第2話

あの雨の日から何日か経ったある日,私はやっとあの傘を返すことができた。

ここ数日学校やその他の予定が入っていたでなかなか返しにいくことができなかったのだ。

私はあの店の前まで来て少し入るまでに時間がかかってしまっていた。どうやって入ればいいのかわからなかったからである。私がそう悩んでいるとあの定員さんが私を見つけてこちらに来た。

「いらっしゃいませ。また来てくれたんですね。嬉しいです」

その人はニコニコの笑顔で私にそう言ってきた。

「あっあのどうも。この間はありがとうございます。お陰で雨に濡れずに済みました」

「それは良かったです」

「これこの間の傘です」

私はその定員さんに傘を差し出した。それで帰ろうと私は思っていた。

「ありがとうございます。返してくださらなくてもよかったのに…」

「いえ,そんなことはできません」

「いい人なんですね。では,もしお時間があるのでしたら,お店に寄っていってください」

そんなことを言われたので私はその言葉を素直に受け取ってこう答えた。

「時間あるのでそうします」

「席はどちらでも大丈夫ですよ」

そう言われたのでこの間のところに座ることにした。私はその席に座ってまたメニューと睨めっこしていると声が聞こえてきた。

「またお悩みですか?」

「はい。実は,また悩んでまして…だってどれも美味しそうなんですもん」

「そう言っていただけるのはありがたいです。ゆっくり悩んでくださいね」

「ありがとございます。でも,私この間と同じのにすることにします」

私はあえて冒険しないことにした。なぜなら,この間食べた味が忘れられなかったからだ。

「わかりました」

「そういえば,覚えていてくれているのですね。頼んだの。すごいですね」

「まぁ,あんな美味しそうに食べてくれる人なかなかいないですから」

「なんか,恥ずかしいです」

私は顔が暑くなって下を向いた。

「恥ずかしくなんかないですよ」

「なら…いいのですが…」

「では作ってきますね」

私はそれを聞いて,改めて店を見渡した。すると,ふとした疑問が出てきた。そう思っているとケーキが運ばれてきた。

「お待たせいたしました」

「ありがとうございます。ところで質問いいですか?」

「はい。なんでも聞いてくださって大丈夫ですよ」

「あの…他の定員さんっていらっしゃらないのですか?」

「はい。今いないんですよね。僕だけでこのお店やってます」

「そうだったんですね。すごいですね」

「そんなことないですよ。それもお客さんいてのことですから」

「そうですか…」

「そうです。では,僕は戻りますね。ゆっくりとしていてください」

「あっあのもしよかったら,一緒に喋りませんか?なんか…えっとしゃべってみたくなりまして…それにほかにお客さんもいないみたいですし…」

私はものすごく勇気を振り絞ってこう言い放った。

「えっ…?」

それが聞こえてきた瞬間,言っちゃいけないことだったなと反省をした。

「嫌でしたよね…ごめんなさい」

「そうではないですよ。ただ,驚いただけです」

「あっそうなんですね…」

そう言いながら下を向いた。

「それはいいとして,喋りましょうか?」

そう言いながら私の向かいの席に座った。その時,その定員さんは少し微笑んでいた。

「へっ?いいんですか?」

「いいですよ。何を喋りますか?」

「えっと…まず名前から聞いていいですか?」

「名前は谷口 晴翔はるとです。晴翔でいいですよ」

「それは…悪いですよ。私年下ですし…」

「そんな歳変わらないと思いますよ」

「ちなみに私は20歳です」

「僕は26歳です」

「私的には大分離れていると思うのですが…」

「でも,僕気にしないのでそう呼んでください」

「呼べそうにないです。なので,谷口さんと呼ばせていただきます」

「そうですか…」

何故か肩が落ちていた。

「それで,私の名前は濱田 夏樹なつきです。私は夏樹でいいです」

「じゃあ夏樹ちゃんでいいかな?」

「なんで,そう呼ぶんですか。恥ずかしいのですが…私そんな『ちゃん』付けられるタイプじゃないので慣れそうにありません」

「なら,晴翔って呼んでください」

意地悪そうな笑みを浮かべながら言われた。私はそれ以上何もいえなかった。

「わかりました。ではそれでいいですよ」

そんな会話をしていると,他のお客さんがきてしまった。それ以上会話をすることはできなかった…

『はぁもう少し喋りたかったなぁ』

名前を聞くことはできたが,ほかに展開は何にもなかったからである。

そう残念がってケーキを食べて紅茶を飲み終わると,私は700円を握って会計へと向かった。

「これでお願いします」

「夏樹ちゃん。ちょうどですね。ありがとうございます」

またあの笑顔が出た。『ずるい…』そう思わずにはいられなかった。

「なんで,名前呼ぶんですか?」

「なんとなく。呼びたくなっちゃいました」

「そうですか…それはいいとして今日もおいしかったです」

「ありがとうございます。またいらっしゃってくださいね」

「はい。もちろんです。では,行きますね」

私は少し足早にその店を後にしようとした。理由は,これ以上からかわれると私の心が持たないのと,顔がものすごく暑くなっていたからである。

「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」

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