第75話幽鬼族の本領





土蜘蛛が口を大きく開けて顎をかしゃかしゃ鳴らし始めると、周りの地面がボコボコと隆起し始めた。


「全く、見れば見るほど気色悪いわね...」


アリスが相手を見ながら吐き捨てると、隆起した地面から配下のような髑髏が湧き出す。


「髑髏は全部私が請け負うからひとまず全員土蜘蛛本体に攻撃!」


「「「まかせろ!アリスの姉御ぉ!!!」」」


土蜘蛛を相手にしているプレイヤーの中で一番経験の長いアリスが必然的にリーダーとなり、全体に指令を出すと、その声に従って各プレイヤーが土蜘蛛に向かって動き出す。


「あなたも私と一緒に髑髏の対処を...」


アリスが横に顔を向けるとその場にカエデの姿はなく、巻き上がった土埃だけが残っていた。


ハッとしたアリスが土蜘蛛の方に目を向けると、土蜘蛛の横で金棒を振りかぶるカエデの姿。


「デイヤッサアァァァァァァァァァ!!!!!!」


カエデは全力の金棒を土蜘蛛の頬にお見舞いし、壁に叩きつけた。


「...頬も悪くはないけど...やっぱりサンドバックにはお腹がちょうど良さそう...」


金棒で手をパシパシと叩きながらそう呟くカエデ。壁から地面にずるずると落ちた土蜘蛛は顎をカタカタと鳴らすと、


『ギャガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!』


耳障りな鳴き声がしたかと思えば脚が変形を始める。前足が鎌のように形を変え、その他の足は人間の手足のような五本指に変わった。しかし腕?は蜘蛛のままなので姿はとても気色悪い。


「あの鬼娘、スキルも何も使わない打撃がなんて威力なの...?」


馬鹿力、ゴリラ、筋肉お化けなどという言葉でも生ぬるい。自分が殴られるものなら身体が爆発四散するだろう。


アリスがそんなことを考えていると、土蜘蛛が素早い動きで前脚の鎌をカエデに振り下ろす。


「師匠の攻撃よりも遅い!!!」


土蜘蛛の鎌攻撃をカエデは金棒で受け止めると、力任せに鎌を弾き返す。バランスを崩し腹部を曝け出した土蜘蛛に向けてカエデは左拳を繰り出した。


山は崩れたような音が周囲に響き、壁が大きくひび割れる。カエデの拳は前方に繰り出されたまま止まっているが、その先に土蜘蛛の姿は見えない。


「ちっ、躱されたか...」


カエデが天井を見上げると、土蜘蛛が天井に張り付いてカタカタと顎を鳴らしていた。


(え!?当たっていないってことは、拳の衝撃だけで壁にヒビ入れたってこと!?)


「〔蛇腹散〕!!」


アリスはカエデの底知れぬ実力に恐れ慄くが、襲い掛かる髑髏に気づくと鞭スキルの技を繰り出し髑髏の頭蓋を叩き潰す。


「うわぁ!?」


「や!やめ...」


天井から絶え間なく繰り出される鎌で他のプレイヤーが倒されていく中、カエデは自分に繰り出される攻撃を金棒で弾き続ける。


すると突然攻撃が止まる。怪訝に思ったカエデが天井を凝視すると土蜘蛛が何やらブルブルと震え始めている。そして地面に落下した。


『壱』


地鳴りがするように響く低い声に合わせて土蜘蛛の身体に変化が現れる。身体全体に血管のような線が浮かび上がり、それらの脈動に合わせて土蜘蛛の身体が肥大する。


「見るからに危ない気がする...」


カエデが額に汗を浮かべて金棒を構えると、土蜘蛛が黒い炎を鎌に纏いカエデに振り下ろす。


「っ!?さっきよりも強い!?」


土蜘蛛の攻撃は数倍は威力が増しており、カエデは膝をつく。


金棒を上から押さえつける鎌の圧力で身動きができないカエデに向けて土蜘蛛は口を大きく開け、何かを吐きかける。


するとカエデの胴体にアリスの鞭が巻き付き一気に土蜘蛛から引き離される。カエデがいた所は土蜘蛛の吐きかけた液体で溶解していた。


「あ、ありがとうございます...」


「油断しないで、あの変な声が響いてから明らかに様子が変わった。」


アリスの言葉にカエデはコクリと頷く。周囲を見渡すといつの間にか髑髏は全て討伐されていた。アリスがこの短時間で全て片付けたようだ。


「また来た」


アリスの言葉にカエデは土蜘蛛を注視する。


『弐』『参』


声が響くと先ほどと同じように土蜘蛛の身体に変化が現れ身体がさらに肥大化する。声が響くたびに身体が肥大化し、蜘蛛の足ですらもムキムキに見える。


そんな土蜘蛛が突然目の前から消え、カエデが壁に叩きつけられた。


「カエデ!?」


目の前に現れた土蜘蛛にむけてアリスが鞭を振るうが、顔面に鞭が当たっても土蜘蛛は怯むことなく鎌を振るう。


アリスは背後に跳んで鎌を回避し再度鞭を振るうも、土蜘蛛はその鞭を回避してニタリと顔を歪める。


『ギャガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!』


顎を鳴らしながら荒い息を吐く土蜘蛛を横目にアリスはカエデに駆け寄る。


「大丈夫!?」


咄嗟に金棒でガードしたおかげで直接攻撃は喰らってはいないが、それでもすぐには立ち上がれないほどのダメージを負ったカエデ。金棒で身体を支えながらゆっくりと立ち上がる。


「さっきとは桁違いの威力になってますよ。」


「そうみたいだね、私の鞭もあまりダメージ通っていないみたいだし。防御力も相当なのかもね」


顎を鳴らしながらこちらに顔を向ける土蜘蛛を見ていると、カエデは肩を回して気合を入れる。


「久しぶりにスキル使わないとまずいですね...」


「え?今まで使ってなかったの?」


「私の種族の【幽鬼族】は魔法系スキルは使えない代わりに物理攻撃の攻撃力がすごいので今までスキルを使う必要がなかったんですよ。師匠に武器の扱いとかも教えてもらっててほとんどの敵は一撃で終わってたので。」


「師匠...あの龍娘か..」


アリスは先ほどはぐれた赤い服の少女を思い出しながら苦い顔をする。


カエデは思い切り伸びをすると土蜘蛛を見据える。


「とりあえず〔鬼剛力〕、そして〔金剛〕」


カエデの全身から光が溢れ、力が漲る。


「第2ラウンド行きますかぁ!!」


金棒を肩に背負ってカエデは土蜘蛛を鋭く見据えるのだった。


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