『柱』出現の翌日 ゴルドシュミット氏の記者会見より抜粋


『ええ、錬金術師というのは突き詰めれば非常に孤独な存在です。その業を受け継がせ、濃縮し、磨いて行くことを望む者もいれば、自分だけで高みを目指す者もいる。そのどちらもが、いわば秘密主義、門外不出の代物で何かの拍子に積み重ねは簡単に途絶えてしまう。私自身、錬金術の業がその勃興から、何世紀もの時を経てこの手にあるのは奇跡だと思っていますから』


『始まりは欲や名誉だったのでしょう。しかし、そこから今日の化学が生まれた。そして、真理に触れることを心から願って、錬金術の研究をする者もいたのです』


『私はこの素晴らしい技術が忘れ去られてしまう事が耐えられなかったのです。だから、表舞台に立つしかなかった。私にはその財もありましたし、幸運にも時間も待ってくれた。そしてタイミングです。科学の結晶たる軌道エレベータの建設直後、ここしかなかった』


『真理を目指す、という目的からは外れるでしょう。しかし、それでよいのです。それは今まで通り個人が目指せばいいこと。私はこの錬金術というものを、地球の日常の片隅に置きたいのです。それが錬金術を絶滅から守ることであり、発展させることでもあるのですから』


『既存の技術者から職を奪うのか、というご質問ですが正直に申し上げれば競合する部分はあるでしょう。ですが……これ、見えますでしょうか? 鋼鉄の粒です。ああ、カメラには見えにくいかな、ちょっと上げましょう。掌の上です。


 これを……おお、おお、皆さんそんなに驚くことはないんですよ。何に見えます? そう、ネジです。頭には十字が、胴には螺旋の溝が刻んである。キノコ型ですね。ですが、これはネジではないんです。十字はともかく、この螺旋。これは、どれだけ繊細で集中力のある錬金術師でも、私でも、一定の間隔を保って刻むことは難しい。だからこれは、ネジ『みたいなもの』に過ぎないんです。こういったものは機械の方が優れているし、その機械を製造、設計するのも技術者です。


 錬金術師の強みは、あの『柱』、実際には『筒』ですが、あれを構成する金属が最たるもので、あのような頑健な金属を発見したことからお分かりと思いますが、新素材の発見と製造、そして既存の技術では加工することさえ困難な材料の移動や、大まかな成型などですかね。いずれにしても私たちは、地図の空白地に降り立った開拓者なのです』


『え? ……う~ん、そうですね。これ、ホントは秘密なんですが……はい、あります。錬金術には不老不死の薬の作り方。おっと皆さん落ち着いて。……ほら、私を見てください! 自分で言うのもなんですが、こんな若々しいおじいさんそうそういないですよ!』

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