グルーヴィー・ホーエンセント
グルーヴィー・ホーエンセント
ほかのトムランタたちからはグルー、グルーヴィーと愛称で呼ばれることもある霊使いだ。
温厚な青年で、誰よりも愛情深いトムランタとして知られ、花を踏まず、草木を折らず、自然との調和のなかで生きてきた。
静かに同族の平和を見守り、危機が迫れば、その卓越した妖精術をつかって、ふりかかる火の粉を払う。
皆に尊敬されるエルフだった。
「アガサ・アルヴェストン、さあ、もっと僕に力を見せてくれよ」
「その硬さ。あんたエルフじゃないな」
「エルフだよ。僕がエルフじゃなかったら誰がエルフを名乗れるんだい」
(5%)
真実の一太刀が放たれ、再びグルーヴィーを大きく吹っ飛ばした。数ブロック先のその区画は、昨日のダイダラドゥッチの攻撃を受けた地域だ。いまでは住民は避難しきり、猫一匹すらいない地域である。
「さっきの数倍の威力、凄いパワーだ、まだ余力があるのかな?」
グルーヴィーは腕を押さえて、漏れでる青い血を凝固させる。時間を巻き戻すように血は体内へもどっていき、傷口はふさがった。驚異的な再生である。
「ああ、現実の精霊、君がいてくれてよかった」
「まだ生きてるか」
アガサが空から降ってきて着地。
現実の精霊は恐怖にかられ、すぐにグルーヴィーのなかへ隠れた。
もはや、八腕の巨人ではない。羽虫のようなサイズしかない。
「あんたみたいな事を言う吸血鬼に会ったことがある」
「へえ、そんな子がいたかな」
グルーヴィーは記憶をさぐり、思い出すように難しい顔をする。
「まるで自分が強くなりすぎて、孤独と退屈に苦しめられているかのような口ぶりだった。だが、その女も最後には俺が斬った。だから、あんたも俺が斬ろう」
「同じ悩みを抱える者はいるものだね。それじゃあ、退屈させないでくれよ。そのために、予言を信じて100年を乗り越えたんだからさ」
グルーヴィーはニヤリと笑い、ふわふわあたりを舞っている妖精たち身体に吸収しはじめる。
純然たる自然の魔力から生まれた妖精たちにより、グルーヴィーの身体は輝きを放った。
──妖精術・妖精怪腕
瞬間、姿が掻き消えた。
アガサは眼で追いかけ、横を向く。
拳が叩きつけられ、鎧圧にヒビが入った。
「へえ、見えてるんだ、凄いよ」
冷たい眼差しが品定めするように、グルーヴィーを見つめる。
グルーヴィーには高度な武術の心得があるようだった、
連続して打ち込まれる拳により、アガサの全剣気圧の10%を束ねた鎧圧へダメージが入り、どんどん削れていく。
「いいね、これじゃあ、勝てないかな」
──妖精術・妖精怪腕、二式
グルーヴィーは無邪気に笑うと──アガサの鎧圧が割れた。また1段階、グルーヴィーのスペックが上昇したのだ。肉体強度、硬さ、パワー、スピード、認識能力。すべてが高まり、アガサに近づいている。
アガサは高速で後ろへすり足でさがりながら観察する。
それをグルーヴィーは全速力ダッシュで追いかける。
(拳で割られるのは初めてだ)
アガサは素朴な感想を抱きながら、当たり前のように鎧圧を張り直した。
今度の強度は12%だ。
グルーヴィーの拳撃にあわせて、身体を覆い隠す鎧圧を局所的に集中させていく。
そうすることで、アガサへはほとんどダメージが通らなかった。
「いいよ、それがいい」
グルーヴィーとアガサは打ちあった。
厳密に言えば、グルーヴィーは打撃で。
アガサは両の手でミット打ちしてくるボクサーをいなすようにガードをしていた。
──精霊術・加速時間、二倍
「っ」
一気にグルーヴィーの速さが増した。
アガサが顔面への拳撃を許す。
建物を何棟も貫き、崩れる煉瓦建築のしたに埋まった。
グルーヴィーは確かな感触を得て、拳を握ったり閉じたりする。
「アガサ・アルヴェストン。僕は君に期待しているよ」
瓦礫から出てくるアガサ。
埃を払い、グルーヴィーの10m手前で立ちどまる。真実の一太刀をグルーヴィーへ放った。
不可視の刃が迫り、もはや避けられないほど肉薄する。
あと50cm、あと40cm、あと30cm──当たる。
そうアガサでさえ確信した瞬間だった。
グルーヴィーの姿が消えた。
グルーヴィー自体には回避行動を取る素振りはなかった。なのにいきなり消えたのだ。高速移動──ではない。土埃すら、グルーヴィーの足元には舞っていない。
(さっきと同じだ。いきなり消えた)
「アガサ・アルヴェストン、失望させないでくれよ」
「っ」
耳元でささやく声。
アガサは息を詰まらせる。
──妖精術・雷光
アガサが振りかえるより速く、眩い光をまとった強烈な手刀が彼の首裏を斬りつけていた。
鎧圧が砕け散り、雷の手刀が届いた。
「これに対応してくれないと、君、ここで死んじゃうよ」
グルーヴィーはつまらなそうな声でそう言った。
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