夏物語

セイ。

前編

山本、おい山本起きろ。」

 

んあ?

 

暑い、そして蝉の声が五月蝿い。夏ということもあってそれらが重なることもあってか頭が回っていかない。これはすぐに理解出来たが、現在横になってることまでは理解できなかった。

左耳からは蝉の声と共に大家らしき声が入ってきた。

「起きたか山本。」

「大家か。てかなんで俺ベンチで寝てんだ?」

「…記憶ないのか?」

「ああ。」

「…俺お前に隠してることがあるんだ。」

「え?」

大家がこんなに畏まることなんて1度たりともなかった。

 

「俺…」

 

「おーい、山本くぅぅーん。」

「あ、美奈子ちゃん。」

「大丈夫?」

「あ、ちょっと記憶ないけどどうにか生きてるよ。」

少し照れくさそうに右頬を少しかいた。

「良かったぁ。心配したんだよぉ。」

好きな子から心配してくれてるって嘘でも嬉しいな。

俺はこの笑顔を守りたい。

 

そんな物語を刻み込んでいきたい。

 

--------------

 

夏。それは浮かれていい時期。夏。それは恋愛の季節。夏。それは

 

「ひゃっほーーーーーい!!」

時速何十キロというスピードがレールの上を走り抜ける。風が、空気の流れが、顔面に恋が切り刻まれていく感覚だ。あぁ、今どんな顔をしているのだろうか。この浮かれ具合はきっとネットでおもちゃにされそうな顔だろうか。あぁ、それは黒歴史になるだろう。

 

しかし、隣に乗車しているのは学年1美女の美奈子ちゃん。浮かれないはずがない。

「ニヤけが止まんねぇーーーyoーー!!」と心の奥深いとこで叫び続けている自分には何と叱ったらいいものか。後大家は何を言いたかったんだろうか?

…まぁそんなことはブラックホールにも投げやって今は楽しもうじゃないかぁ。仮にこれが夢だったとしても、文句は言えない。言えるはずがないんだァァァ。

 

 

「山本くぅぅん、、楽しかったねぇ。ちょっと疲れちゃった。」

「そうだね。何か飲もうか?」

2人は時間を共有している、と傍から見ればそう思われるだろう。

月とすっぽん、地球から木星ぐらい離れていると思われるだろう。自己嫌悪に陥ることはないぞ、山本。と自分に言い聞かせ自我を保った。

本当に悔いは残せない。

 

そして一言一句全身全霊を美奈子ちゃんにぶつけ女にするんだぞ、山本。

と胸に手を当て言い聞かせた。

ニヤニヤを抑えつつ、自然体でいなければならない。下心を見せたところでTheENDだ。

 

「じゃぁ、あっちのお店に行こぉ。」

「んー、じゃそうしよっかぁ^~」

 

おーい!!山本ぉー!

後ろからのやつの声で、この時間は数人で共有していたことを思い出した。

 

こいつは学年1イケメンの「大家」。スペックは野球部、高身長、性格もイケメンと来たところだ。

そして、隣にいる女が「柏田」。美奈子ちゃんの小学校からの幼なじみらしい。

「美奈子、めっちゃ顔死んでんじゃん」

「もぉぉ、やめてよぉぉー。めっちゃ怖かったんだよぉ。」

 

俺はそんな彼女の笑顔に胸を鎖で締め付けられる感覚に落ちた。

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夏物語 セイ。 @boutaro

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