EP3「珍客は突然に」

「あれー?やっほー」

最前列の2人が身構えたまま固まった。

声の主が誰か気付いた途端、飴ちゃんの緊張の糸が一気にほぐれる。


「ぴーのちゃー!!!」

金切り声をあげ飴ちゃんがぴのに抱きついた。

その声を聞いてオムライス以外の3人も状況を把握する。

「ん?」

「「「「ん?」」」」

静寂が再び訪れる。

「え、ぴのさんなんでおるんすか」

「何でって何が?」

「ぴのさんは1人なんですか?」

「え?1人ってどゆこと?」

皆が矢継ぎ早に質問をするが全く進展のない会話に耐えきれず桜が話し出す。

「ぴの。俺らは気がついたら5人でここに居たんよ。ぴのは何でここにいんの?他に誰かと会わんかったん?」

「えっとなー、私買い物帰りやってんけどなー。迷子になってなー。ずっと歩いてんねんけどなー……ここ何県?」

飴ちゃんがぴのを抱きしめたまま説明をする。

ここが恐らく異世界である事。

皆が配信を始めた途端、こちらに来たこと。

皆「Newgame」と言うアプリをしていた事。

何か一つあちらの世界のものをこちらに持ってきている事。

自分達のわかる限りの状況を説明した。

「ほぉーん。異世界なんねー。……え?でも、私配信してへんで?」

「え?じゃあなんで?きっかけは配信スタートとちゃうんか?」

「うん。ゲームはしとったけどな?」

相変わらずワンテンポ遅れて、オムライスが話の腰を折る。

「あれ?ぴのやん!」

「……オム黙っとき」

また口を両手で塞ぐオムライス。

「んで、ぴのさんは何持ってきたんですか?」

ぴのがポケットの中から1枚のコインを取り出した。

「これなんかなぁ?気づいたらこれしか無かったで?買い物袋は忘れてきたと思っとった」

咲と桜がぴのの手のひらを覗き込む。

飴ちゃんが怪訝な声で呟いた。

「これ……なんなん?」

「え?これなー。私アイス買ったんやけどー。スーパーで保冷剤貰う時コインつかうやん?それー」

「はぁ?つっかえねぇー」

手錠が月あかりを反射する。

「え?桜が言うん?」

まさかオムライスに言われると思っていなかった桜が押し黙る。

オムライスは飴ちゃんの方をみて再び口を両手で塞ぐ。

「え?桜なんで手錠付けてんの?持ってきたんそれなん?あほやーん」

桜が情けない顔でジリを見る。

ジリは桜の視線に気づかない。

「ぴのさんは今までどうしてたんですか?」

咲の問いかけにぴのがドヤ顔で答える。

「私が考えるよりなー。コインの裏表で道決めた方がいいと思ってなー。ピンピンひっくり返して歩いとったー」

「いや、ぴのさんマジギャンブラーっすね。んで、いつからいたんすか?」

「昨日から!……昨日の夜中かなぁ?」

「ずっと歩いてたんすか?」

「んなわけ!ちゃんと宿泊まったし」

「え、宿っすか?」

「おむも宿行きたい!」

「え?そもそもこの世界に宿って概念あるんやな。お金はどうしたん?……あっ身体か」

桜がぴのを頭の先からつま先まで見た後に、ごめんと小さい声で謝った。

「やかまし!居酒屋でおっちゃん達とポーカーして遊んでたら貰ったの!」

「居酒屋て。酒場やろ。異世界来てまで博打かい」

飴ちゃんが、ぴのから離れてそう言った。

「でもとりあえず宿はあるって事ですよね」

「ほならぴのさん案内してくださいよ」

「まかしときっ」

「オムお腹すいて歩けへん」

ぴのを先導に皆が歩き出す。

オムライスは首根っこを飴ちゃんに掴まれたまま歩いている。


ぴのがぴんっぴんっとコインをひっくり返しながら歩いていく。

珍道中は6人になった。


森をぬけ、街に降りた5人は改めてここが異世界である事を実感する。

大きな白い門を潜り抜け、街に入ると夜とは思えない程賑わっていた。

行き交う人は見た目こそ同じだが、自分達よりひとまわりもふたまわりも大きく、誰からともなく5人は肩を寄せ合う。

ぴのはお構い無しにズンズン進んでいく。

小さな身体に大きな度胸か。と桜がつぶやく。

「はい。着いたでー入ろかー」

「あ、でも私たちお金が……」

咲に被せるようにぴのが言う。

「まかしときっ!」

ぴのがたんまり金貨の入った皮袋を自慢げに見せびらかした。

博打相手のおじさん達が悔やまれる。

5人は心の中でおじさん達に感謝した。

ぴのは手馴れた様子で3人部屋を男女で1部屋ずつ用意してほしいと受付の男性に伝えた。

シャワーの後、男性部屋に皆で集まる約束をして一旦部屋に向かう。

「ほな。1時間後俺らの部屋で待ってます。今後の事について喋りましょ。ぴのさん寝たダメですよ」

「はーい!ほなねー」

「またでーす」


ガチャリ

少し重い扉を開き、それぞれの部屋に姿を隠した

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る