第57話騎馬戦〜前編〜
『さぁ午後の種目に入ります!』
入場門から屈強な男子生徒が次々と入場して行くなかで達也の姿を見つけた渚は大きく両手を振った。
「達也頑張れーーーー!!!」
「達也負けるんじゃないわよー」
「「「頑張ってーーー!!」」」
渚の声に合わせて他の女子クラスメイトも男子に声援を送る。
「「「「「うおぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!!!」」」」」
女子生徒の声援に気がついたクラスメイトも全員が沸き立った。
周りの雰囲気に飲まれて達也も声を上げているが、その顔はどこか苦笑いが含まれている。
「男子ってほんと単純よね。」
「あはは...」
クラスメイトの女子の会話が聞こえた渚は微かに笑う。
男子は誰であれ、女子から黄色い声援を送られたら元気100倍になるのだ。それが可愛い女子ならさらに上昇率も上がる。
しかし他のクラスや上級生からは射殺さんばかりの嫉妬の視線が向けられている。
「....これ勝てると思う?」
「...達也ならなんとかするでしょ。」
「達也なら大丈夫だよ。」
佐々木さんの心配とは反対に、香織と渚は何事もなさそうに答える。
「本当に?ほらあの3年生とか、指をポキポキ鳴らして達也を睨みつけてるよ?」
佐々木さんの指さす方向に視線を向けると、そこにはゴリラのような筋肉をしたムキムキの男子学生。
「「まぁ、ムキムキなだけじゃ達也には勝てないし。」」
「え、何この信頼関係。」
「まぁ今にわかるよ。」
前を向くよう香織に促され佐々木さんが校庭を向くとちょうど試合が始まるところだった。
『さぁまもなく始まります!ルールのおさらいをしましょう!!騎馬戦は全クラスの総決戦です!鉢巻一つを奪えば1点!騎馬を倒せば2点!全ての騎馬が倒れるまで試合を継続し、最後まで残った騎馬のクラスには100点!!最終的に各クラスの合計点が高いクラスが勝利です!!ちなみに、騎馬戦で獲得した点数は体育祭のクラスの点数にそのまま加算されます!!』
『実況のあなたは出場しないのですか?』
『私が出ると今後の実況に影響が出ますので、出場は控えさせていただきます。』
校庭から、具体的には騎馬戦出場選手から大規模なブーイングが上がるが、そんな声など聞こえないように実況は話を続ける。
『さて、本来であれば騎馬に直接触れるのは反則になりますが...騎馬の上にいる人同士であれば許可しましょう!殴る蹴るといった暴力でこれまでの鬱憤を存分に晴らしてください!!』
実況のその台詞が聞こえた瞬間、9割を超える男子生徒の目がぎらりと光る。
彼らが顔を向けた先には各学年のモテ男...具体的には1年の篠原達也、2年のルーク・デビリアス、3年は渚が一緒に走った3人だ。
「おい篠原。お前今日合法的に殺されるぞ。」
「俺お前に巻き込まれて死ぬのか...告白くらいしとけばよかったな。」
「今まで楽しかったぜ。お前らのことは忘れねえよ。」
「最初から死ぬ前提で話すんじゃねえ!!現実になりそうじゃねえか!!」
騎馬メンバーの諦めたような声音に達也は恐怖を覚える。
実際の話、他クラスの男子から向けられる視線で寿命が縮みそうなのだ。
「向かってくる奴ら全員倒せば1位にならなくてもそれなりの点数取れるだろ。1位になったらお前らもモテるようになるぞ?」
「「「「「「「なんだって!?」」」」」」」
お前らもモテる、という達也の言葉に目を輝かせる騎馬メンバーと話を聞いていたクラスメイト。
「モテると言ったな?」
「あぁ。」
「かっこよくなれるんだな?」
「あぁ」
「ハーレム作れるんだな?」
「あぁ..え?」
「香織さんと付き合えるんだな?」
「え?」
「久里山さんにご奉仕してもらえるんだな?」
「...」
「だな?」
「....」
「な??」
「........多分な。」
「よっしゃお前らぁ!!!気合い入れていくぞぉ!!!!!」
「「「「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」」」」
ボルテージが最高潮に達し、他のクラスがビクッとして達也たちに視線を向ける。
1年A組男子の頭脳がぐんと下がった!
1年A組男子の攻撃力がぐんと上がった!!
1年A組男子の防御力がぐんと上がった!!
1年A組男子の敏捷力がぐんと上がった!!
彼らの元気は漲っている!!!
「なんだろう、とても寒気がする」
「奇遇ね、私もよ」
自席で身を震わせる渚と香織がいたとかいないとか。
『さぁ血で血を洗う騎馬戦を開始します!』
「「「おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」」」
校庭から響く男どもの声で地響きが起こっている。
全員が騎馬を組み、メラメラと闘志に燃える男子たち。
『それでは...試合開始!!!』
「「「「「「ぶっ殺せぇぇぇえええええええええ!!!!!!」」」」」」
全ての騎馬が勢いよく飛び出し、他クラスの騎馬に襲い掛かる。
騎馬の上に乗るもの同士であれば暴力が許可されたため、強気な者は他の生徒を次々に薙ぎ倒していく。
そして、目的の相手に向けて突き進む。
2年生の剛田 武利の乗る騎馬も周囲の騎馬を次々に薙ぎ倒しながら憎き相手に向かって突き進む。
その相手とは...
「この機会を待ってたぜ...お前を堂々とボコボコにできる日をなぁ!!」
「僕はそんな日望んでいないんだけど...というか僕は君にそこまでされる謂れはないんだけど?」
「なんだとぉ!?お前がきたからあいつは...梨花は...俺じゃなくお前を選んだんだ!!ルーク!!」
剛田はルークに殴りかかるが騎馬ごと避けられ、前に倒れる直前で踏みとどまる。
「おい武利!掴めばこっちのもんだ!腕を掴んで投げちまえ!!」
剛田の騎馬が体勢を立て直して襲い掛かり、剛田の手がルークの腕を掴む。そのまま引きずり倒そうとするが...
「な!?動かない....!?」
「こんなもんか。よいしょっと。」
「っっっっっ!!!!??」
掴んだ腕は全く動かず、逆にルークの腕が剛田の腕を掴んで引っ張り上げた。
そのまま地面に放り投げ、騎馬は崩れた。
「っっっくそぉ!!」
地面に拳を叩きつけ悔しがる剛田に視線を向け、ルークは話しかける。
「君の想い人は僕に懸想してたと思ってるみたいだけど、彼女が僕に告白してきたことはないよ。むしろ恋愛相談をしてきたんだ。いつも一緒にいる男の子の堕とし方をね。」
「...はぁ?」
突如語られる言葉に剛田は眉を顰めた。
「君の想いもその娘に話してみれば何かわかると思うよ。」
「...」
ルークの言葉に少し考えた彼はそのままスタスタと歩いて戦場から去っていった。
《自分ができなかったことを人に勧めるなんてね》
「(っ!クルルか、いきなり脳内に話しかけてくるのはやめろよ)」
《“君の想いもその娘に話してみれば何かわかると思うよ“かぁ...あなたの想いが相手に届くのは何百年後かしらね?》
《ん...ルークは前から奥手》
「(ニナまで...。まぁいい。俺はまだまだ生きるからな。時間はたくさんある。)」
ルークはそう言って、一人の男子生徒に視線を向けた。
「篠原 達也...か...」
彼女の幼馴染の一人だと知り、俄然興味が湧いた。
もう一人は女子なので戦いを挑むわけにはいかないが、彼なら大丈夫だろう。
「さて、お手並み拝見といきますかね...!」
ルークはそうして達也に向けて騎馬を走らせるのであった。
「おい達也!!すごいイケメンがニコニコしながら走ってくるぞ!」
「やめろ!もう肉林は嫌だ!!」
肉林・・・男の筋肉の群れ。
※実際はこんな意味ではありません。特別な意味として勝手に作って使用しているだけなのでご了承ください。
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