第50話体育祭開幕!!!




「えー、であるからして、ーーーーーーなことがありますのでーーー」


朝礼台の上で長々と話をする校長。


体育祭の開会式の真っ最中である校庭は現在、20分に及ぶ校長の激励の影響で盛り上がりを失っていた。


「校長話長すぎじゃね?」


「達也、校長先生はこれくらいしか見せ所がないんだからしょうがないんだよ。」


「にしても長すぎだろ!さっきから同じことしか言っていない気がするぞ。」


うんざりした様子の達也の言葉に渚が言葉をかけたところで、校長の話が終わりそうな雰囲気を醸し出した。


「ーーというわけで、クラスが一丸となって女子のパンチラ...ゴホッゴホッ!!一丸となって女子のヘソちら...ん“ん”!!...体育祭を成功させてください。以上!!」


「...ん?」


何やら変な言葉が聞こえた気がしたが、空耳だと思って気にしないことにした。


「校長先生ありがとうございました。次に選手宣誓。3年A組城田信幸くん、3年B組沼田茜さん。」


「「はい!!」」


教頭先生の言葉に二人の生徒が朝礼台の前に立つ。


「「宣誓!」」


「僕は!この高校に入学してから!恋をしたことがありませんでした!!」


「...は?」


城田くんが喋り始めた言葉に隣の沼田さんが眉を吊り、声を上げた。


「数多の女子生徒からの好意を伝えられることはあれど!僕はそれに応えてきませんでした!!」


「ちょっと城田くん、台本忘れたの!?」


沼田さんがすごく慌てて城田くんに声をかけるが、城田くんは止まらない。


「しかし先日!僕は運命の人と出会いました!!」


「「「「「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」


城田くんの発言に全生徒から歓声が上がる。隣の沼田さんは頭を抱えていた。


「相手の都合を考えて今はまだ名前を明かせませんが!僕は彼女を一目見た時に恋に落ちました!!!ですので!僕、いや俺は!!体育祭が終わったら告白しようと思います!!」


「「「「やったれええええぇぇぇぇぇぇぇええええ!!!!!!!!」」」」


全生徒の盛り上がりが最高潮に達し、宣誓が終了した。沼田さんは終始頭を抱えて死んだ目をしていた。


二人が退場したところで、最初の種目が始まる。


『ラジオ体操第一!』


音楽に合わせて各々が体操を始める。


渚が伸びやら屈伸やらをしていると不意に舐めるような視線を感じる。


渚は周囲を見渡していると、視線の元凶を見つけた。



目を爛々と輝かせて校庭を見つめる校長の姿だった。




「へへ、いい内腿だ...目の保養になる...うぇっへへへ!!!」


「ヒッ!!!」


校長先生が舌舐めずりをしながら女子生徒を見ており、渚と視線が合う。


ぞわぞわぞわっと鳥肌がたった渚は思わず校長から視線を外した。


放送係の眼鏡女子がマイク越しに言葉を発する。


『校長先生、目を潰されたくなければ今すぐその視線をやめてください。』


「な、なんのことだか...」




**********************************************************************************




次の種目は100m走だ。


「いくら久里山さんでもあのメンツは...」


「流石に無理があるでしょ...」


「陸上部部長にサッカー部部長、それに帰宅部の神童まで...」


渚の出走順を確認し走るメンバーを見たクラスメイトが悲痛な声を上げ、誰もが膝をついて項垂れた。その中で渚の走りを知っている香織と達也、そして学級委員の2人はむしろにっこりと微笑んでいた。


叡賢高校3年生の中でもトップに君臨する3人と同時に走ることが決まっている1年生の渚に他クラスの生徒は憐れみの視線を向けている。


「まあ渚だから心配はいらないだろ。」


「うん、渚ちゃんなら大丈夫だよ。」


「その人たちがどれだけ速いのか知らないけど頑張るね。」


「安心しろ、その人たちは犬よりは遅い。」


「そうね、犬より遅いわ。」


「そうなの?なら安心だね。」


達也と香織の言葉に安心した渚は二人の走順を確認した。


「...達也と走る人はみんな1年生だね。」


「まあ同学年だったら渚が相手じゃない限り負けることはないな。ひとまずは安心か。」


達也の余裕そうな表情を見て渚はすぐに香織に顔を向けた。


「香織は誰が速いと思う?」


「私は3年の黒田美緒先輩だと思うな。生徒会副会長なんだけど、去年の体育祭で女子の中でぶっちぎりで早かったよ?」


見学時に見た体育祭を思い出しながら香織が話す。当時2年生の黒田先輩が3年の先輩をごぼう抜きしていく様子は会場は盛大に盛り上がっていた。


「香織なら大丈夫だよ!中学の時も陸上部の人抜かしてたじゃん!」


「中学は成長期だったから...」


渚からの的を外れた期待に香織は苦笑いしながら入場門の前にたむろする生徒に視線を向けた。


「...なんか嫌な視線を感じる。」


渚の呟きに香織と達也が周囲を見渡すと、3年の女子生徒がこちらに視線を向けているのが見えた。


「羨ましい羨ましい羨ましい...」


「イケメントップ3と走るなんて...許すまじ」


「ビリになって『あ〜ん、センパイ♡慰めてくださぁい!』っていうつもりよ...」


「マジィ!?...ぶっ殺す。」







「...渚ちゃん、あの雌どもは私が走りで負かしとくから、エセイケメン野郎どもの自信を粉砕してあげなさい。絶対に。」


「...わかった。」


香織の背後に般若が顕現しているような気がして額に汗が浮かぶ。


そんな会話をしているうちに入場門前で実行委員の人が声かけを始めた。



「さぁ、血祭りに上げてくるわ...」


「髪を靡かせてそれっぽく言ってるけど走りに行くだけだからな?」


なぜかテンションが高い香織にツッコミを入れる達也が並びに行くと同時に渚と香織も指定された位置につく。待機している途中で隣にはサッカー部の部長がいた。


「やぁ、君は一年生?」


「あ、はい。」


突然話しかけられた渚は戸惑いながらも返事を返す。


「結構かわいいね。俺結構タイプかも。」


「....そっすか。」


「よかったら放課後に俺と遊ばない?二人きりでカラオケとかどブフ!!!」


爽やか笑顔で遊びに誘ってきた先輩は渚のすぐ横にいた女子生徒にビンタされて地面に伏せる。渚が振り返ると、こんがりと日に焼けた肌に紺色ショートカット髪の3年の女子が立っていた。頬を紅葉模様に赤く腫れさせた先輩はその女子生徒に非難の目を向ける。


「沙織!!今のは流石に酷いだろ!!」


「やかましい!かわいい女の子に片っ端から唾つけるのやめなさいよ!」


「みんな喜んでついてくるんだからいいだろ!?」


「そう言ってあんた今日で何人目よ!?」


「まだ5人目だ!!」


「多いわ!!もう十分でしょ!?」


沙織先輩は渚を振り返ると両手を合わせて頭を下げる。


「いきなりごめんね?」


「いえ!むしろきてくれて助かりました。どう断ろうかと思っていたので。」


渚の言葉に沙織先輩は目を丸くする。


「え、この反応は珍しい。ほとんどは『せっかくサッカー部イケメンが話しかけてくれたのに邪魔すんじゃないわよ幼馴染の分際で!』っていう視線を向けられるのに。」


「え、あの人と幼馴染なんですか?...かわいそうに」


「おお!?なにこの娘超気が合いそうなんだけど!?あなたの名前は?」


「1年の久里山渚です。」


渚が自己紹介をすると沙織先輩は「久里山...?」と考え始め、


「もしかして、亜紀先輩の妹さん!?」


「あ、お姉ちゃんを知ってるんですね。」


渚がそう答えると沙織先輩は渚の両手を掴んでぶんぶんと大きく振り始めた。


「亜紀先輩は私の憧れなんだよ!この学校でも色々と武勇伝があるんだよ!」




お姉ちゃんの武勇伝?この学校での?


なんだろう、すごく聞きたい。



「たとえばどんなことですか?」


「勉強もすごくできたって聞いてるし、生徒会長もやってたからね。すごく運動もできたから部活はいろんなところから勧誘が来てたみたいだけどどこにも入ってなかったっぽい。強引に部活に入れようとしてきた部活の部員+顧問を全員ボコボコにして下僕にしたっていう噂もある!」


沙織先輩の怒涛の勢いで話す内容に渚は思わず頭を抱える。




お姉ちゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁんん!!!!!


なにやってんのおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!????


持ち前の頭脳と身体能力で無双していたみたいだけど、あの時期お姉ちゃん僕と修行ばっかりしてたんだけど、そんなにできてたんだ?


というか頭脳と体力を持ち余してたみたいだね。


最後のボコボコにしたっていう噂だけど、これは真実だと思う。


だってあの人、血の気多いから。


というか部員はともかく顧問はダメでしょ!?



「ちなみにその顧問は今まで女子生徒に対して不埒なことをしていたという証拠を亜紀先輩が校長に突きつけたため懲戒解雇となりました。」



お姉ちゃんナイス!さすが!!


やっぱりお姉ちゃんは間違ったことはしないからね!


「全身複雑骨折に内臓出血。入院して全治6ヶ月らしいよ?」


「...さすがお姉ちゃん。」


「ははは、さすが亜紀先輩の妹ちゃんだね!他の人に話したらみんな『やりすぎじゃない!?』っていうんだよ!」


沙織先輩の言葉に渚は思わず(やっちまったぁ...)というように頭を抱えた。


今は僕も「やりすぎ!」という反応をすべきだったようだ。



「お、話し込んでいる間に始まるみたいだ!それじゃあ渚ちゃん!メンバーは厳しいけど頑張ってね!」


沙織先輩が去っていく方向を見ながら渚は(いろんな人がいるんだなぁ)とホワホワしながら考えていた。


最初の走者は達也だ。スターターピストルの乾いた銃声が鳴った瞬間、4人は走り出す。



「イケメン死ねええええええ!!!」


「喰らえまきびし!!」


「喰らえ捕獲ネット!!」


達也に迫る多くの妨害行為に女子生徒からはブーイングの嵐が巻き起こるが、達也はその妨害をサラリとかわしていく。


しかし、達也は全く冷静ではない。


「ちょっお前ら!!いくらなんでも見境なさすぎだろ!?」


「うるせえ!お前みたいに運動ができて勉強ができてかっこいいやつなんて網に捕まってまきびしの上に倒れればいいんだ!そして涙で顔を濡らしやがれクソが!!」


「「「「そうだそうだ!!」」」」


「完全に私怨じゃねえか?!てかこいつら反則じゃねえの!?」


達也の声に反応した審判が校長に視線を送るが、校長はコクンと頷いた。


「イケメンに限り可、とのことです。」


「くそ校長がぁぁぁぁぁ!!!!!」


達也の雄叫びが校庭に響き渡り、待機中の生徒の鼓膜を揺らす。


「イケメンへの妬みって怖いわね?女子の結託並みに。」


「冗談でもやめてくれない?」


香織の呟きに佐々木さんがマジなトーンで言葉を返す。




最終的に一位は達也だった。



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