春の日のこと
明日野もこ
第1話
ある春の日に私はあの人に出会った。
不思議なくらい眩しくて輝いていたあの笑顔を私は今も忘れることができない。
もう会うことなんかないって知りながらあの笑顔に会いたいと思っている。
そうもう一度だけ会いたい。
それでも,あの人は私のことなど覚えていないだろう。
いつのまにか雲の切れ間がなくなっていて,雨が降りそうな空模様になっていた。私はそのことに気付いて,慌ててあるカフェに立ち寄った。そのカフェにあの人がいた。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「えっと…一人です」
「おひとり様ですね。こちらの席でよろしいでしょうか?」
「あっはい」
その席は窓に近く,二人がけの席だった。私が見渡す限り私以外にお客さんはいなかった。そして,窓の外を見ると案の定雨が降ってきていた。ぎりぎり私は雨に濡れずに済んだのだ。
これいつ止むのだろう?早く止まないかな?帰れない…そんなことを考えていた時急に話しかけられて私はびっくりした。
「雨降ってきちゃいましたね」
「えっ?あっそうですね」
その慌てぶりをみたからなのか。
「ごめんなさい。驚かすつもりはなかったんですが…」
そんなことを言われてしまった。
「気にしないでください。ほんとに」
「そうですか?ならいいのですが…ちなみに,お水とメニューをお持ちしました」
「ありがとうございます」
私はそれを受け取りメニューをパラパラと見た。そして,どれも美味しそうだったので,なにを頼もうか迷ってしまった。そこで,先程の定員さんに聞いた。
「おすすめとかありますか?」
「おすすめですか?そうですね…チョコレートケーキと紅茶ですね。まぁ僕の主観的なものですが…人気のメニューだったらまた違いますが僕はその組み合わせが好きですね」
「そうなんですね。人気メニューはちなみになんですか?」
「それは,モンブランとコーヒーの組み合わせですね」
「じゃあ私は,店員さんのおすすめでお願いします」
「かしこまりました」
あの笑顔とともにその店員さんが言った。
「お待たせしました」
そうして,私の頼んだケーキと紅茶がやってきた。
ケーキはラズベリーと少しのホイップが乗っていた。食べてみると,甘酸っぱさとホイップの甘さが際立っていてとても美味しかった。
紅茶の方はと言うと匂いがとても良かった。今までに飲んだことないようなもので本当に美味しかった。
「美味しいですか?」
私はまたその定員さんに話しかけられた。
「美味しいです。初めて食べました。こんな美味しいの」
「そうですか?ありがとうございます。やっぱりいいですね。お客さんの喜ぶ顔を見ることって。思いっきり楽しく食べてくれる人久しぶりに見ました」
そう言ってまたあの笑顔が出た。私はその顔を見ていいなと思ったのと同時に,そんなところ見られていたんだと思うと恥ずかしくなった。
「えっ?そんな顔してました?見られていると思わなくて…」
「それは,いい食べ方だと思います。それに僕は作っていてよかったなと思いました。ありがとうございます」
「いえ,そんなことはないと思いますけど…」
「そんなことありますよ…あっでは,ゆっくりとしていってください」
と言って,入ってきたお客さんの対応をしに行った。
ちなみに私は,あなたの笑顔には負けます。そう言いたくなった。
私はそれから残っていたものを食べて飲んだ。そして,ご馳走様でした。そう心の中でつぶやいて,私は会計へと向かった。
「ご馳走様でした。おいしかったです」
「良かったです」
「また来ます」
「ありがとうございます。ちなみに合計は700円になります」
「えっと…これでお願いします」
そう言って,私は700円をトレーに置いた。
「ちょうどお預かりします…これレシートです」
「ありがとうございます」
私が店を出ようとした時,私は先程の定員さんに話しかけられたのだ。
「あっあの,これから雨が強くなるみたいで,もしよかったらお店の傘使いますか?これなんですけど…」
「そんなの悪いです。大丈夫ですよ。ここから家まで近いですし…」
本当は全く家まで近くなかった。だけども,すぐにはこられそうもない場所だったので簡単には借りれなかったのだ。しかしそれを察してなのか,その人は引き下がらなかった。
「傘持っていないようですし…それに,また今度来たら返してくれれば問題ないです。だから,もしよかったらこれ持っていってください」
私の目の前に傘が差し出された。
「あっありがとうございます」
そう返事をするしかなかった。私はその傘を受け取ってその店を出た。
「ありがとうございました。またのご来店楽しみにしています」」
そんな声が定員さんから聞こえてきた。その後,私はその場所が大好きになるのだった。でも,それは少し先の話。
結局,雨はそのあと土砂降りになった。私は傘をもらってよかったなと思った。
それに,あんなにすてきなカフェも見つけることもできた。私はそう思っているとあの店員さんの笑顔を思い出した。それと同時にその人の名前を聞くのを忘れていたことに気付いた。
それもあってか,早くあのカフェに行きたいなと思った。ケーキは美味しかったし、あの笑顔にあってしまったからである。まぁ,一番は傘も返さないといけなかったからだ。
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