第61話解明と異変
「ごめんなさいねぇん、同じ生産職として謝罪するわん。」
ナギとカエデを自分の店に招き入れながらプリティガールは少し頭を下げる。
「いえ、こちらこそ助けていただいてありがとうございました。」
ナギが頭を下げると同時にカエデも頭を下げると、プリティガールは手を横に振った。
「いいのよん♡個人的にあなたのことも気になっていたし!βテスターじゃないのにバトルロイヤルのイベントで5位だなんて、すごいじゃない!一度お話ししてみたいと思っていたのよぉぉん!♡」
身体をクネクネさせながらすごい剣幕でナギに詰め寄るプリティガールにナギは少し仰反る。
「素材を売りたいのよねん?何があるのかしら?」
プリティガールの言葉で本来の目的を思い出したナギは画面を開き、いくつかの素材を彼女に手渡した。
「..これはさっきのビッグブラッドベアの素材ね?あとこれは...アークデーモンの翼?初めて見る素材ね...いいアイテムが作れそうね!できればあるだけ買い取りたいのだけどどうかしらん?高値で買い取るわよん!♡」
「じゃあそれでお願いします!」
「はい!まいどありぃ!!!!」
プリティガールが画面を操作して相当な金額を提示してくれたのでナギはその取引に応じると、途端に魚屋のおっちゃんみたいな野太い声で声を上げるプリティガール。
その声量に後ろのカエデがビクッとなった。かわいい。
「そういえばあなた、ナギちゃんっていうのよね?イベント5位だったならあのアイテム調べた?」
「あのアイテム?」
プリティガールの質問にナギは首を傾げる。
「覚えてないかしらん?イベントの上位報酬の中に《天界の鍵》っていうのがあったじゃない?」
「あぁ、そういえばありましたね。」
ナギはとあるアイテムを頭に思い浮かべる。
「あのアイテムって、詳細を見ても『とある場所につながる鍵』としか出てこないじゃない?だからどこかしらで使える場所があるのかと思って色々調査してみたのよん♡そうしたら、新エリアの山岳地帯の頂上にどうやっても開かない扉があったのよ♡しかも鍵穴は5つ!」
絶対に何かあると思わない?といって身を乗り出すプリティガール。
「確かに何かありそうですね...行ってみましょうか。」
メンバーはどうします?とナギが問いかけると、プリティガールは棚から回復薬をいくつか取り出し始める。
「あたしの知り合いは特に誰も連れて行かないから気にしなくていいわよん!」
「それってそのアイテム持っていないといけないやつなんですか?私も行ってみたいんですけど...」
カエデの質問にナギとプリティガールは顔を見合わせる。
「大丈夫じゃない?」
「鍵要員としてその5人が必要なだけだから、多分大丈夫よん♡
「でも死神ちゃんが来ないと鍵穴に対して鍵が足りないのよねぇ...あの人来てくれるかしら...」
「僕からお姉ちゃんに予定聞いときますよ。」
「お姉ちゃん?死神ちゃんはあなたのお姉さんなの?」
「あ、はい。」
「それじゃあよろしく頼むわん♡ロイちゃんとフレイヤちゃんもリアルでの知り合いなのよね?お願いするわん♡」
そうしてプリティガールと別れたナギはログアウトしたのであった。
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「...というわけなんだけど、達也と香織はどう?」
夕食を作りながらリビングで勉強する二人に問いかけると、達也は呆れたように渚に顔を向ける。
「渚さぁ、テスト期間だってこと忘れてないか?」
「忘れてるわけないじゃん。勉強もしてるよ?」
「くそ!これが学年1位の余裕かっ!」
達也が悔しげに手元の教材に向き直る。香織は教材から顔をあげずに渚に聞いた。
「それはテスト後でもいいんだよね?」
「うん、プリティガールさんはそう言ってたよ。」
「それじゃあとりあえずテスト後でいいんじゃないかな?紗良ちゃんと皐月も中間控えてるし、テスト終わってからの方がいいでしょ。」
「私もそれがいい!」
香織の言葉に紗良も同調し、ひとまず攻略はテストが終わってからすることになった。
あとでお姉ちゃんにも連絡しておこうと渚は頭の片隅にメモしておく。
「ところで渚姉ちゃん、今日はいつにも増して多くない?」
お皿に山のように積み上がるチキン南蛮を見て皐月が呟く。
「あ...」
渚自身も積み上がるチキン南蛮を見て固まる。
「え、まさか無意識?」
「無意識でこんなに量作ってたの!?」
皐月の驚愕の声に呼び寄せられた香織も皿を見て声を上げる。
「おかしいなぁ、鶏モモ肉10枚しか使ってないはずなのに...」
渚が首を傾げていると、紗良がゴミ袋の中のお肉が入っていた袋を見つける。
「1、2、3、4...?いやもっと..8..10袋?」
「え?そんなに?」
「いや、なんで渚が驚いてるんだよ...」
素で驚く渚に達也が思わずツッコミを入れる。
「え〜...1袋2枚が10袋ってことは....20枚?え?僕そんなに作ってたの?」
「だからなんで渚が把握してないんだよ...」
「僕が聞きたいよ...」
「渚ちゃん大丈夫?体調悪いんじゃない?」
香織が渚の額に手を当てると、手にほんのりと肌の熱が伝わる。
熱はないことを確認するが、香織は心配そうな顔を崩さない。
「まぁいいじゃん。たくさん食べられるよ。」
「それならいいか。」
渚の言葉に達也が納得したので、渚は配膳を始めた。
テーブルに並べられた茶碗やお皿は4つずつ。その数に疑問を抱いたのは一人ではなかった。
「あれ?一つ足りなくない?」
「あぁ、なんだか食欲ないから今日はいいかなと思って」
「大丈夫?やっぱり体調悪いんじゃない?」
「大丈夫だよ、寝れば治るって。」
ーー翌日ーー
「久里山ー。起きろー。」
「んぇあ?」
授業中、うたた寝をしてしまった渚に声がかかる。
「珍しいな。お前が授業中に寝るなんて。」
「あ、すみません。」
渚が慌てて謝罪すると、渚の顔を覗き込んだ先生が眉を顰める。
「顔色が悪いな。保健室に行ってこい。体調悪いんだろ?」
「いえ、そんなことは...」
「篠原ー、久里山を保健室へ連れてってくれー。」
香織に連れられ保健室へと連行された渚は、そのまま保健室のベットに倒れ込み眠り始める。
相当体調が悪かったのか顔色も悪く、起きて早々渚は早退することになってしまう。
自宅に戻った渚は、そのまま自分のベッドに倒れ込んだ。そしてそのまま眠り込むのだった。
起きた時の惨状を考えもせずに。
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