第16話 自覚

 目が覚めた。ボケーっとした頭で寝る前のことを思い返す。

 かえでの膝枕で寝ていた……んだっけ。

 ……はっきり目が覚めた。


 もう少しだけかえでの体温を堪能……したかったが、かえでの膝から頭を起こし、くらくらする体を無理やり起き上がらせる。

 かえでは器用なことに正座したまま眠っている。

 ……美しい。姿勢がね?

 かえでを起こそうとして、目をこすりながらかえでの顔を見る。

 その顔を見てぎょっとする。思わずのけぞってしまった。

 泣きじゃくってたのはわたしだったよね……? なんでかえでも目元を真っ赤にして眠ってるんだ……?

 いや、そんなことはどうでもいい。

 とりあえずかえでを助けられないかな。




 起こした、ほうがいいのかな。

 というか今何時だ? スマホ……。

 現在、十六時。

 お出かけどころかすっかり眠ってしまってたみたいで……。

 うーん。どうしよう。

 わたしはかえでのおかげですっかり落ち着いてしまったわけだが……。

 落ち着いた……というと少し違うけど。

 未だわたしの心の中には渦巻くものがある。

 でも一度それは忘れよう。

 かえでのことを考えるんだ。

 ……結局同じか。

 何かわたしにできるお返しはないのだろうか。




 そもそも、なぜかえではこうなってしまったのでしょうか。

 解説のあきさん一言願えませんか?

 わかりません……。

 何か、嫌な夢を見ていたりするのだろうか?

 その割には寝ているかえでは微動だにしていない。

 電車で座って寝てる時のかえでは割と寝相が悪いのに、横になってたりする時や正座したまま眠っている時は寝相がいいみたいだ。


 とりあえずかえでをベッドまで運ぶとして……。

 かえでをベッドまで運ぶ。軽い……。

 ちゃんと食べてるのかな。

 かえではその身体に見合う量しか食べない。

 決してかえでが貧相って言いたいわけではないんだけどね。

 昼食でおにぎり以外を食べているのを見たことがない。

 リスとかハムスターみたいに、そのちっちゃい口で、一生懸命おにぎりを頬張っているのは見ていて非常に微笑ましいし可愛いんだけど、心配にもなる。

 ああダメだなわたし。本当にかえでが――。

 

 そうこう考えているうちにかえでをベッドへ運び終わる。

 とりあえず布団をかけて、ひとまずオッケーかな?

 うーん……。何かわたしに出来るお返しはないだろうか。

 かえでがわたしにしてくれたことを思い返す。

 今日はわたしに膝枕をして、眠らせてくれた。

 膝枕……はもうしたんだよな。

 何か、本当にかえでのためにできることは……。

 

 かえでのことを更に考える。

 かえでは意外と寂しがり屋だし、甘えん坊だ。

 それに常に仮面を被っている気がする。

 わたしには本心をあまり見せてくれない。

 いや、ほかの人と比べたら見せてくれているんだろうけど。

 ――だから、本当に。


 ……不安になってきた。

 けど、本当には心を開いてくれていないんだろう。

 

 でも、前かえでが風邪をひいたときに言ってくれた、かえでのお母さんの話は何かよくわからないけど本心からの言葉だと思う。

 かえでは寂しいんだ、きっと。

 本人に言ったら笑ってごまかしそうだけど。

 冷静に考えてみれば、当時小学校を卒業したばかりの少女が両親を失い、そこから一人で生きる……なんてのがわたしだったら……無理だ。到底耐えられない。

 だからこそ今のかえでがいるのかもしれない……けど、かえでには心から笑っていてほしい。

 かえでのお母さんの話と言えば、思い出したことがある。

 よく抱き着いて眠ってたって。

 ……なるほど? これだ。

 わたしが抱き着きたいだけかもしれないけど、これでも一生懸命考えた最善の案なんだもの。

 あきお姉ちゃん、動きます。

 

 蝶のように舞い蜂のように刺すかの如く、慎重にかえでのベッドへと近づき大胆にベッドへ飛び込む。

 それでもかえでに起きる気配はない。

 やっぱ、かえでは小っちゃい……。自分より一回り小さいものに抱き着くというのは意外と落ち着くものだ。

 なのに、抱き着いてて安心するし落ち着く。

 包容力のようなものを感じる。かえでは母性の塊なのかもしれない。

 かえでは色々達観しているからなあ……。

 ……いや、そうじゃないな。少し間違っている。

 確かに達観してはいるけど、心の底から達観しているわけではない……かな。

 心の奥底には、本来の、年相応で寂しがり屋で甘えん坊の、素のかえでがいるはずなんだ。

 かえでは色々溜め込んじゃうタイプなんだと思う。

 わたしは何かあると感傷的になっちゃって、爆発しちゃうタイプ。

 似てないなあ、わたし達。

 かえでが起きないように注意を払いつつ、かえでの頭を撫でる。

 かえではちょっとした事じゃ起きないだろうけど、なんて思いながら少し笑う。

 なんか眠くなってきた。

 まあいっか、今日泊まっちゃおう。

 もとより泊まる――とは言っていたけれど、正直帰るつもりだった。

 あんまり迷惑をかけてしまっても仕方が無いから。

 

 かえでは今も今までも途切れなくノンストップで眠っている。

 けれど、さすがに十九時頃には起きると思う。

 かえでならきっと起こしてくれるさ……。

 起きた後のことは……うーんめんどくさい! どうにかなる!

 それじゃあ、おやすみなさい。

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