第58話騎馬戦〜後編〜





「達也!お前はやっぱりモテるな!!」


「これは!モテるとは!言わない!!」


次々に襲い掛かってくる騎馬を薙ぎ倒しながら、達也は自らの騎馬から放たれる言葉に反応する。


先ほどから他クラスの騎馬は自分にしか向かってこないし、上級生の騎馬もちょくちょくやってくる。


そしてその男子生徒から自分に向けられる視線は嫉妬を増幅した憎悪だ。


まぁ、その原因は客席にある。


「達也頑張ってー!!」


なぜか渚がチアリーダーの格好をし、ボンボンを持って両手をブンブン振りながら応援していたからだ。


通常時の渚ならばこんなことはしないはずだが、現在渚は香織からこの応援を強制されている。


2度も血まみれで帰ってきた渚を見た香織が泣き始め、慰めようとした渚が


「なんでもするから」


と言った瞬間に「え?まじ?」と反応し、即座に真顔になる香織。


悲しみが大半を占めていた香織の気持ちメータが一瞬にして欲望に塗り替えられた瞬間である。


その結果、コスプレをさせられ今に至る。


最初こそ恥ずかしがっていた渚だが、時間が経つにつれ会場の雰囲気も相まってテンションが上がってきた渚もノリノリで応援を始めた。そしてそんな渚を見て香織も大興奮していた。


「みんなも頑張れぇー!!」


「「「「「「「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」」」」」


渚の応援が聞こえるたびにクラスメイトの気合は上がり、騎馬の数は減っていく。


達也に向かって駆ける敵勢力に背後から襲い掛かる達也のクラスの騎馬。


しかし、他クラスも甘くない。


「おい!あれを見ろ!!」


「な!?5つの騎馬を合体させてやがる!!」


「くそう!手が届かねえ!!」


砦のように高くそびえ立つ1つの騎馬。1年クラスの一つが全てを合体させるという手段にでた。おいあれありなのかよ!?


『おおっと!あれはCクラスの奥義!!組体操のように高くそびえる騎馬を倒すことができるのか!!』


実況が特に言及していないところを見ると問題はないのだろう。そしてその騎馬は達也に視線を向ける。


「1年の最強男子の座は俺がもらうぜ篠原ぁ!!!」


そう言って進撃を始めた瞬間、


『おおっと!奥義が破られたぁ!!』


「「「「早ぁ!!!??」」」」


思わず声を上げてしまった達也の騎馬たち。その方向を見ると3年生の黒いゴリマッチョな先輩が地面を足で踏み鳴らしていた。


「あれ程度で倒れるなんて体幹がなっていないわよ若者くん!!」


「我ら!!」


「ボディビル部が!!」


「鍛えてやろう!!」


3人のゴリマッチョがレオタードのみのピッチピチ姿で、腕やの黒く焼けた肌を晒し筋肉ムキムキさせながら進んでくるいくつもの騎馬。

彼らは顔はとても整っており、一般的には超絶イケメンと言っても差し支えないであろう顔立ちをしている。首から上だけを見ればモテていただろう。


しかし今の立ち姿は、顔の魅力を最大限に引き下げる変態的な格好である。控えめに言って変質者だ。


しかしその上に乗るもう一人のゴリマッチョの姿を見て達也は咄嗟に『Liberal Online』のプリティガールを思い出し背筋が寒くなる。


男性であるのにも関わらずビキニを着たゴリマッチョがいたのだ。しかもそのビキニがものすごく布面積が少ない。


いわゆるマイクロビキニというやつなのか、本当に大事なところだけが隠されている状態である。


「おい!!あれは倫理的に大丈夫なのか!?センシティブ判定に引っかからないのか!?」


達也の訴えに実況はすました顔で答える。


『ローションプールがある時点で察してください。』


「そういうことヨォぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!!」


「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁ!!!逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」」」


達也の騎馬たちも流石に耐えられず、全速力で逃げ始める。


ムキムキ騎馬は先ほどの倒れた砦騎馬に迫る。


「や、やめろ...俺に近づくなぁ!!」


「私の筋肉に恐れ慄いているわ。そして渇望しているのね!俺もそんな筋肉になりたいってね!!」


「んなわけあるか!!というか怖いのは筋肉じゃなくてお前の格好だ!!」


「心配しないで!あなたと私と私の筋肉はもう友達...いや親友よ!!」


「俺の話聞いてる!?あ、やめ、担ぐなぁ!!」


「お前たち!!このクラスの男子は全員トレーニングルームに連れてくわよぉ!!」


「「「「「「応!!!!!!」」」」」」


レディマッチョの掛け声に合わせてマッチョ一人につき男二人ずつ肩に担ぎ、よっせよっせと運ばれていった。


この運ばれた男子生徒たちは数日後、全員がビキニマッチョになった状態で教室で発見されることとなる。


そして逃げた達也の元にはあいかわらず嫉妬に狂った男子が寄ってくる。


「1年の女子は全員お前にゾッコンだぁ!!どうしてくれる!?」


「イケメンは処すべし...」


「鎖持ってきたゼェ...縛って重石つけて海に沈めようぜ...」


「普通に殺して埋めようぜ」


正気を失ってんじゃねえかこいつら!!??


目をギラギラさせて達也に襲い掛かる彼らを対処していると、騎馬の一人が声を上げる。



「おい達也!!すごいイケメンがニコニコしながら走ってくるぞ!」


騎馬の声に咄嗟に先ほどのゴリマッチョを思い出した達也。


「やめろ!もう肉林は嫌だ!!」


「安心しろ!相手は細い!細イケメンだ!!」


達也が騎馬をあしらいながら顔を向けると、紅髪の青年がにっこりと微笑みながらこちらに向けて騎馬をすすめる。


「なかなか面白い人なんだね、君は。」


「それはどうも。」


人の良さそうな笑みを浮かべて話しかけるルークに達也は少し違和感を覚える。


この違和感は...ゲームの中で感じたものに似ている。


アリエル、亜紀さんと対峙した時のような...?


「君は意外と耐性が強いんだね。正直意外だったよ。さすが彼女の幼馴染なだけはある」


「え?」


「君も今度彼女と一緒に我が家に来るといいよ。」


ルークはそういうと騎馬を引き連れてどこかへ去っていった。


「結局何だったんだ?あのイケメンは?」


達也がぼそっと呟くと、騎馬も同調して話し始める。


「よくわからんが、俺はなぜか動けなかった。」


「あ、俺も俺も。」


「お前らもか?実は俺もなんだ。」


3人の会話が耳に入らない達也は気を取り直して騎馬戦を続けることにした。


達也たちのクラスは、最終的に3位だった。



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