第77話竹林の戦闘



月光が照らす竹林、本来であれば厳かな雰囲気が漂うこの場所は現在、至る所で響く竹が割れる音のせいで全く風情を感じることができなくなっていた。


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!!!」


プリティとは程遠い声を発しながら八岐大蛇の腹部に拳を叩き込むプリティガール。その一撃一撃が岩を割るほどの威力が込められており、八岐大蛇に無視できないダメージを与えている。


「『筋肉とかわいいは正義、ゆえに筋肉は全てを凌駕する!!』かの有名な私の父が残した名言よ!!」


「意味わかんねぇ!!!」


プリティガール父の迷言を微塵も理解できないロイも八岐大蛇への攻撃の手を休めることはない。天叢雲剣による攻撃で八岐大蛇は数えきれないほどの傷を負わせているが、そのいずれも自己治癒によって完治している。


傷が癒える八岐大蛇に辟易するかと思いきや、プリティガールを含む戦闘狂集団はこれ幸いと楽しそうに攻撃を始めたのだ。どんなに攻撃しても傷が癒えるなんてサンドバックとして最適じゃないかということらしい。


プリティガールを含めたプレイヤーが連携を考えずに突っ込んでいく中、ロイとメイだけは穴を埋めるように立ち回り、後先考えないプレイヤーのフォローをしていた。


素早い動きで動き回って敵を翻弄し、短剣で斬りつける戦闘スタイルのメイは自身に降りかかる攻撃を掻い潜り、攻撃を受けた他のプレイヤーに回復薬を投げつける。その間も攻撃を止めることはなく、両手の短剣で八岐大蛇の身体を斬り刻む。


回転しながら八岐大蛇の身体の線に沿って短剣を振るうメイを見てロイは呟く。


「本当に立体機動が上手だよなぁ...」


某兵士長を彷彿とする動きはあの道場仕込みだろう。この前ナギもやっていたからよくわかる。


八岐大蛇の首の一つが高出力の水を吐き出し一人のプレイヤーの身体を捉え、その身体に大きな風穴を開けた。


「『プリティ・マッスル・パンチ』!!」


プリティガールのさらに強化された拳が八岐大蛇の首の一つにめり込み、仰反るように吹き飛ばす。


「『プrrrrゥリテスト・アッパァァァー』!!!」


プリティガールの渾身のアッパーが他の首にヒットし、全身が一瞬浮き上がる。その瞬間をその場にいるプレイヤーは見逃さなかった。


「『聖天三鶴城』!!」


「『怨嗟舞斬』」


「『ファイアーウォール』!!」


「『サンダーロック』!!」


ロイやメイの攻撃のほかその場にいた全員が一斉に攻撃を仕掛け、八岐大蛇は地面に崩れ落ちる。


「やったか?」


プレイヤーの一人がそう呟いた瞬間、他の全員が頭を抱える。


「お前それはフラグだって...」


「ありえねぇな。」


「オタクたるものフラグは把握しとかねば。」


「え、なんで俺責められてんの?」


そんな会話を続けていると、八岐大蛇がゆっくりと立ち上がる。


『ギャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ‼︎‼︎‼︎』


耳をつん裂くような雄叫びに全員が耳を塞ぐと、八岐大蛇の姿に変化が現れる。


光を放っていた全身の鱗が輝きを失い、毒を含んだ棘が表面を覆い始める。


パキパキと音を鳴らしながら外見を変えていく八岐大蛇はその威圧感も増していき、戦闘狂のプレイヤーの顔にも冷や汗が浮かび始める。


「なぁ、まずくね?」


「お前のフラグのせいだぞ。」


「すまん」


こちらの会話が聞こえているかは知らないが、八岐大蛇の全ての首がフラグを立てたプレイヤーの方向を見ている気がするのは気のせいではないだろう。


「『汚淵邪毒』」


八岐大蛇の全ての口から毒のブレスを全方向に放出され、そのブレスに直接当たったプレイヤーは光となって消えていく。


「『見切り』」


メイはスキルによって毒ブレスを回避、ロイはカウンター攻撃を仕掛けることで攻撃の無効化、プリティガールは正面から攻撃を受けて耐えていた。


「やっぱり私の『プリティ・ボディプレス』なら大体の攻撃は耐えられるわね。」


胸の筋肉をムキムキさせながら呟くプリティガール。


「そんなスキルがあったんですか!?」


「違うわ。私の筋肉の技よ。こんなスキルあるわけないじゃない♡」


「紛らわしい!!」


「それよりも目の前の敵に集中して!」


メイの言葉で二人は八岐大蛇に向き直る。


「『蛇全呑濁』」


全ての首から各属性のブレスを吐き出すという凶悪極まりない攻撃の嵐で周囲を呑み込む八岐大蛇。


「『プリティ拳・稲見風』!!!オラァ!!」


プリティガールの拳圧で突風が巻き起こり、ブレスの残穢を吹き飛ばす。


「筋肉ってすごいんですね...」


空中に移動して攻撃を回避していたメイがプリティガールの筋肉無双具合に呆れたように呟く。


「あなたも筋肉を鍛えればできるようになるわよん♡」


「...考えておきます。」


全身がムキムキになった自分の姿を想像して顔を引き攣らせるメイの横でロイが八岐大蛇を見ながら話し始める。


「覚醒した後は攻撃と攻撃の間に長めの不動時間がある、その時間により強力な攻撃をぶち込めば倒せるぞ。」


「やるじゃないのロイくぅん♡その方法でやりましょうか!!」


そう言って3人は八岐大蛇に向き直り、それぞれの武器を構えて敵に向かっていった。




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