第2話:カミングアウト

 中二の春にようやく、僕は彼女に告白をした。彼女は戸惑いつつも受け入れてくれて、初めての恋人が出来た。麗音以外は誰も知らない内緒の関係だったけれど、毎日が楽しかった。ある日のこと。


「あのさ、安藤さん。相談があるんだけど」


 好きな女の子が居ると、クラスメイトから相談を受けた。彼女の名前は天龍てんりゅう月子つきこ。インパクトのある名前と中性的な見た目から、白王子なんて呼ばれていた。ちなみに何故白なのかというと、僕も同じくあだ名が王子だったから。月子が白で、僕が黒と、知らない間に区別をつけられていた。


「安藤さん、その……間違ってたらごめんね?あの子と付き合ってるよね?」


 月子は彼女との関係を知っていた。しかし、どこからか話が漏れたわけではなく、ただの勘だった。


「……うん。付き合ってる。内緒だよ」


「分かってる。誰にも言ってないよ」


「……僕ね、男の人に興味が無いんだ」


「……多分、私もそう」


 月子は当時付き合っていた彼女を除けば初めて出来たレズビアン仲間だった。


「誰が好きなの?」


「えっ、えっとね……隣のクラスの水元さんって分かる?」


「あぁー……あのちょっとぶりっ子っぽい腹黒そうな感じの」


「う、うん……けど、話してみると意外と芯の通った子でね。腹黒いのはまぁ……否定出来ないんだけど……でも、何故か私には優しくて……なんかやたらと可愛いって言ってくるし……」


「……なるほど。それで勘違いしたと」


「うっ……やっぱり勘違いかな……」


 その時はそう思っていたが、数日後に月子が好きだと言っていた彼女から同じ相談を受けた。


「告白して大丈夫だと思う」


「……でも、向こうは男の人が好きかも知れないじゃない?」


「大丈夫大丈夫。てか、月子からも同じ相談されたし」


「同じ相談って……」


「両思いってことだよ」


 こうして、二人は付き合うことになった。


 しかし、そこから数ヶ月経った秋のこと。母が二人きりで話がしたいと僕の部屋にやって来た。


「最近よくうちに来る女の子といつも部屋で何してるの?」


「何って何?普通に遊んでるだけだけど」


「じゃあなんでいつも鍵掛けてるの?」


「勝手に入って来られたらやだから」


「……海」


「何?」


「……あの女の子とどういう関係なの?」


 母に問われて、僕は意を決して彼女と付き合ってることを打ち明けた。すると、母はこう言った。


「……海。貴女は女の子なのよ」


「……分かってるよ。でも、女の子が好き」


「病院に行きましょう」


「……は?なにそれ。同性愛は病気だって言いたいわけ?だったら僕は病気で良いよ。治療されて無理矢理異性愛者にされるくらいなら死んだ方がマシなんだけど」


 すると母は僕の頬を叩いた。そして泣きながら「貴女のためを思って言ってるの!」と怒鳴った。


「どの辺りがだよ!気に入らないから洗脳しようとしてるだけだろ!」


 怒鳴り返すと、騒ぎを聞きつけた父が駆け寄って来た。父は母の味方をして、僕を否定した。言い争った末に、僕は家を追い出された。行く宛もなく歩いていると、バイト帰りの兄が僕を見つけて話を聞いてくれた。


「あぁ、そっか。やっぱりあの子お前の彼女だったんだ」


「……兄貴は否定しないんだ」


「しないよ。俺は海の味方」


「……ありがとう」


「ん。帰ろう。父さんと母さんも話せば分かってくれるよ」


「……やだ。帰らない」


「じゃあ今夜はどこで過ごすつもり?」


「この辺」


「野宿は危ないよ」


「けど、帰ったら病院連れて行かれるもん」


「……分かった。じゃあ、俺だけで説得してくるよ。それまで……どうしような……誰かの家にお邪魔するのもなぁ……」


 兄が悩んでいるところに声をかけてくれたのが麗音の母親だった。事情を話すと彼女は快く僕を迎え入れてくれた。麗音とは気まずかったが、そんなことも言っていられなかった。

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