EP11「正しいジリの使い方」

突然、横から衝撃を受け、飴ちゃんが崩れ落ちる。


「ばぅあァ!」

怪獣の攻撃を目の前の何かが防いだ。


「っ、間に、合った?……みたいっすね」

滲んだ視界に大きな背中が映る。

店を一瞬で破壊したあの怪獣の攻撃を防ぐことなんてできるの?

飴ちゃんは混乱した頭で目の前の背中を凝視する。

握りしめた手は力が入りすぎて血が滲んでいる。

「飴ちゃん。飴ちゃん!大丈夫ですか?立てますか?」

咲が飴ちゃんの傍に駆け寄る。

「咲ちゃ……オムが……桜が……」

飴ちゃんは掠れた声で咲に訴える。

「無事ですよ。2人の所に避難しましょう」

飴ちゃんの自分では動かす事が出来なくなっていた手を優しく包み込むように咲が指を1本1本開いていく。

包丁が音を立てて地面に転がる。

涙でぐしゃぐしゃになった顔で差し出された咲の小さな肩を見る。

「で……でも。ジリが……」

「ジリさんなら大丈夫です。さぁ」

咲の肩を借り、店を後にしようとする飴ちゃんの耳に厄災の咆哮が再び届く。

「ばぅ!ばぅあうあァァァア」

咲の肩越しに見えたジリは、身の丈ほどの大きな盾を構え、緑の怪獣と対峙していた。


「りあさん。俺に何ができるかはわかんないすけど、今俺にしか皆は守れないんすよ」

ジリが盾で怪獣を押すと、怪獣は少しよろけた。

怪獣は一瞬、何が起きたのかわからずきょとんとした様子だったが、すぐにその表情は怒りへと変わり、猛攻がジリを襲う。

建物ならば一瞬で吹き飛んでいるような衝撃をジリは一手に引き受ける。

ジリの足が石畳に沈んでいく。

怪獣の怒りの形相は更に険しくなり、1拍のち、さっきよりも大きく深く息を吸い込む気配がした。

「これ……俺耐えれるんかなぁ」

ジリが困ったように笑いながら身構えて盾に身をひそめる。


「ばぅばぅあァァアア」


咆哮をまともに受けたジリの体がどんどん地面に吸い込まれていく。

膝上ほどまで埋まってしまったジリの表情が強張っていた。

追撃に備え、ジリはぐっと全身に力を入れた。


「あれ?りあちゃん?なにしてんのー?」

能天気な声が辺りに響いた。

「ばぅあ。ばぅあ」

「どしたーん。何そんなに怒ってんのー?」

ぴのは自分の危険も顧みず、怪獣とジリの間に割り込んだ。

「ばぅ。ばぅあぅ」

「ほんほん。え?」

「ばーぅばぅあ。おじいばぅあ」

「香水の匂いが?あーそれは桜が悪いなぁ」

ん?いや?えっ?会話してる?

ジリは盾の影からそっと二人を覗き込んだ。

全身の緊張が一気に抜けていく。

「ばぅあー。おじい!ちぇーん!ちぇーん!」

「桜、いっぺん死んでんねんし、それで勘弁したり」

「ばぅ」

「ほんでその香水なんやけどさ、ブランドなんやっけ?さっきあっちのお店で似たようなのあったで?」

「ぴにょ。さっきの場所に戻れないでしょ」

あ、喋った。え?こっちのりあさん喋れんのか。

「いきなりしゃべるな!やかましっ」

「はげまし。ぴにょまし」

「るせっ」

「まがじとぎぃ!」

さっきまでの怒りはどこへやら。凸凹コンビが大通りの方へ歩いていく背中が見えなくなるまでジリは盾の後ろでぼけっと眺めていた。

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