5日目

2021年9月21日:弟


 放課後、夕飯の買い物に弟を連れて行くと、クラスメイトらしき男の子が手を振ってきた。「おーい」と明らかに弟の方を向いている。

 しかし弟は無視だ。ガン無視。だがクラスメイトはそれに慣れているようだった。


「ねえ、なんで無視するの? 手を振ってるよ」

「別に」


 エリカさまもびっくりな反応だ。視線すら向けようとしない。

 幸運なことに友達が不快に思っている様子もないので、そのまま会釈をして帰ることにした。

 家に帰ると、弟は走り出した。まるで、鳥籠から解放された野鳥のように。 

 そして家中の食べ物を詮索する。


「これは……クッキーですね???」


 声を少ししゃがれた感じにして、名探偵ぶりの推理でビニールの中身を当ててみせた。

 しっかりと、私の目を見ていた。


「そうだよ」

「食べていいやつ? これ、僕が食べて良いやつ?」

「良いやつだよ」

「ほんと!? 神では!? 僕何かいいことした!?」

「いつもいい子だよ」


 この自信が外に向けば良いのにと思いつつ、お腹いっぱいになってお腹を出して眠っている弟を見ると、この家が彼にとって一番安全なのだと確信する。


 そうだ弟よ、ここは君のお城だ。ここが一番安心できるならそれでいい。家の全員が君の味方なのだから。


 

 翌日もきっと弟は家の中で愛嬌を振りまきながら、外ではあらゆる人間をガン無視するだろう。

 弟に、幸あれ。

 

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