EP13「イノーベーション」
「くっそあいつ。やりたい放題するだけして、どっか行ったな。能力のことも聞き損ねたし」
「
咲の呟きに、1度死んで生き返ったジリの妙なテンションも、少し落ち着いて、腕を組みながら考える顔をする。
「こうなってくると、本格的にここは異世界なんすね」
「……きらちゃんの能力は派手でしたけど、もしかして、ぴのさんのあの豪運もその能力……って考えられませんか?」
咲の何気ない言葉にジリがハッとしたように顔をあげる。
「きらも、ぴのさんも異能持ち……?だとすると、俺らにも、あったりしないっすかね」
ジリが少し目を輝かせながら咲に問いかける。
「あるかも知れないです。もしかして獣化とか!!!……あるかも知れないですよね」
漏れ出た性癖を隠すように咲が努めて冷静に分析を始める。
私たちが異能持ちだとして、能力を発現させる方法が今は分からない。
私たちの持つ能力がどんなものなのかも、不明。
分からない事が今は多すぎる。
咲は考えをまとめるように、現状わかっている事をジリに伝えた。
「きらもぴのさんも能力の癖凄いっすよね。俺やったら何になるんでしょ。俺らの周りのやつ濃すぎて、絶対俺埋もれますよ?桜さんとか絶対能力まで癖強いっすよ。だってここに手錠付けてくるんすよ?」
「手錠……?もしかして」
咲が何か思いついたように考え込んだ後、カバンからタブレットを取り出して、起動させた。
画面には大きく
「
次の瞬間、タブレットの電源が落ち、画面は真っ暗になった。
「え?なんすか?今の」
問いかけるジリに視線をやることも無く、咲は自分の考えに没頭する。
再び電源を付けると、背景は設定した覚えのない、真っ黒な下地に「welcome to the Stadium2001」の文字が浮かび上がった壁紙に変わっており、ホーム画面には見覚えのないアプリが数種類あった。
ジリは返事をしない咲の様子を伺うように見つめていた。
しばらくタブレットを触った後、咲は納得したように、タブレットの画面を切り、鞄にしまった。
「ジリさん。ヘルメット少し貸してください」
「え、あ、はい」
予想だにしない咲の要望に少し戸惑いながらも、ジリは鞄から、ヘルメットを咲に差し出した。
咲は注意深く、ジリのヘルメットを隅々まで凝視し、中を触ったり被ったりした後、腑に落ちないような顔をしてヘルメットをジリに返した。
「うーん。何も分からないですね。ジリさん、このヘルメット何か変わったところって無いですか?」
ジリは手元に帰ってきたヘルメットをまじまじと見つめたが、外観に特に大きく変化は無かった。
「いや。特に変わったところは無いっすね」
ジリはヘルメットの顎紐を持って振り回しながら答えた。
「で、これがなんなんすか?」
ジリがヘルメットを無造作に放りなげて、――思いの外投げすぎて物凄いスピードで加速度的に落ちてくる黒い塊を見て、ヒュッと息を飲んだ。
「やべっ。咲さん危ない!」
反射的に伸ばした手を阻むように、ドスンと大きな盾が2人の間に立ちはだかった。
「「え?」」
盾の内側には
「な、なんすか?これ?俺のヘルメットは?」
「……なるほど。発動の条件は使用者が持ち主である事みたいですね」
「なるほど?……さっぱりわからんっす」
ジリは狐につままれたような顔をしながら目の前の大きな盾を眺めていた。
「つまり、皆何か能力は持っているんです。条件はこの世界に持ってきた物を使うこと。使用者が本人である事。特定の行動をする事。この3つだと思います」
「なるほど。ならうちらもなんかしたら能力が発現するってことか。とりあえず咲ちゃんとジリとぴのちゃんの能力について聞いてもいい?」
「はい。そうですね」
咲は小さく上下し始めた桜の胸から目を離し、手元のタブレットを飴ちゃんに指し示しながら、話し始めた。
咲の話を要約すると
咲自身の能力、
アプリ毎に対応した魔法のような力を自分の周りに発動させる事のできる能力だ。
まだ使用用途も分からない物も多く、今は回復魔法:『High heal‐崇高なる救済‐』しか使い道が分からない。
ジリの能力
盾に対する衝撃に均衡する力を盾から返すことが出来る。
だが、先程のりあとの1戦を見る限り、盾自体は衝撃に対して対抗できるだけの力を発揮するが、使用者であるジリはその限りでは無い。
その為、先程はジリの身体が地面にめり込んでしまったようだ。
守る為の盾でジリに負荷がかかる辺り、正に矛盾と言う言葉がしっくりくる。
ぴのの能力は、あくまで推測ではあるが、コインの裏表により天文学的な確率の偶然を引き寄せる事が出来るものだ。
咲はこの能力に
「…………オシャレだね」
飴ちゃんがボソッと呟いた。
発現条件はシンプルにコイントスだろう。
ぴのが理解してやっているかは定かでは無い上、元々ぴのが豪運であるだけ。で説明は出来てしまう辺り、やはり確証には欠ける。
りあの能力は叫び声の音波による衝撃波と、持続的な身体能力の強化だと思われる。
発動条件は、あの様子から見ると『怒り』だろう。
何が琴線に触れたかは分からないが。
「じゃあ、オムも能力あるって事やんな?なにかなぁ」
オムが元気よくポケットからスプーンを取り出しながら、振り回し多様なポーズを決めた。
「オム……真面目にやってる?」
眉間にシワを寄せながら飴ちゃんが呟いた。
「やってるもん!だってどうやったらいいかわからんし!」
「てゆか、スプーンってすくう以外に使い道ある?てか、なにすくうん。使い道無さそー。オムの能力はザコ確定やな」
「……そんなんそんなんやん」
拗ねたオムライスを他所に何かを思い出したように飴ちゃんが尋ねた。
「そういえば、咲ちゃん、最初にタブレット開いてなかったっけ?あの時は何もなかったよな?」
「はい。それなんですが先程『使用』と言いましたが、厳密には『明確な意志を持った上での使用』だと思います。私だと、タブレットがきっかけだという確信がありましたし、ジリさんだと、飛ばしたヘルメットから私を守ろうとしてましたし。但し、望んだ能力がそのまま身につくわけではないようです」
飴ちゃんが何かを察したように「なるほど」と口にした。
「なるほど!望んだ能力が身につくなら、咲さん獣人になれるはずだもんね!」
「……」
飴ちゃんが黙ってオムライスの頭を拳で小突いた。
「いたっ!?」
「何にせよそれなら、ぴのちゃとか、りあちゃみたいな、感覚で出来てまう系じゃない限り、ウチらが能力使えるようになるにはまだもうちょいかかりそうやなぁ」
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