金術は注目を集めた。その歴史をまとめた本なんかがブームになったらしい。


 結果的に西欧が最も盛んだったけど、そのルーツもエジプトだとかインドとかの、アジア圏かイスラム圏じゃないかって言われてる。


「中国にもレンタンジュツ、ってのがあったらしいけど、二十世紀の革命で途絶えたんじゃないかって。学長が実地調査済み。ま、教える都合でアカデミーは西洋式で統一されてるけど」

 

 でもそのうち全種纏めるかもな、とレオンが呟いた。顔は見えないけど、苦笑交じりに。

 学長のことを話す時のレオンは、誇らしげで、すごく楽しそうで。やっぱり、きっと、家族なんだ。


 レオンが気さくなこともあって、わたし達はしばらく世間話に興じた。

 わたしは中学校の話とか、ママが日本に来た頃の失敗話。レオンはアカデミーのことが中心。統一言語をいっそエスペラント語にしてしまう案があったとか、結構突っ込んだ話もあった。

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