EP5「前世から会いたかった黄身」

夜の街を歩きながら辺りを見回す一行。

この街に到着した際に感じていた違和感に咲が気付く。

「やっぱり、この世界の人達、少し大きくないですか?」

確かに目線には、すれ違う人々の肩しか映らない。

自分達のいた世界では高身長のオムライスでも、この世界の女性の身長には届かない。

「オムの方が大きいもん」

オムが近くに歩いていた老婆を見ながら顎をあげる。

咲が困った顔で飴ちゃんの方を見やる。

「はぁ。オム。静かにしてたらなんか食べれるから。黙っとき」

オムライスが口にチャックをする素振りを見せる。

「咲さんの言う通りですよ。なんて言うんやろ。一回り大っきいって言うか。皆メジャーリーガーみたいなサイズっすよ」

「これさ。俺らの着れる服……見つかる?」

桜が不安そうに呟いた。

少し薄暗いが、辺りはまだ人通りも多く、賑わっているお店も多い。

「子供服とかになるんちゃう?……うち嫌やで?キティちゃんの服とか着るん」

「いや。飴ちゃん普段キティちゃんの健康サンダルで買い物行ってそうやん」

飴ちゃんがドン・キホーテで見たキティちゃんのポップコーンマシンを思い出して顔を顰めた。

「桜?しばくで?うちは咲ちゃんのネグリジェを心配してやな」

「あ、あの。ネグリジェの話は……」

咲が自分の肩を抱きしめ辺りを窺う。

「ねぇ。ネグリジェって何?」

「「オムライスは黙っとき」」

飴ちゃんと桜が同時にオムライスを睨んだ。

「あれ?ぴのさんは?」

ジリの声に皆が辺りを見渡す。

「あ、あそこにおる。え?あれって」

「酒場……ですね」

視線を向けると、酒場の扉を開けるぴのの姿がみえる。

オムライスは目を輝かせながら酒場の扉に走り出した。

4人はため息をつきながら、気ままな2人の後を追った。



「らっしゃーせー。空いている所どーぞー」

騒がしい店内で店員らしき女性の声が響く。

みるとオムライスとぴのはもうメニューに釘付けである。

「えっとね!オムね!オム!」

「えっとね!ぴのね!ピノ!……アイスちゃうねん」

ぴのが恒例のやり取りをしている。1人で。

「え?ぴの?多分ピノはないと思う」

「いや。オムにマジレスされたくないんやけど」

間抜けな凸凹コンビは呑気にコントを繰り広げる。

「はいはーい。2人とも端っこ寄ってやー。うちら座れへんやろ?あ、お姉ちゃん?タバコって売ってる?」

店員のお姉さんは困った様子で、頭を振る。

「なんやねん。酒場やのに、タバコも無いんかい」

「飴ちゃん。こんな時くらい我慢しよーや」

「は?うっさい桜」

桜は頭を垂れる。

「で、何にします?あれ?てかメニューは日本語なんすね」

「つくね、軟骨、あ、骨付き肉もありますね」

ジリの手元を横から覗きながら咲がメニューを読み上げた。

ジリが、どぞ。と咲にメニューを手渡す。

ここぞとばかりにオムライスが大声をあげる。

「オムライスは!?」

「いや。ないやろ」

「ありますね」

「「「あんの!?」」」

飴ちゃんと桜とジリが驚いた顔で咲を見る。

「へへーん。じゃあオムはオムでいいよー」

「ならうちはとりあえず酒。酒ならなんでもええよ」

「そっか。ここって緊急事態宣言出てないんか」

桜が呟きながら腕を組む。

桜の左手首のそれが、チャリと音を鳴らす。

皆の視線が桜の手元に集まり、桜がたじろいだように

「そんな皆で見やんでも……」

と視線を逸らす。

「じゃあ俺は砂ずりとつくね……あります?」

「はい。あります」

「あ、じゃあ砂ずりとつくねで」

コンマ数秒で興味を失った皆の様子を見て、桜が口を尖らせる。

「ぴのはパフェで!」

「パフェは……」

と咲が視線をさ迷わせ、メニューを指で辿る。

「いやパフェは無いやろ」

と飴ちゃんが横槍を入れる。

「ありました」

「「あんの!?」」

桜と飴ちゃんが同時につっこんだ。

「じゃあ俺は……プロテイン」

「あります」

「あんの!?」

「桜、もうええて」

飴ちゃんが呆れたように桜の顔を見る。

「んで、咲ちゃんは何にする?」

「じゃあ私は、ローストビーフのヨークシャープディング添えで」

「「「「なにそれ」」」」



テーブルに皆の料理が揃う。

オムライスに、パフェ、プロテインと小樽に入った酒、つくねに砂ずり、極めつけはローストビーフのヨークシャープディング添え。

「協調性無くて草ァ」

ぴのがいつもより高い声で言うと

「いや、それぷぺなんよ。お前ぴのなんよ」

桜が水を得た魚のように嬉しそうにつっこむ。

「ばうあ」

「いや、それりあなんよ。お前ぴのなんよ。いやもうええわ。ありがとうございましたー」

「何言うてんの桜」

「あ、はい。すみません」

桜は自分の立ち位置を徐々に理解し始めた。

「ねぇ!もう食べていいの?」

「オム、皆で頂きますだけするで。飴ちゃんお願いします」

飴ちゃんが保育園の頃を思い出し、んんっ!と咳払いをし

「あ、えーっと。てをあわせてください」

「「あいっ!」」

気ままな2人組の声が響く。

「いただきます!」

「「いただきます!」」

「いただきまーす」

ジリと咲は無言で会釈をし、箸を取った。

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