EP12「桜、リターンズ」

レストランの裏手の廃屋に連れられた飴ちゃんは自分の目を疑った。

静かになった桜の体に咲が手をかざすと、桜の傷が見る見るうちに塞がっていく。

まるで魔法かなにかのようなその光景は飴ちゃんから言葉を奪うのに充分だった。

「これで、大丈夫なはずです。このアプリの説明通りなら桜さんが目を覚ますのを待つだけですね」

「え?……え?……?」

頬を濡らした飴ちゃんは混乱した様子で咲の方を呆然と見る。

2人のやり取りを見ていたオムライスが不思議そうに首をかしげる。

「アプリ?え?それ使えるん?貸して!オムそれで遊ぶ!」

オムライスが強引に咲の手からタブレットを奪うと、タブレットの画面が暗転した。

「あ、それ私が持って無いと画面付かないみたいなんです」

それを聞きふくれっ面になったオムライスがタブレットを咲にしぶしぶ手渡した。

「あ、さくら……」

掠れた声に咲とオムライスがタブレットから横たわる肢体に視線を戻す。

桜の土気色になった頬に徐々に血色が戻ってきている。

微かに動く指先に飴ちゃんは再び涙ぐんだ。

「よかった。大丈夫そうですね」

飴ちゃんの強張った身体から力が抜けていく。

オムライスが不思議そうに桜とタブレットを見比べる。

「これのおかげ?」

きょとんとするオムライスにつられて、飴ちゃんが咲のタブレットを覗き込むとそこにはいくつかのアプリがホーム画面にあるのが見えた。


「咲ちゃん。これなに?」

画面の中のアイコンの1つが明滅している。

赤いハイヒールのイラストのアイコンである。

「これが私の能力みたいです」

「どういう能力?えっとなになに『High heal‐崇高なる救済‐』……。

 …………おしゃれだね」

「……そうですね」

2人の間を静寂が駆け抜けた。


咲は考えた。

もしこの世界を作った神様がいたとして、その神様はどんな人なんだろう。

獣人が新しく書籍の分類に入ってるくらいだからきっと、ケモナーなんだろう。私とは趣味が合う。月が二つに分かれたのも神様の意思だと言うのなら、その発想も惹かれるものがある。

咲は瞼の裏にこの世界の創造神を思い描いた。

ぼぉっと浮かぶシルエット。顔はよく見えないけど、男性のように見える。

神というくらいだから美形に違いない。

咲は自分好みの美形を思い描いて、


頭の中で何度も何度も殴りつけた。


ネグリジェの事といい、この絶望的なネーミングセンスといい。

この神は私に喧嘩を売っているとしか思えない。

もし本当に神に会うことがあったなら、気が済むまでボコボコにしてやると咲は拳を握りしめた。


「なんかわからへんけど、咲ちゃんは回復系の人?能力って、さっきのジリの盾みたいなのも、それ?」

「そうですね。……まずはその話からしましょうか」

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