第74話扉に向けて
攻略プレイヤー達に告げられた集合場所は新エリアとして開放された山岳地帯。その中でも一番標高が高い山の麓であった。
この新エリアにはいたる所に鉱石が存在し、武器を作成する鍛治職にとっては天国とも言える地域だ。
「前に来た時から掘って見たかったのよねぇん♡今度掘りにこようかしら...」
岩壁の横を通り過ぎるたびに名残惜しそうにそう話すプリティガール。山の斜面にはいくつもの鉱石が飛び出しており、少し手を伸ばせば高級な鉱石が手に入りそうである。
「しかしこんなに晴れているのに寒すぎないか...?」
周囲の異常な気温の低さにロイは眉を顰める。
一度来たことがあるプリティガールはこの原因を知っているらしく、全員に聞こえるように解説する。
「この山は山岳地帯の中で一番標高が高い山で山頂の冷気が降りてくるらしいけど、周囲も山に囲われているから溜まった冷気が逃げることができないらしいわ。山の天気のことは良くわからないけど『天界の扉』がある山頂はもっと寒かったわよ」
「ゲームの中で寒さによる痛みがあるなんてな。戦闘での痛みは感じないくせに...」
グレイルはめんどくさそうに身体を震わせる。するとそこに空中から全体を見ていたナギが降りてきた。
「モンスターを全く見かけないんだけど、ここってそういうエリアなの?」
訝しげにそう告げるナギにプリティガールも怪訝な顔をする。
「前に来た時は猪とか狼系のモンスターが多かったわね。全くいないっていうのは少しおかしいと思うけど♡」
「全くいないなら都合がいいわ。ちゃっちゃと頂上行ってその扉を開けましょう。ね?アリエルさん?」
「もうなんでもいいよ。」
アリスの同意を求める声にアリエルはやや投げやりに答える。
「ナギ、頂上まで後どれくらいか見てきてくれないか?」
「わかった。」
ロイがそう声をかけると、ナギは再度山頂に向けて飛び立った。
「こういう時飛べるって便利だよな。」
飛んでいくナギを見ながらロイが呟くと、グレイルがナギを見ながらとあることを思い出す。
「そういえば前にNPCのおっさんが龍を祀る祠について触れてたことがあったな。『真なる目覚めを果たす時、祠に道が開き彼の者最果てへと導く』ってな」
「真なる目覚め...?」
「最果てへと導く...」
グレイルの言葉にロイとフレイヤはそれぞれ考え込む。
「あのナギってやつの種族はおそらくドラゴン系だろうから、なんかわかるんじゃねえか?」
グレイルの言葉にプリティガールも「そうねぇ」と言葉を発する。
「このクエストが終わったら聞いてみましょうねん♡少し気になるわん♡」
彼らはそうして登山を続けるのだった。
************************************************************************************
山頂に辿り着いたロイたちは警戒を露わに扉への道を進んでいた。
「不気味なほど静かだな...」
山頂付近にはしんしんと雪が降り続け靴の側面が見えなくなるほどの雪が積もっており、肌を突き刺すほどの冷気が立ち込めている。
山頂には石造りの遺跡が存在しそこに存在する大きめの門から入れるようになっていたのだが、その門をくぐった先は不自然なほど静かになっていた。
数多のゲームをやってきたロイやフレイヤはこの感覚に覚えがある。
シロ○ネ山の最深部にてレ○ドと遭遇した時のように、BGMが全く流れずに雪を踏み締める効果音だけが流れるようなあの感覚。
そしてその遺跡の最奥にその扉はあった。
「おかしいわねん、前来た時はこんな遺跡なかったのに。」
プリティガールの言葉を聞きながら一行は扉に進む。するとそこで周囲を飛んで様子を見ていたナギが戻ってきた。
「ナギ、そろそろ扉を開けるぞ。」
「わかった。」
扉の前にイベント上位5人が集まり、それぞれの『天界の鍵』を取り出し扉に差し込んだ。
「よし、じゃあ私は帰る。」
「うん、忙しいのにありがとね。」
アリエルは鍵を差し込んだ後、特に何も起こらないことを確認してログアウトしていった。アリスが「あぁ!?」と嘆いていたが、そんなことは全く気にせずに退出していった。
その後、ロイが扉を開けようと手を当てたところでその声は響いた。
『神の地を荒らす不届き者め、地の底からでにゃおす...出直すがいい!!』
その言葉とともにその場にいる全員の足元には全員を覆い尽くすほど大きな魔法陣が光を放ち、全員の視界を覆い尽くす。
魔法陣の光がおさまった時、その場には誰もいなかった。
『うぅ、噛んじゃったぁ....』
「...う...ここは...?」
光一つない真っ暗闇の中でフレイヤは目を開ける。直前の光源のせいで暗闇に目が慣れておらず
視界はチカチカとしている。
「全くアリエルさんは帰っちゃうわどこかに飛ばされるわ散々ね...」
「師匠とはぐれてしまいました...」
「フレイヤちゃんと同じなら安心だね。ナギ姉ちゃんとロイくん、メイとは別か...」
どうやらそれぞれ別の場所へ転送されたようで、フレイヤと同じ場所にはアリスにカエデ、シル、そしてその他数人のプレイヤーだった。
周囲の提灯に光が灯り場が明るくなると、周囲の様子がよくわかるようになった。
「っ何か来ます!!」
カエデが金棒を構えてその方向に体を向けると、その場にいた全員が戦闘体制に入る。
汗を垂らしながらその一点を見つめていると、フレイヤは底とは反対方向の天井から別のナニカがやってくるのを気配で感じ取った。
十二単を身に纏った美しい女性が天井からゆっくりと舞い降り、地面に足をつける直前で止まる。そんな彼女の背後から狐の尻尾がふわりと揺れる。その数は九尾。
「『玉藻前(S)』か...九尾の狐の名前だっけか」
どこかの漫画で読んだ知識を思い出しながらフレイヤは懐の刀を抜くと、最初に気配を感じたところにもソレが姿を見せた。
自動車ほどの大きさの巨体が八本の脚でこちらに歩み寄る。一見蜘蛛のように見えるが、ソレがニタニタと笑いながら歩いてくるのをみて誰が蜘蛛だなんて言えるだろうか。
眼球や鋏があるはずの場所には人面がついており、まだらに生えた髪の毛と髭。鼻からはひっきりなしに荒い息を吐いている。
ソレの頭上には『土蜘蛛(S)』と表示されていた。
「S級モンスターに挟まれるなんて、なんて嬉しくない...」
アリスが鞭を構えて周りに指示を出し始める。
「フレイヤ、あんたはその玉藻前ってやつをそのエルフ娘と二人でどうにかして。あんたならどうにかできるでしょ?私たちはこのクソキモい蜘蛛をなんとかするから。」
「わかった、そっちは任せるね」
フレイヤはシルを呼ぶと玉藻前と向かい合った。相手も懐から扇子を取り出し両手で構える。
「二人でS級1体相手にするとか...」
「信頼してくれてるんだよ。フレイヤちゃんもイベント3位の実力見せてあげようよ。」
「それもそうだね、っよし!頑張るかぁ!!」
そうして戦いの火蓋は切られた。
深夜の竹林へ転送されたロイは、月の光で周囲を確認していた。
「まぁた一緒になったわねぇん♡ロォイくぅぅぅん♡」
プリティガールが物理的な投げキッスをロイに送るが、ロイは飛んできたそれを手で叩き落とす。「あらん、いけずぅ♡」という声はガン無視だ。
「お兄ちゃん、ここは...?」
「わからん、風景的には日本っぽいが...」
メイの質問にロイは周囲を警戒しながら答える。他のプレイヤーも周囲の警戒を始めた。
資料としてはみたことがあるが、都心生まれ都心育ちのロイは竹林を生で見たのは初めてだった。
月も合わせると昔話にでも出てきそうな情景だなと思っていたところで巨大な影が月の光を遮る。
「蛇...ではないな...」
蛇のようにうねうねと八本の首が別々に蠢いており、それぞれの首に長い2本の牙、ナマズのようなヒゲ、人を丸呑みできるほど大きな顎がついている。恐竜のような身体、首と同じ数の尾。
「『八岐大蛇(S)』か...」
頭上に表示された名前を呟くと、それが合図かのように相手の全ての首が耳を突き破るほどの雄叫びを上げた。
「ほっ!!!楽しくなってきたじゃないのぉ!!!!」
いつの間にか両手に自前のガントレットを装着したプリティガールが八岐大蛇に向かって駆け出した。
「私も切り刻む!!!」
メイも双剣“高天原&黄泉“を構えて八岐大蛇に向けて走り出した。
「俺たちも行くぞぉ!!!」
「「「おぉぉぉぉ!!!!!」」」
他のプレイヤーもそれぞれ八岐大蛇めがけて駆け出していった。
「どうしてこっちにきたのは好戦的なやつばかりなんだぁ!?」
出遅れたロイは味方の脳筋具合に頭を抱える。
S級相手に作戦なしで突っ込むなんて自殺行為だといいたいところだが、案外このメンバーならどうにかなりそうな気もしている。
そして、ロイも実は戦いが大好きである。
「俺も混ぜろぉ!!!!」
他のプレイヤーと同じようにロイも“天叢雲剣“を構えて八岐大蛇めがけて駆けていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます