第10話

「やっぱり,少し肌寒いですね」

私は何を喋ればいいのか分からず,思ったことを言った。

「そうだね。でも,少しずつだけど暖かくもなって来てるなって思ってるんだ」

「そうならないと嫌です。なんか…」

「そっか。そういえば,もう少しでゴールデンウィークだけど,夏樹ちゃんはなんか予定ある?」

「私ですか。何にもないです。なんか予定欲しいくらいです」

「そうなの?」

「はい…友達は彼氏といるみたいだし,私の家族はみんなインドア派なのでどこか出かけようとすら思ってないって感じで家で過ごして終わりかなって思ってます」

「ヘぇ〜そうなんだ」

「ところで,谷口さんは何かあるんですか?」

「僕はいつも通り,お店に出てるよ」

「大変ですね…」

「いや,そうでもないんだ。休みってこともあって人がたくさん来てくれるからね」

「それはいいですね。頑張ってください」

「うん。もちろんそのつもりだよ。そこで,お願いっていったらなんだけど,予定ないのなら手伝ってくれないかな?」

はてながいくつも浮かんで,戸惑いながら答えた。

「何をですか?」

「お店。1人だとやっぱりその時期は大変なんだ」

「別に予定も何もないですが,私そんなカフェで働いた経験とか無いですよ」

「そんな難しくないから,大丈夫だと思うよ」

「そうじゃなくて…」

「そうじゃなくて…?」

ついうっかり本音が溢れそうになっていた。

「いや,不安だなって思ったんです」

誤魔化せたか不安だったが,そのまま会話が続いた。

「そっか…そんなに気を負わなくていいのに」

「それで,谷口さんのお店の評判悪くなっても嫌なんです」

「そんな簡単に,評判悪くならないよ。それに,来てくれる人は限られているから。気にしなくていいよ」

「そうなんですか?だったら少し考えさせてください」

そういったのは,少しだけ頼られている感じがして嬉しかったからである。しかし,なんの自信もなかったのでその時は答えを出せなかった。

「考えてくれるんだ。嬉しい。急にだったからもうダメかなって思っていたから」

「考えますよ。なんか,話聞いていて大変そうだなとは思ったので。それに予定なんて何にも入ってない寂しい人間ですから」

「寂しい人間では無いと思うけど…」

「でも,谷口さんのお陰で寂しい人間ではなくなります。ありがとうございます」

「こちらこそありがとう」

「いえいえ,でもまだ少し考えてもいいですか?」

「もちろん。でも出来るだけ,早めに連絡くれると嬉しいな」

「それは,そのつもりです」

「ありがとう」

微笑みを交えながら谷口さんが言った。

そんな会話をしていたらいつのまにか家の周辺にきていた。

「もう,家が近いので,ここら辺で大丈夫ですよ」

「そうなんだ…じゃあ,僕たち家近いかもね」

「そうなんですか?」

「うん。僕もこの辺だよ」

「へぇ〜なんか意外です。お店の近くに住んでいるのかなって思っていました」

「まぁ,ここら辺の方がいい物件がたくさんあったんだ」

「そうだったんですね…じゃあ,私こっちなので帰ります」

「そっか…でも,僕もこっちなんだ…なんかごめんね」

「そんな気にしないでください」

家が近いってだけじゃなくて,通りも一緒だった。

「本当にご近所だったかもしれないですね」

「そうだね。なんで,今まで会わなかったんだろう」

「もしかしたら,会っていたけどお互い知り合ってないから気づかなかっただけかもしれないですよ」

「そうかもしれないね」

「私は,ここです」

そう言って私は私の家の前で止まった。

「じゃあ,さようなら」

手を振ってきたので,私も振り返した。

「また今度,お店行きますね。じゃあさようなら」

そう会話をして私は家へと入った。

「ただいま」

「おかえり。夏樹遅い。早くご飯食べるよ」

姉の由依がそう言った。

それを聞いてまだ食べてなかったのかと驚いた。

「だって…ごめん」

「連絡も付かないし,心配したんだから」

「心配してくれたんだ…ごめんなさい」

「まぁそんなのいいから食べるよ」

そう言われて,私はリビングへと行き家族みんなでご飯を食べた。ちなみに,今日のご飯はカレーライスだった。

「ごちそうさまでした」

私はそう言って食べた皿を洗った。

「そういえば,なんで遅くなったの?」

由依がニヤリとした笑顔を交えて聞いてきた。

「なんでってそれは…友達と喋っていたからだよ」

「ヘぇ〜その友達ってさっきの人?」

「みっ見ていたの?」

「見られたくなかったの?もしかして,さっきの人って…」

「いや,違う」

「ほんとう?だったら,あのお店に行って店主の人に聞くよ」

その聞き方はどうかと思う…

「ひどい…というかもうほとんどわかっているでしょ」

「うん。わかってるよ。なんか夏樹を見てると楽しくて…」

姉はやっぱり意地悪だ。

「楽しくないよ…私は…」

そうしょんぼりしていうと「ごめんごめん」と謝ってきた。

「別にいいけど…その聞き方はやめてほしい…」

「わかったよ。でどうなの?」

「どうなのってただの友達だよ」

「そうじゃなくて,夏樹はあの人のことどう思っているの?」

「私は…ごめん。言葉にしたくない…」

そう言って私は姉から逃げた。

一方で姉の由依は『かわいいな』と思うのだった。

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