第83話 本編に関係ありそうな話




日中から肌寒く感じるようになった立冬のある日。


同じクラスの友達と遊びに行っていた達也は、夕方6時には既に帰路についていた。


学校では渚や香織と一緒にいる時間が圧倒的に多い達也だが、同性の友人がいないわけではない。昼食時には度々連行されて男子同士の話に付き合うこともある。このゲームが面白かっただとか、ソシャゲで数万課金したとか。


しかし男子とはどの年代でも下ネタが大好きな生物であり、途中からはその類の話に変わっていく。バイト先の女子大生がエロいだとか、漫画の雑誌に映るアイドルで致したとか。

学校では完璧イケメンとして振る舞っている達也とて普通の男子高校生、年相応に下ネタは嗜むしその類のアレコレに興味がないわけではない。自分から話題を提供することはないが。


今まで恋人がいたことがない達也は聞き専門だったが、同級生からは「久里山さんと密かにデキているのでは?」という疑惑が出ているらしく、達也と香織の略奪愛という構図が最近男子の間出来上がっているそうだ。ちなみに今日の遊びでもそれについて根掘り葉掘り聞かれたので全否定しておいた。


達也にとって渚は恋愛対象ではない。


そんなことを考えながら久里山家に帰ってきた。


「ただいまー」


「おかえり。友達と遊んでたのに夕飯は食べてこなかったの?」


帰ってきた達也を出迎えたのはエプロンをつけた紗良だった。エプロンからほのかに香る出汁の匂いからすると、今晩は煮物だろうか。


「あいつらと食べに行ってもラーメンかバーガーだからなぁ。家で食べた方が100倍いい。」


「そっか。」


パタパタと台所に戻っていく紗良の後ろ姿から目を外すと、洗面所で手を洗い自分の部屋に荷物を置きにいく。リビングに入ると、暖房の温風で頬が緩んだ。テレビ前のソファでは香織が録り溜めたアニメを消化しており、ダイニングテーブルでは皐月が受験勉強、キッチンでは渚と紗良が夕ご飯を作っていた。


「あ、達也おかえり。ご飯は食べてこなかったんだ。」


紗良と全く同じ質問をしてきた渚。


「あぁ、家で出るご飯の方が美味しいからな。」


「そう言ってもらえて光栄ですよ〜。お風呂沸いてるから入ってきな。」


「おう、さんきゅ」


冷蔵庫から次の食材を取り出す渚をなんとはなしに眺めていると、視線に気がついた渚がこちらを向いた。


「どうしたの達也?お腹すいたの?」


「いや、今日話に出てきたんだけど、改めて見ると渚って確かに可愛いよなと思ってさ。」


達也がそう言葉を発した瞬間、テレビを見ていた香織が「ブフォっ」と勢いよくお茶を噴き出し、ぐりんと顔をこちらに向ける。皐月も飲んでたお茶を鼻から噴き出し咳き込み、紗良は手に持っていたアルミのボウルを地面に落とした。


「え?wいきなりなに?褒めてもアイスくらいしか出ないよ?」


突然褒められた渚は調理する手を止め、笑いながら冷凍庫からアイスを取り出し全員に配る。そして食べ始めた。


...?


これは照れてるのか?


全く照れているように見えない渚にさらに問いただそうとすると、背後から達也の肩をがしっと掴まれた。


「達也....?」


「か、香織?なんだよ、俺なにも...痛い痛い!!」


肩に置かれた手が徐々に力を増していき、肩が握りつぶされる前に離脱する。これ以上この場所にいるのは危険と判断して達也は風呂場に向かった。


風呂場に向かう途中、渡されたアイスを食べようと封を開けた。


...



...俺が買い溜めしてるアイスじゃねえか!!




「渚ちゃん.....達也のこと好きなの?」


「お姉ちゃん、逹兄のこと好きなの?」


香織と紗良が絶望したような表情で渚に問いかける中、渚は鍋をかき混ぜながら答える。


「ん?達也は家族みたいだと思ってるから、好きと言われれば好きだね。」


手がかかる弟みたいだよね、というと二人はあからさまにホッとした表情をする。


「せっかく告白したのに無駄になるところだった...」


「お姉ちゃん相手じゃどうしようもないもんね...」



二人の様子に渚は頭上に?を浮かべていると、皐月が「青春だねぇ...」というつぶやきを残して勉強を再開した。











「そういえば、紗良と皐月は来週修学旅行じゃない?準備はもう終わったの?」


夕ごはんを食べながら二人に尋ねると、皐月が煮物の筍を口に放り込みながら答える。


「着替えの準備はできてるから、あとは体温計とか歯ブラシとかだね。」


「自由行動の時の鞄を何にしようか悩んでるんだけどね。」


二人の会話を聞いていると、達也も当時のことを思い返し始めた。


「俺らの時は、自由行動の時に二人で回りたいっていう人からの誘いが多かったよな。俺も初めて話す人から誘われてビビったもん。」


「私たちは早々に3人で回る約束してたから、『もう回る人決まってるから』で断ってたもんね。」


「僕も男の子から誘われた時はびっくりしたもん。そういえばあの人、妙にハァハァしてたな...」


3人がそれぞれの誘いを思い返していると、皐月がニヤリと微笑んで爆弾を放り込む。


「そういえば紗良ちゃんもクラスメイトの男の子に告白されてたじゃん。一緒に回ろうって。」


「っ!!さっちゃんそれは...!!」


「「おっ!!!!」」


突然の身内同然の少女の恋バナに色めき立つ達也と香織の二人。


「でも断ったんだよ?自分には好きな人がいるか...ぐ、ぐるじぃ...」


瞬く間に皐月の背後に移動した紗良のヘッドロックが見事に極まり、皐月が苦しみ始める。


「黙って...!!まださっちゃんには死んでほしくないの...!!」


皐月がギブアップ宣言をすると紗良は腕を外す。咳き込みながらも皐月はそれ以上を話すのはやめた。




「修学旅行か...どんなだったっけな....」


渚は自分の修学旅行を回想し始めた。






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