第3話:レズビアン仲間

「え゛っ、海ちゃん泊まるの?うちに?しばらく?しばらくっていつまで?」


「……熱りが冷めるまで」


「えぇ……」


「……ごめんね。麗音」


「いや……良いよ。全然。良いよ。気にしないで。……うん。大丈夫。俺は大丈夫。大丈夫です。ハイ」


 それからしばらく、僕は彼の家に居候することになった。そして、彼の家に居候して数ヶ月が過ぎた頃、僕と彼が付き合っている噂が流れた。噂自体は前から会ったのだけど同じ家に帰っていることがバレたことで拍車がかかった。


「お前ら同棲してるってマジ?」


「同棲じゃなくて居候。親に追い出されて路頭に迷ってたら麗音の母さんが拾ってくれて。それだけ」


 同じ部屋で寝てるのかとか、一緒に風呂に入ってるのかとか、ヤッたのかとか、そう聞かれることにうんざりした僕は、自分が男に興味が無いことをカミングアウトした。


「だから、こいつとは何にもねぇよ。キモい想像すんな。死ね。カス」


 すると次は、恋人は誰なのかとか、女同士のセックスってどうやるのかとか、そういったことをしつこく聞かれるようになった。矛先は仲が良かった女子達に向かい、僕の周りからは少しずつ人が消えていった。

 やがて、彼女が不登校になり始めた中二の冬、両親がようやく謝罪に来た。素直に家に帰ったが、ほとんど会話はなかった。そして中3の4月には、彼女はもう学校に在籍していなかった。何も言わずに転校してしまった。


 それから一年。高校生になるとすぐに、僕はバイト先で三つ年上の大学生の女性と仲良くなり、付き合うことになった。


「えっ。大学生?」


「そう」


「いいなぁー」


「……帆波には私が居るじゃん」


「うふふ。冗談よ。私は月子一筋よ〜」


「……いちゃいちゃしやがって」


「海の前くらいでしか出来ないんだもーん」


「……たまにさ、無性に死にたくなるよね」


「……じゃあ月子、一緒に死ぬ?」


 帆波がそう言った瞬間、時が止まった。


「や、やめてよそういう冗談……頑張って生きよう。一緒に」


「……そうね。一緒に生きようね」


 今思えば、この時の帆波の「死にたい」は半分は本気だったのだと思う。だけど当時の僕も月子も、彼女の言葉を重く受け止めずに軽く流した。


 その年の秋、僕が同性愛者なのではないかという噂が流れ始めた。きっかけは分からないけれど、多分、僕にフラれた男子が腹いせで流したのだと思う。


「そうだけど、何か?」


 僕は噂を素直に認めた。中学の一件があったけれど、このままずっと隠れているのも、月子と帆波の辛そうな顔を見ているのも辛かった。笑われようと、馬鹿にされようと、間違ってるのはお前らだよという態度を貫いた。内心折れそうだったけれど、月子と帆波も勇気を出してカミングアウトしてくれた。二人がいたから、僕は堂々としていられた。そしてもう一人。


「あの、私も……レズビアンかもしれない」


 そう告白してくれたのは佐倉さくら美夜みや。彼女は僕が恋人が居る話をしたら露骨にショックを受けていた。気付かないフリをして、勘違いさせないように気をつけながら友人として接した。

 しかし、高校二年の秋。僕は恋人にフラれた。好きな男性が出来たという理由で。

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