世の中には定番の組み合わせがある。萩に猪、紅葉に鹿。そして密室殺人にはオランウータンである。なんでそうなったのかはネタバレになるので、興味を持った人が各自で調べてほしい。
さて、本作ではそんなミステリーの伝統に基づいたオランウータンによる密室殺人が描かれている。しかもただの密室ではない。二重の密室だ。まず密室に閉じ込められた被害者の死体。そしてその死体のすぐ側には檻に閉じ込められた殺戮オランウータン……。
この二重の密室とも言うべき状況で、檻に閉じ込められたまま殺戮オランウータンはいかにして飼い主を殺したのか? それとも別に真犯オランウータンがいるのか? そもそも既に檻に入っているのにわざわざ名探偵を呼び出してまで事件を解決する必要があるのか? シンプルな事件ながらも多くの謎が入り乱れる短編になっている。あまりに馬鹿馬鹿しいシチュエーションだが、トリック自体はわりとしっかりしているのも高評価である。
ちなみに殺戮オランウータンという耳馴染みのない単語についてはカクヨム内を「殺戮オランウータン大賞」という単語で検索して察してほしい。本作以外にも殺戮オランウータンによる珍妙な事件が多数描かれる大変楽しい企画だ。
(「奇妙な犯罪」4選/文=柿崎 憲)