第6話 騎士団と刺客御一行様
「どうして、こうなったあぁぁっっ!!」
「あはははははっ」
昨夜の襲撃の後、ドリア達は宿の支配人らと話し合い、リカルドが全ての修繕費や賠償を保証する事で話はついた。
宿側もプライドがあったらしく、侵入者を許してしまった事がいたく御不満なようで、警備を五倍にし、ドリア達に安眠をプレゼントしてくれたのだが......
翌日、ドリア達が宿から出ると、宿屋正面にはフルプレートの鎧を身に纏った騎士らが、ずらりと立っていた。
居並ぶ騎士達。ざっと五十人ほどだろうか。
瞠目するドリア達の前で、一際立派な装束の騎士が一歩進み出ると、ビシッと敬礼する。
「辺境騎士団、団長を務めるラルフ・オイフェンです。公爵令息の警護に当たるため、馳せ参じました」
宿の支配人が早馬で知らせたらしい。
昨夜の襲撃の事もあり、気を利かせたのだろうが。
チラリと隣を見ると、あからさまに仏頂面な少年が騎士らを睨め上げている。
そしてジェフとゲルドにボソボソと某かを耳打ちし、何度か頷いたジェフが、何処かへと消えていった。
何の話だろうとボンヤリ見つめていたドリアは、背後から凄まじい悪寒を感じ、慌てて振り返る。
するとそこには、そろってドリアを凝視する騎士らの面々がいた。その様子は驚愕か、困惑。
今のドリアは完全武装の貴婦人である。
結い上げた豊かな髪に、上質なドレス。幼い頃から学んだ淑やかな所作で扇を広げ、ドリアはふっくりと柔らかく微笑んだ。
とたんに騎士らの眼が逸らされ、団長のみがドリアへと声をかける。
「不勉強で申し訳ありません。貴女様はどちらの御令嬢でしょうか? お姿から拝見するに社交界デビュー前と思われます。御名を賜る栄誉を頂きたく存ずる」
そう言うとドリアの手をとり、団長は甲に軽く口付けた。
内心冷や汗だらけなドリアだが顔には出さず、すいっとリカルドに視線を振る。
するとリカルドは苦虫を噛み潰しまくり、団長の手からドリアの手を奪い返した。
「無礼であろうっ、姉上はまだ社交に慣れておらぬっ! 下がれっっ!!」
いや、そういう設定なんだけど、ここまで来たらバラした方が良くね? 騎士団なら信用も出来るだろうし。
まだ何か言いたげな団長は、リカルドの剣幕に圧されながらも果敢に言葉を紡いだ。
「失礼いたしました。しかし、この方は、ひょっとして....」
団長が言い終わらぬうちに、ジェフらが馬車を運んでくる。
その顔は悪戯気で、ニヤニヤと口角が上がっていた。
ドリア達の前で馬車を止め、さも面白そうにリカルドを見下ろす。
「ホントに良いんだな? 坊っちゃん」
「構わない。全力で頼む」
そういうと、リカルドはドリアを引っ張り馬車に乗り込んだ。
「え? 騎士らは?」
「喋らないでください、舌を噛みます。全力で彼等を振り切ります」
「は?」
ドリアの間抜けな返答と同時に、馬車は勢い良く走り出す。
「「「「「「「「「「「「えっ??」」」」」」」」」」」
多くの騎士らの口から疑問が異口同音で飛び出したが、馬車は止まらない。あっという間に遥か彼方。みるみるうちに彼等の視界から消え去った。
茫然と見送っていた団長だが、すぐに正気に戻る。あたふたしながらも、急いで騎士達に指示を与えた。
「追えっっ、いや、続けっっ、御令息を御守りするのだっ!!」
はたっと我に返った騎士達は、各々馬に跨がり、慌てて馬車を追いかける。
こうして、おかしな鬼ごっこが始まったのだった。
そして冒頭に戻る。
何なんだ、この敵の多さはっ!!いや、まあ、騎士団は敵じゃないけどさっ!! 追われてるけどねっ!!
それ以上に潜伏した刺客の数々。
馬車の中ではらちがあかず、ドリアは屋根に飛び乗り、索敵を行う。リカルドが魔法で結界を作り、風圧を防いでくれた。
いかにも楽しそうにはしゃきながら。
「また居るっ! 前方左上十時の方向っ!」
「応さっ!」
馬車の屋根にいるドリアが指示を出し、ゲルドが弓を射かける。そして落ちる狙撃者達。
それを見た暗殺者ら一群が、わらわらと馬車の前に飛び出してくるが、それも想定内。
弓で剣でと襲い掛かってくる敵は、リカルドの魔法で吹き飛ばされ、さらには追随してくる騎士団に捕縛される。
かれこれ数時間も走り続け、待ち受ける刺客らとドンパチしまくり、それに応対するため、騎士らはどんどん数を減らしていった。
今では団長率いる数名のみ。
それを見てリカルドは、ようやく馬車を止めた。
疲労困憊な馬を休ませ、追い付いた団長が同じく疲労困憊な馬から飛び降りる。
「一体どういう事でしょうか? 我々は貴方様を救うために辺境伯から派遣されたのですぞ?」
「え?」
それを聞いて、冒険者組が眼を見開いた。
リカルドは分かっていたのか、複雑な眼差しで騎士団長を見上げていた。
詳しく話を聞けば、騎士らは誘拐されたリカルドの救出に、隣の国へ向かう途中だったらしい。
誘拐犯らが国境を越え隣国に逃げ込んだ情報が入り、追跡した間者が監禁場所を突きとめていた。
それに従い、依頼を受けた辺境伯が騎士団を派遣し、まさに隣国へ入らんという時に、昨夜の襲撃事件の報を聞いたのだとか。
って事は何か? もしあのまま監禁してたら、あたし騎士に捕まって今頃牢屋行きだったんじゃないの??
幸運か悪運か知らないが、最悪の事態は避けられたようだ。運が悪ければ即首が飛んでいた事だろう。
ぞっとするドリアを余所に、騎士団長は話を続ける。
「貴方様が御無事で何よりですが..... この有り様は一体何なのでしょう?」
捕らえた刺客らを捕縛し、転がす騎士達。最初の襲撃で伝令を送り、転がした刺客らを後続の騎士達が回収しているらしい。
絶え間無く襲いくる刺客。これはドリアにも想定外で、公爵家の継承問題を含めても異常だった。
襲撃の二つや三つはあるだろうと考えていたが、ここまでに倒しただけでも十数の襲撃に、百はいたであろう刺客。
騎士団のフォローがなくば詰んでいたかもしれない。
しかし、ドリアにはそれ以上に疑問な事があった。
刺客の半数は、明らかにドリアを狙ってきたのだ。
女だから倒しやすいとでも思われたのだろうか? 訝しげな顔で思案するドリアの耳にリカルドの呟きが聞こえる。
「母上...... 何て.......」
母上?
「どちらにしろ王都は既に目の前です。我々が最後まで護衛いたしましょう」
悔しそうに歯噛みし、リカルドは小さく頷いた。
お母さんか。そうだよね、心配してるよね。
痛ましく少年を見つめるドリアに、団長の咳払いが聞こえる。
「しかし、貴女様は一体....? 馬車の上で指示を出して刺客らを返り討ちにしておられましたよね?」
そうですねー 御令嬢らしくないですよねー
ははは.....と乾いた笑いを漏らすドリアに、騎士団長は首を傾げる。
遠目に見えるは目的地の王都。一行の旅は、ようやく終わりに近づいていた。
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