EP14「#かわいそうな桜」

桜はソーエンの街へ向かう馬車の中で目を覚ました。

「あ、起きた?桜おはよ」

「あ、うん。おはよ……え!?そんな反応!?俺死にかけてたのに!?」

窓際に肘を付きながら桜を横目で見る飴ちゃんに、桜が食い気味に身体を起こす。

「死にかけてたっていうか。あれは死んでましたけどね」

のんびりした咲の穏やかな表情に桜はぽかんと口を開ける。

「え?いや?え?俺死んだん?」

「おん。咲ちゃんのお陰で今は生きてるけどな」

ゆったりと流れる車窓を眺めながら、飴ちゃんがふわっと欠伸をもらした。

「いや、おかしいんよ。そう簡単に死んだり生き返ったりしやんのよ。ゲームの世界じゃあるまいし」

イキイキとツッコミを入れる周回遅れの桜にジリが優しく付き合う。

「いやまぁ、ゲームの世界みたいなもんですけどねぇ。ここ」

「いや、そうやとしても、そういう事じゃなくて、そういう事じゃなくて。え?俺ガチで死んだん?」

状況の飲み込めない桜に、親切に説明をしようとしたジリをオムライスが遮った。

「もう桜さん死んでた方が静かでよかった〜」

「え。あ、はい。ごめんなさい」

少しの間、沈黙が流れる。

小さな石に乗り上げた馬車の動きに合わせ荷台が軋む音が聞こえた。

「あーもう!馬車ってアニメで見てたよりも乗り心地悪いし、腰痛いし、揺れるし。獣臭いし……酔いそう。最悪」

飴ちゃんのぶつくさ言う文句を遮って、1度は口を噤んだ桜がやはりどうしても聞かずには居られないように問いかけた。

「で、え?どういう事なん?ここゲームの世界確定?なんで俺死んだのに生きてるん?」

「で、ここからの計画なんですけど……」

話が進まない事に少しイラついた様子でジリが懐から羊皮紙を取り出した。

「え、無視!?俺の事オール無視!?」

「桜、うるさい。知りたかったら前のページ見直して」

「めちゃめちゃメタ発言!!」


「ソーエンについたらとりあえず宿ですね。咲さん今手持ちどんな感じですか?」

咲が皮袋を取りだし中の金貨を確認する。

「飴ちゃんとオムさんのお陰で、そこそこの余裕はありますね。ただ、ソーエンの相場が分からないのでなんとも……着いたら市場に行ってみましょうか」

「……それさくも頑張ったもん」

桜が皮袋の金貨を恨めしそうに見て咲を見つめる。

ガタンとまた馬車が揺れ、外を見ていた飴ちゃんが小さく舌打ちをした。

ソーエンの街はもうすぐだ。


馬車がソーエンの街に入ると、正に大都市と言った風景が窓の外に広がっていた。

道は綺麗に整備されており、心做しか飴ちゃんもご機嫌な表情を浮かべているように見える。

咲は外にいる獣人達を見て、目をキラキラ輝かせている。

「あ!あの人はきっとジャッカルがモチーフですね!こっちの背の高い人は……オカピがモチーフですかね!ね?」

「めちゃくちゃくせ強い獣人しかおらんのすか?」

ジリが興味の無さそうに答えるが、その目はライオンの獣人に釘付けになっている。

どうやらジリも獣人には惹かれるものがあるようだ。


馬車が広場で止まり、咲が転がるように飛び出して、人混みに向かっていったのを4人は呆然として見送った。

「ほな。うちらも行こか」

「とりあえず相場っすね……飴ちゃん。出番っすよ」

「はいよー!任しとき。うちにかかれば余裕やで!」

馬車からおりた飴ちゃんが腰を叩きながら満面の笑みでピースサインを突き出した。

「オムも行くー!」

「あ、ちょっとオム待って!あ、桜さん荷物お願いしますね」


「俺…………病み上がりちゃうん?」

残された桜は1人呟きながら皆の荷物を抱えて馬車を後にした。

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